建設業が抱える共通の課題に現場業務の効率化と残業時間の削減がある。電気設備工事の設計施工を請け負う高橋電気工業株式会社(東京・月島)では、「Surface 3」を導入したことで、現場にいながらタブレット画面からCADソフトを操作して直接図面を確認したり、変更できるようになり働き方が大きく変化した。新築やリニューアル物件などの電気設備工事の現場では、施工の途中に電気施工図面の追加や変更が発生することがしばしばある。これまでは変更された図面の確認や印刷のため現場から会社へ戻って対応してきたが、往復の移動時間が業務効率化の妨げになっていた。
「Surface 3」導入、現場で直接処理が可能に
「必要なのは、CAD操作と見積書の作成。この2つを現場で対応できることで業務効率は格段に上がりました」。こう語るのは経営管理部の松井勇作部長だ。
中小の電気設備工事の会社では、施工担当者が営業担当も兼務する業務スタイルが多い。このため社員は日中、工事現場や得意先を回って外出していることが多いため、図面をCADソフトで制作したり、見積書を作成したりする事務業務は、夕方以降に社内に戻ってからの作業になるため残業時間が多くなりがちだった。また、出先で至急に対応しなければならない案件が発生した場合は、一旦会社に戻って図面を変更したり、必要な資料を準備したりして再び現場や訪問先へ戻って対応していた。
「『現場で図面が見られて修正できるようになりたい。いちいち本社に戻ってこなければならないのが負担』など現場からの要望は聞こえていました。特に残業時間や労働環境について労働基準監督署のチェックが厳しい近年、労働時間の管理や業務効率化は重要な課題になっていました」(松井氏)
電気配線一本の変更が1日がかりの工事に
解決策を検討した結果、『Surface 3』の導入を決意した。2015年9月より施工兼営業担当者にSurface3を配付し、出先ではSurface3、社内ではノートPCを活用する業務スタイルを開始した。必要なデータは、社内サーバーのフォルダに格納し、Surface3、ノートPCいずれからもアクセスできるようにした。Surface3からCADソフト、Microsoft Officeソフトも操作可能なので、現場にいながら電気配線図面の確認や変更、エクセルファイルを用いた見積書の修正などが可能になった。
具体的な導入効果は、以下の動画のようなものだ。
電気配線の変更情報が即座に現場に届くことで、工事の進行は大きく変わると話すのは工事部副長の中条道成氏だ。
「この扉にテナント社員のセキュリティチェックをするための入館システムが必要だった。天井に電気配線をもう1本追加したい」といった要望は工事を進めるうちによくある話だという。しかし、変更箇所を知らないまま現場で工事を進めてしまい、後から追加工事をすると非常に手間がかかる。
「最初の図面通りに電気配線を通し、天井を取り付けた後に1本配線を増やすとなると、取り付けた天井の隙間から電線を通さねばならなくなります。今は、天井を高く設計する建物が多いため電気配線のスペースが非常に狭いので、やっと通せる隙間に配線を通すために、1日掛かりの工事になることもあります」(中条氏)
先に情報を知っていれば、追加された電線数で工事を行った後、最後に天井を取り付けられる。効率的な工事手順を踏むためにも早く情報を入手できることの効果は大きい。
これまでは、顧客から変更内容の相談が入ってから、現場担当者が変更内容を把握するまでタイムラグがあったため、効率の悪い工事進行になることもしばしばだった。
「以前は、いちいち本社へ戻ってPCから図面を確認し、変更した図面を印刷して現場に戻って職人さんに指示を出していました。現場と会社の往復に1時間~2時間は費やしてしまいます。追加で機材が必要な場合も、すぐに協力会社に手配できていればその日に機材発注できたのに、注文時間を過ぎてしまい手配が翌日になり、工期が伸びてしまうこともありました。『Surface 3』があれば、変更を受けた担当者が出先からCADソフトを操作して電気配線図を変更でき、現場担当者の「Surface 3」へ送付できます。現場担当者は『Surface 3』からCADソフトの画面を開き、電気配線図の変更箇所を確認して工事スケジュールを調整できます。その場で素早い対応が可能なので工事の効率化に繋がっています」(中条氏)
このほか、若手社員の技術の質の向上にも役立っている。電気工事の知識は広いので、若手社員が現場で分からないことに直面するケースもよくある。そんな時は、「Surfase3」のカメラ機能で写真を撮って、上司に画像をメールする。経験のある上司が画像を見れば、すぐに解決策を指示でき、現場でも工事を進めることができる。
図面の変更連絡なども「Surface 3」からリアルタイムに確認。マウスとキーボードも使えるので、隙間時間で図面変更も可能(左)。変更後の図面を「Surface 3」を見せながら職人へ指示。拡大できるので見やすい(右) |
Windowsベースの「Surface 3」は違和感なく浸透
導入してすぐに現場での活用が進んでいるのは、「Surface 3」が現場で求める業務内容にマッチしていたからと工事部次長の石津川和之氏は説明する。建設・電気設備の業界で、標準的に使われるCADソフトは、「JW-Win」というWindows ベースのフリーソフトだ。
「お客様側の設備担当者から『こういう図面を書いてください』と依頼を頂いたり、双方で修正のやり取りをしたりするのですが、お客様側では高価なCADソフトではなく、フリーソフトをご使用になります。このため、『JW-Win』を用いることが多いのです」(石津川氏)
Windowsベースのタブレットである「Surface 3」は、「JW-Win」を直接操作することができるため、現場で活用しやすく現場に馴染んだ。これまでもノートPCは貸与されていたが、現場に持ち込むには不便だった。
「お客様が働いているオフィス内で電気工事を行うことも多く、悠長に座ってPCが立ち上がるまで待っている状況ではないのです。また、工事現場に持ち込めば故障の心配もあります。すぐに起動して立ったまま片手で操作できるタブレットが、現場にはぴったりだったという結論です」(石津川氏)
「Surface 3」は普段使っているノートPCと同じパソコン感覚で使える。タブレットを使うために新たに何かを習得しなければいけないということがなく、現場にもすぐに受け入れてもらえたという。
即時対応が当たり前の時代に
「以前なら見積書の修正も、半日や1日待ってもらえましたが、今は即時対応が当たり前になってきました」と石津川氏。現場や得意先をまわって夕方戻ってから会社のPCで事務処理をするのでは、間に合わない時代になってきていると感じるという。
実は4年前からタブレットを導入して社外でも業務が行えるように効率化を図ろうと準備を進めてきた同社だが、最初に導入したタブレットはWindows ベースではなかったため、現場で「JW-Win」を操作することができなかった。リモートビュー経由で操作できる仕組みを整えたものの、リモートビュー画面では『JW-Win』が上手く動かないなどの課題があった。また、Microsoft Officeを操作できるアプリを導入し社外でも見積書の修正などが行えるようにしたものの、アプリから見積書を修正する作業が難しかったという。
「タブレットからアプリ経由で見積書を修正し、お客様に送付したところ、計算が反映されておらず『直ってないよ』とご指摘を受けるなど、使いこなすことが難しいのが課題でした」(石津川氏)
さらにスピード感のある業務を目指して
「お客様からは、驚きの声はあります。『今、図面送ったのですが、確認してもらって現場見てもらえますか?』と依頼があった際にも『今現場にいます。今見ますよ』とお伝えしてその場で回答できるので、『すごいね』とご満足頂いています」(石津川氏)
同社の強みは、大手の競合他社と比べて「小回りが利くこと」だと石津川氏はいう。配線の変更や設計の変更は、通常は一から見積もりなど手順を踏む必要があり時間がかかる。
「当社は、少々の変更は見積もりなど取らず、その場で受けて最初の工事行程の中でついでにやってしまいます。『Surfase3』を導入したことで、当社の強みがさらに加速できると感じています」(石津川氏)