富士通研究所は11月5日、シンガポールのイベント施設・スポーツ施設・商業施設において人や交通の混雑を緩和する実証実験を11月1日から2017年12月31日までの予定で開始したと発表した。2016年3月までに、富士通の位置情報活用クラウド・サービスである「SPATIOWL」への搭載を想定した実用化を目指す。

行動誘導モデルの図解

同実験では、イベントなどに参加した後に帰宅まで混雑が予想される状況で、自分に合った最適な行動や過ごし方をスマートフォンのアプリを通じて提案し、その効果を検証するという。行動の提案は富士通のAI技術である「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」を使用して生成し、提案内容を適切に調整することにより、混雑時間帯のシフトや交通手段の分散などによる混雑緩和を実現するとしている。

同社は、行動提案の受け入れやすさを定式化した行動誘導モデルを開発。同技術は、人の移動ニーズと事業者利益を両立させる開発済みの技術を基礎として、Zinraiの機械学習や予測・最適化などを用いたもの。

混雑緩和に結び付く行動提案のイメージ

行動誘導モデルを利用して、受け入れやすい行動を複数抽出し、そこからさらに、混雑の分散への貢献度が高いものを抽出することで、人々が受け入れ可能かつ混雑緩和に結び付く行動を発見できるという。発見した行動をスマートフォンに表示することで、最適な行動を提案するとのこと。

今回、受け入れやすい行動の事前検証として、シンガポールのスポーツ複合施設内におけるスポーツ・イベントにおいて500人を対象にアンケート実施し、以下のような結果が得られたという。

・混雑状況の推移予測を正確に通知すると、51%の人々がすぐに帰宅するよりも商業施設で時間を費やす
・さらに、400円相当のクーポンを提供すると、73%の人々が商業施設への立ち寄りを選択する
・さらに、900円相当のクーポンを提供すると、91%の人々が商業施設への立ち寄りを選択する

同社では、アンケーット結果に基づいて実際の施設や周辺交通を想定し、シミュレーションを行ったところ、施設を利用する1万人のうち、約40%がクーポンを提供することで行動を変えると仮定すると混雑を30%解消でき、さらに商業施設に40%の人々が誘導されることも分かったとしている。

同社は、シンガポールの複数の施設において、効果検証と性能向上を目的に2017年12月31日まで実証実験を行う予定で、実験結果の活用と変更した本技術の研究開発も進め、2016年3月までに富士通の位置情報活用クラウドサービス「SPATIOWL」への搭載を想定した実用化を目指すという。