国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は10月16日、低酸素ストレスにさらされたラット胎児の発育不良を人工赤血球で予防することに成功したと発表した。
同研究はNCNP精神保健研究所知的障害研究部の太田英伸 室長、神経研究所疾病第二部の李コウ 研究員、奈良県立医科大学の酒井宏水 教授、東北大学、早稲田大学、崇城大学、理化学研究所によるもので、10月16日に英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
同研究では、妊娠高血圧症候群で低酸素ストレスが加わる胎児への治療法を開発した。妊娠高血圧症候群は約5%の妊婦に発症し、重症例では母体死亡、胎児・新生児死亡を引き起こす。特に、高齢出産が進む日本では増加傾向にある。
これまで同症候群の原因物質として胎盤由来の可溶型VEGF受容体-1(sFlt-1)などが発見されており、これらの物質が胎盤血管を狭小化し血行不全を引き起こすため、胎盤の血液循環が妨げられ母子間のガス交換、栄養物質の運搬、老廃物の代謝が低下し、胎児が低酸素状態・子宮内発育不全になることがわかっている。
そこで同研究グループは、狭小化した胎盤血管を通過できる小粒径(250nm)でかつ高い酸素運搬機能をもつ人工赤血球を用いて、母体胎盤および胎児の低酸素状態を改善。その結果、妊娠高血圧症候群の原因物質である母体血中のsFlt-1が低下し、胎児発育も促されることを確認した。また、低酸素ストレスが与えた胎児の脳へのダメージも人工赤血球の投与で抑えられることがわかった。
今後、人工赤血球をベースとした新しいタイプの輸液を作製することで、妊娠高血圧症候群の治療法として帝王切開や早産など妊娠の終了だけでなく、その症状を軽減させる輸液療法も選択肢の1つとなる可能性が期待される。