米国の大手半導体ファブレスベンダBroadcomが、シリコンバレーで開催されたアジアおよび欧州の技術ジャーナリスト向けの催し「euroasiaPRESS」 で、独自のIoT戦略を明らかにした。同社は2016年、Avago Technologiesに買収されることになっているが, 社名は買収される側の企業名Broadcomを継承することになっており、新生BroadcomのIoTビジネスに期待がかかる。
IoTを再定義してホームオートメーションに賭ける
まずは、世界規模の販売(world-wide sales)を統括するExecutive Vice PresidentのMichael Hurlston氏(図1)が、IoT市場における同社の狙いを話した。
「市場調査会社Gartnerは、インターネットに接続する機器に用いられるデバイスが2020年までに250億個の規模になると予測している。ABI Researchは、450億個、Ericsson Mobility Reportは500億個規模との見方をしている。ABIによると、450億個の分野別内訳は、小売・広告、ウェアラブル、産業、スマートホーム、スマートシティ、ホームエンターテインメント、モバイル、車載、と多彩だが、その他の分野も多い(図2)。現段階では市場規模がゼロに近い分野すらある。予測の数字がとてつもなく大きいのはIoTに対する期待の表れだろうが、現実との差が大きすぎる。半導体産業がいままで扱ってきた数字よりけた違いに大きな数字をそのまま事業計画に落とし込むわけにはいかない。そこで、当社はIoT市場を現実的な分野で再定義し、それをもとに事業戦略を立て、実行に移すことにした」(Hurlston氏)
同社が再定義したIoT市場の分野は、
- ウェアラブル
- 繋がる自動車(Internet of Vehicles:IoV)
- メディカル
- ホームオートメーション
の4分野である(図3)。
このうち、同社が最も期待をかけている分野はホームオートメーションだという。同社の推計によれば、ホームオートメーションに該当するネットワーク接続機器の市場規模は2015年の段階では2500万台(図4)。
このうち、85%に相当する2130万台がセーフティ & セキュリティ(インターネットを利用した安心安全目的の機器)が占める。280万台が2020年までにエネルギー(インターネットを利用して省エネルギー化を図る目的の機器)、120万台がアプライアンス(インターネットに繋がった白物家電などの機器)。セーフティ & セキュリティは今後年平均成長率77%で成長すると同社は予測している。エネルギーは74%で成長し、アプライアンスの成長は28%に留まる。この結果、2020年にはホームオートメーションに該当するネットワーク接続機器の市場規模は30億台を超えると予測される(図5)。2020年には、これだけの数のネットワーク接続用半導体デバイスが必要になると言うことだ。
Hurlston氏は、「個々の電子機器を別々に制御する"point to point(点から点へ)"の使い方から、複数のスマートな機器がシームレスにつながって連動する方向へ変化していく。いわば機器の質的変化により、ホームオートメーション市場は急拡大する」と見ている。
同氏は、それをいくつかの具体例で説明した(図6,7,8)。「今は、スマートフォンから玄関ドアの鍵の開閉や照明器具のオンオフを別々のアプリで制御するのにとどまっているが、インターネットに接続する器具が増加するにつれて、これら別々の機器をシームレスにつなげた使い方が可能になる。白物家電などでも同様で、機器が繋がれば繋がるほど、ユーザーにとってメリットが大きくなる」。
最後に、同氏は「IoT市場は誕生したばかりだ、今は市場規模はとても小さいが、10年先、20年先には大きく伸びる。IoTはとてつもなく大きなチャンスをもたらす。そのために必要なことは、可能性にすぎなかったことを具現化するということだ」と結論付けた。
WICIDを介してIoT推進エコシステムを構築
Broadcomが力をいれるホームオートメーションの分野で、ホーム機器のIoT化を促進するために市場投入しているのがWICED(Wireless Internet Connectivity for Embedded Devices)と名付けた、手のひらに載るほどの大きさの製品群である(図9)。
IoT担当シニアVPのStephan DiFranco氏(図10)は「WICEDは、アプリケーション用マイコンが搭載された組込機器向け無線LANモジュールで、これ1つでTCP/IPなどの無線LAN機能処理に加え、ホスト機器側のアプリケーション処理まで行うことができる。この開発キットを既存のホスト機器と接続するだけで、シリアル通信による無線LAN化も容易に実現できる」と説明する。
「オープンソース・コミュニケーションによりIoT普及のために広範なパートナー企業と組んでエコシステムを構築しており(図11)、ネットワーク技術に対する経験が少ない機器設計者でも"つながる家電機器"を簡便に実現できる。我々は無線LANやBluetoothなどでの相互接続性に関して長年経験を積んでいるのでWICIDを用いれば製造メーカーが異なる機器間を簡単に問題なく接続できる」と述べている。
WICED Senseと名付けられた製品には、温度センサ、湿度センサ、気圧センサ、ジャイロスコープ、加速度センサ、コンパスを内蔵しており、通信機能としてBluetooth Smartを搭載している。
DiFranco氏は「Broadcomは、ホーム(家庭)からワーク(勤務先)まで、そしてその通勤途上(車を運転中やスマホで連絡中)でのさまざまなシーンでモノをつなげて、IoTビジネスに注力してゆく(図12)」と話を結んだ。
Avago TechnologiesのBroadcom買収も、NXP SemiconductorのFreescale Semiconductor買収も、来るべき本格的IoT時代に備え、シナジー効果で品ぞろえを充実させる準備である。日本で多くの人々が注目するような車載半導体は、そのほんの一部にすぎない。Broadcomはプレゼンテーションの中で"つながる自動車"とか"Internet of vehicles (IoV)"という言葉を使っていたが、同社はそれよりははるかに大きな市場に目を向けていることが今回のプレゼンテ―ションで明らかになった。