オートデスクの年次イベント Autodesk University Japan 2015が10月9日、都内で開催された。2回目の開催となった同イベントの基調講演では米国オートデスク 最高マーケティング責任者のクリス・ブラッドショー氏が登壇。「The Future of Making Things―創造の未来」と銘打ち、ものづくりの現場において起こっている変化と、同社の最新情報を発表した。
同氏によればものづくりの現場では「製造」「製品」「需要」という3つの側面で"心配になるくらい"変化が起こっているという。例えば、「製造」で起こっている変化について同氏は「情報のやり取りの仕方が変わった。デザインのアイデアや進捗を世界中で共有することができるようになった。また、クラウド上で大きな演算能力を使用できるようになった。」と説明。また、変化は消費者が手に取ることのできる製品だけでなく、建築業界にも波及しており、ロボットの導入、予め部材を製造し建設現場で組み立てるプレファブリケーション手法、3Dプリンタの登場などによりこれまでにない建築物が生み出されているとした。
「製品」における変化としてブラッドショー氏が提示したのは製品の"スマート化"だ。IoTの普及により、多くの製品がネットワークに接続し、新しいかたちのサービスがすでに提供されている。同氏は「自動運転が今後普及すれば、私の孫達は運転をすることがないだろう」と予測した。
「需要」の変化では"カスタマイズ"がキーワードとなる。「例えばNIKEは、消費者がただ棚に並んでいる靴ではなく、『他の人とちょっとだけ違うものが欲しい』と思っていることに気づき、色を自分の好きなように変えたり、名前を印字できるサービスを提供している。」(同氏)。
ブラッドショー氏が語った「製造」「製品」「需要」における変化を体現しているのがレース技術を取り入れた車を開発・製造する英国のBriggs Automotive Corporationだ。同社の車は運転席がドライバーの好みにカスタマイズされているのが特徴で、解析技術などのテクノロジーを利用して開発期間の短縮を図っているほか、プレゼンテーションに3DCGを積極的に使用するなど、最新の技術を大いに活用している。
また同氏はクラウドがもたらす変化についても言及した。前述の通り、インターネット上で大きな演算能力を使用できるようになったことで、Generative Designという手法が生まれている。これは、コンピューターに設計仕様を入力すると、コンピューターがその条件を満たした設計案を作成するというもの。この手法のメリットは、人間では考えつかないような斬新かつ機能的なデザインが生まれる可能性があることだ。製造が難しいデザインが提案される場合もあるが、3Dプリンタを利用すれば複雑なデザインにも対応できる。ただし、コンピューターには美的感覚が無いため、複数のデザイン案の中から環境や目的に応じた適切なデザイン案を選択するのは人間の役割だという。
「Fusion 360」が日本語に対応
ブラッドショー氏はオーデスクの製品についてもいくつかの発表を行った。
まず、クラウドベースの3D CAD/CAM/CAE ツール 「Autodesk Fusion 360」が日本語に対応した。オートデスクの発表によれば、線形静解析と固有値解析が新たに実装されたほか、PC上の作業スペースを他のユーザーのディスプレイに表示してチャットしながらデザイン検討ができる「ライブビュー」機能が追加された。また、ユーザー同士が情報交換できる「フォーラム」が日本語で開設されるなど、エンジニア同士のコラボレーションを強化された。なお、同氏は「Fusion 360」をはじめとするオートデスク製品について「教育機関やスタートアップ企業には無料で提供しているので、ぜひ活用して欲しい」と付け加えた。
「Fusion 360」のほかには複数のデバイス間で作業進捗を共有することができる「Autodesk A360」も日本語に対応。同サービスでは100種類以上の2D/3D ファイルや書類を、ダウンロードやプラグインなしでブラウザ上に表示、検索できる。また、複雑なアセンブリ、設計モデル、データアーカイブ、およびプロジェクト進捗情報などの検索、フィルタリングが可能。iOS、Androidのモバイル端末からの利用も可能で、常に最新の状態で作業することが可能となる。
「Fusion 360」の新機能および「A360」は"コラボレーションを強化する"という点にスポットが当てられているわけだが、「コラボレーションの強化」は多くのCAD/CAE/PLMベンダーが注力している分野だ。ブラッドショー氏の講演前半で述べられたような製造・製品・需要におけるドラスティックな変化に対応するためには、さまざまな分野の専門家が力を合わせなければならない。また、Generative Designのように人間とコンピューターのコラボレーションが今までにない製品の誕生につながる可能性がある。そういった意味でブラッドショー氏の講演は「『The Future of Making Things』のカギは『コラボレーション』にある」という重要なメッセージを示唆していたと言える。