日本の三大メガバンクのひとつであるみずほ銀行は、最適なタイミングで最適な商品やサービスを最適な手段で提案する「イベントベースドマーケティング(Event Based Marketing:以下、EBM)」に取り組んでいる。EBMは、顧客行動の詳細な変化を「イベント」ととらえデータベース上に蓄積し、それらを継続的に観察した結果をもとに顧客に適切なコンタクトを行うというマーケティング手法。たとえば金融機関の場合、ライフステージや財政状態などのデータをもとに、顧客が必要としているタイミングを推定し、商品やサービス、金融上のアドバイスを提供することが可能となる。

みずほ銀行 個人マーケティング部 データベースマーケティングチーム 吉澤陽子氏

米国カリフォルニア州アナハイムで開催されたTeradataユーザーグループ主催カンファレンス「TERADATA PARTNERS 2015」のセッションに登壇したみずほ銀行 個人マーケティング部 データベースマーケティングチーム 吉澤陽子氏によると、同行が本格的にEBMに取り組み始めたのは2006年。EBMを実施するにあたって、「収益の増強」という課題認識があった。金融機関では、上位2割が全体の8割を占めるという「パレートの法則」がより顕著に表れ、1割の顧客が9割の収益をもたらしているような状況だという。「私たちの部門は、マスの顧客を相手にしているので、残りの9割の顧客をどう収益化していくかが課題。銀行の店舗といったようなコストの掛かるチャネルに依存せず、潜在的な優良顧客を探し出し、個人単位のコミュニケーションを取りながら非対面のチャネルを強化する必要があった」(吉澤氏)

もうひとつの大きな課題意識として「顧客接点の拡大」があった。日本におけるEコマースの利用率は約50%と極めて高いが、インターネットバンキングの利用率はわずか10%と、先進16カ国のなかで最も低い数値となっている。また、店舗の利用率も30%程度と、こちらも低い。しかし、低いとはいえ、店舗の利用率は年々減少していく一方で、インターネットバンキングの利用率は増加してきている。「こういったチャネルを、他のチャネルと組み合わせてうまく使い、顧客との接点を確保していくことが課題だった」と吉澤氏は振り返る。

EBMではイベントを発見した段階で、それに対応するニーズは推定してあるため、レコメンデーションするサービスや商品の内容は自然と決まってくる。吉澤氏は「大切なのは、タイミングとチャネル」であるとする。

EBMの基本として、顧客とコンタクトをとるのは通常、イベントが発生してニーズが顕在化したタイミングだが、このタイミングやレコメンデーション内容があまりに正確だと、「自分の情報が漏れてしまったのではないか」「気持ち悪い」といったようなネガティブな感情を抱かせてしまい、かえって逆効果となってしまうことがあるという。「タイミングを、あえてイベント発生直後に設定しないということをやっている」(吉澤氏)

また、チャネルについて吉澤氏は「顧客の意思決定段階がどこにあるかを知り、その人の状態にあったコミュニケーションを考える必要がある」とし、コールセンターといったような有人チャネルは「AIDMA」、Webのチャネルは「AISCEAS」という考え方で意思決定のフェーズを分解し、その段階に応じたチャネルを選択していると説明した。

さらに吉澤氏は、「顧客が日常的に利用するチャネルを考えるのは当たり前。ひとつチャネルを選んだら、それをフォローするチャネルについても考えなければならない。また、そのチャネルの役割は、情報提供なのか、双方向のコミュニケーションなのか、クロージングなのかといったことを総合的に考慮すると、セールスできるサービスや商品が変わってくる」とし、それぞれのチャネルに対する理解を深めることの重要性を語った。

同行ではこういった取り組みの結果、顧客に当たった場合と当たらなかった場合を比較した「コミュニケーション効果」は、昨年度比1.6~3.5倍程度の実績を上げているという。

「(こうして事例を紹介しているが)決して私たちの企業が進んでいるというわけではない。日々、お客様のためにできることは何か、追求して、努力を積み重ねていくことがマーケティングの発展につながると考えている」(吉澤氏)