理化学研究所(理研)は10月30日、絶縁性の高い磁性体「磁性絶縁体」において磁壁が金属的性質を持つことを、走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を用いて観測することに成功したと発表した。
同成果は創発物性科学研究センター強相関界面研究グループの藤岡淳客員研究員と上田健太郎研修生、創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長、米国スタンフォード大学のジーシュン・シェン教授らの国際共同研究グループによるもので、10月29日付の米科学誌「Science」に掲載された。
今回の研究では、絶縁性を持ち磁気的界面の伝導性の比が最も高い磁性絶縁体であるパイロクロア型イリジウム酸化物「ネオジウムイリジウム酸化物(Nd2Ir2O7)」表面の伝導特性を、走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡を利用し評価した。
磁場をかけずに温度を下げるゼロ磁場冷却を行った後、温度が上昇していく昇温過程でインピーダンスを測定すると、常に磁性をもつ金属である常磁性金属から強い反磁性をもつ絶縁体である反強磁性絶縁体への転移温度以下ではインピーダンスは急に増加し、最低温では三桁ほど大きな値を示す。このとき、絶縁性の高い固体中に、磁壁の金属的性質といえる100nm以下の幅を持つ細線状の金属状態がランダムに分布しているのが観測された。一方、9Tの磁場を加えて温度を下げる磁場冷却を行った後に磁場をゼロに戻してから、昇温過程のインピーダンスを測定すると、ゼロ磁場冷却時よりもインピーダンスの増加が大きくなり、最低温においては二桁以上大きな値を示した。このとき、顕微鏡画像では磁壁の金属的性質を示す細線が消えており、磁場によって磁区がひとつに揃えられることで磁壁が消失することが分かった。
同研究グループは今後、固体中における磁性と電子状態に関する基礎的な理解を深めていくとともに、金属的磁壁を利用した新しい磁気メモリーの実現につながることが期待できるとしている。