ウイルスが原因の血液がんである成人T細胞白血病(ATL)の患者約400人の大規模遺伝子データ解析から、約50の遺伝子異常が生じていることが分かった、と京都大学、東京大学、宮崎大学などの共同研究グループが21日発表した。京都大学の小川誠司(おがわ せいし)教授は、「今回遺伝子異常の全体像を解明できた。診断や治療への応用が期待できる」としている。研究成果は米科学誌ネイチャージェネティクスに掲載された。
ATLは悪性度が高い血液がんの一種。母乳による母子感染などを通じ、乳児期に成人T細胞白血病ウイルス(HTLV)に感染したリンパ球の一つである「T細胞」に遺伝子異常が起きて数十年後に発症する。国内で100万人以上が感染していると推定されている。感染しても多くの場合は無症状だが5%程度が成人T細胞白血病になるとされる。発症までの数十年間にT細胞にさまざまな遺伝子変化が生じると考えられていた。今回遺伝子異常の全体像が明らかになった。
研究グループは約400人の血液などからがん化したT細胞を採取。スーパーコンピューターを駆使してがん細胞の全遺伝子情報(ゲノム)を分析するなど、大規模遺伝子解析作業を続けた。その結果、患者に特有の遺伝子異常を約50発見した、という。長いATL研究の中でも「包括的な遺伝子異常の解明は初」(研究グループ)という。ATLは1977年に見つかり、今年2月4日に亡くなった文化勲章受章者の故日沼頼夫(ひぬま よりお)京都大学名誉教授が81年にウイルスが原因であることを突き止めた。