2006年12月に動画共有サイト「ニコニコ動画」を開始し、インターネット動画の礎と文化を創ってきた株式会社ドワンゴ。そのドワンゴが運営するniconicoは、2015年8月に会員数が5,000万人を突破し、幅広いユーザーのコミュニケーションの場として今でも成長を続けています。今回はniconicoというメディアがどのように生まれ、運営されているのか、特徴的なユーザーを抱えながらどのように広告と向き合っているのかなど、鋭く切り込んで聞いてきました!
まずはじめに、永山さんの自己紹介をお願いします。
私は2008年の4月に新卒として株式会社ドワンゴに入社をして、入社以来これまで一貫して、純広告のオペレーションとniconicoを使ったコミュニケーションプランニングを行なってきました。2013年からアドテク領域も兼任し、広告マネタイズ全般に携わっています。
niconicoのサービス概要と特徴について教えてください。
私たちが提供しているniconicoは、一言でいうと「コミュニケーションプラットフォーム」です。一番有名なのは「ニコニコ動画」ですが、その他にも「ニコニコ生放送」や「ニコニコチャンネル」、「ニコニコ静画」など多くのサービスを展開しています。それらのサービスの共通プラットフォームとなるのが「niconico」です。
現在niconicoの登録ユーザー数は5,000万人、その中で月額540円のプレミアム会員が250万います。月間のアクティブユーザーは873万人、1日あたりの平均利用時間は100分を超えます。この1日あたりの平均利用時間は、日本のウェブメディアの中でもかなり長い方ではないかと考えています。メインのユーザー層は、年齢では10代から20代が多く、性別では全体の34%が女性のユーザーです。
niconicoの広告マネタイズを支える運用体制
niconicoの広告マネタイズの歴史を教えてください
niconicoの中でも最も歴史があるのは、皆さんよくご存知のニコニコ動画です。ニコニコ動画は、2006年12月にリリースをして、翌年2007年6月から、最初のマネタイズ手段として、プレミアム会員制度と純広告のセールスを開始しました。その翌年2008年からはニコニコ生放送というコンテンツの中で、スポンサーさんの番組を作るといったタイアップ型の広告商品も開始しました。そして昨年2014年からは、動画広告も運用を開始しています。
純広告とネットワーク広告とを、どのように切り分けを行っているのでしょうか?
もちろん会社として優先すべきは純広告やタイアップ広告などの直接広告なので、そこには多くのリソースを割いており、商品企画や広告商品の設計なども多くの時間をかけて行っています。たとえばニコニコ超会議では、リアルと絡めたコミュニケーションプランニングを各広告主さんとやったり、最近ですと、TOYOTAさんと「電王戦×TOYOTA リアル車将棋」と称して、本物の車を駒に見立てて将棋の対局を行うといったことを生放送で行ったりもしました。一方でniconicoは様々な純広告のメニューを用意していますが、そのすべてが埋まることはありません。ですから、そのようなときにネットワーク広告でマネタイズを行っています。
多くの事業者が御社のところに営業にくると思うのですが、どのようなポイントでネットワーク広告の事業社を選んでいるのですか?
一番重要な指標は、もちろん収益の部分です。枠ごとに成果が大幅に異なるので一概には言えませんが、現在15社ほどの広告事業者を使っています。1つのネットワークやSSPと深く付き合わず複数のネットワークを配信する理由は、複数のネットワークを配信したほうが収益が良いということだけではなく、何かの要因で配信しているネットワークが止まった時に、すぐに対処できる別ネットワークを備えておくという意味合いもあります。
収益性以外では、広告のフィルタリング機能やブロックの機能も重要視しています。業種で絞ったり特定のドメインを弾いたりできるのか、niconicoの世界観を損なわないような事前準備ができるかということも、とても大切だと考えています。
そして、ニコニコを好きでいてくれるのか?ぼくたちが何かを始めるときに、「それやめたほうがいいです」と忌憚ない意見を言ってくれるのか?といったniconicoというメディアへの理解度が実はすごく大切だと思っています。niconicoのことを本当に好きでいてくれる担当者さんだと嬉しいなと思います。
現在はどのような運用体制なのでしょうか?
運用は3人体制で行なっています。誰かじゃないとこの作業が出来ないといった属人的な仕事が生まれないように、全員で全部の仕事を行っています。特に日々数値の変動が生まれやすいネットワーク広告は、毎日数字の確認をチームの全員で行っています。中でもスマートフォンの広告は日ごとのeCPMの変動が大きいため、毎日のチューニングが不可欠だと考えています。様々なネットワーク事業者の数値を比べながら、3人で協力して行っています。現在私たち管理している枠の数は800近くあるため、もちろん全枠を毎日チューニングすることはできません。したがって、枠を収益順に並べて、収益性の高い枠を優先的にチューニングしています。
niconicoを運営する上で特に広告の部分において気をつけていることはありますか?
これは言わずもがなですが「ユーザーを大事にしよう」ということです。何をやったらユーザーは喜んでくれるのか、逆にどういうことをしたらユーザーは不快なのかを社員全員が念頭に置きながらサービスを作ったり、広告を設置したりしています。特にタイアップ広告などは、もちろん広告主さんの広告を作っているのですが、その中でもどうやったらユーザーが楽しんでくれるのかを常に意識し設計しています。
競合サービスは可処分時間を奪いあっているものすべて
niconicoはよくYoutubeと比べられると思いますが、Youtubeがやはり一番の競合ですか?
ニコニコ動画にとってはYoutubeも動画共有サービスとして1つの競合ではあります。しかし、niconicoというコミュニケーションプラットフォームにとっての競合は、決して動画共有サービスだけではありません。現在日本には多くのメディアが存在しますが、これらはユーザーの可処分時間の奪い合いをしています。自分の行動を思い起こしてみても、電車に乗りながらニュースサイトを見たり、TVを見ながらスマートフォンでゲームをしたり、可処分時間の中で様々なサービスを利用しています。このようなユーザーのコンテンツの消費に対して、niconicoにいかにユーザーを集められるかというのが今後重要になってくると思います。そう考えると、Youtubeだけでなく、LINEやFacebook、もちろんテレビや雑誌など可処分時間を奪いあっているものすべてが競合になりえます。
可処分時間を他サービスより長く押さえるためには、よりメディアに特徴を出していく必要があると思いますが、どのように特徴を出しているのですか?
1つ目はコンテンツが進化するという世界観です。ニコニコ動画では、動画を見たユーザーがリアルタイムにコメントを記入することができ、動画内に様々なコメントが増えていくことで、動画という1つのコンテンツがどんどん新しいコンテンツに進化していきます。そのため、ユーザーは同じ動画であっても、違うコンテンツとして毎回新鮮味を持ってコンテンツに触れることができます。結果的にniconicoの平均滞在時間は100分を越えており、ユーザーはコンテンツを見ながらコメントを書いたり、コメントを読んだりしながら長時間をniconicoに費やしています。
2つ目の特徴は、niconicoではニコニコ超会議やニコニコ本社といったリアルなものもインターネットと絡め、立体的なコミュニケーションができるという点だと思います。ネット上のコミュニケーションとリアルなコミュニケーションの連動性を楽しみたいというニーズに応えられている唯一のメディアだと思っています。
これらのメディアの特徴を、今後広告主にとっての価値に転嫁するために、どのようなことが必要でしょうか?
現在主流であるRTBなどの手法は、広告枠とユーザーという単位でしかメディアの価値を判断できません。そのためメディアの価値が適正に評価されていないと思っています。今後はメディアの1PVの価値の算出方法そのものを変えていく必要があるのではないでしょうか。たとえば、ユーザーがサイトを見る姿勢、使う姿勢などが可視化することができたら、そこで差別化できるのではないかと思います。具体的には、テレビを見ながら携帯電話をいじっているときに表示されているサイトの1PVと、niconicoで動画を見ながら、さらにその動画にコメントを書いている時の1PVの違いなどがアドテクで可視化されたら、本当に面白いなと思います。
niconicoの今後の展望
今後niconicoで活用していきたいことはありますか?
今後やっていきたいのはDMPとPMPです。DMPを使う理由は、データを活用してユーザーにマッチした広告を配信し、広告効果を高めたいからです。ユーザーが少なからず広告によってストレスを抱えている可能性があるので、それをできるだけ軽減したいという想いがあります。よってDMPは自社のデータを活用するプライベートDMPの活用を検討していきたいと思っています。
またPMPに関しては、環境が整い次第始めたいと思っています。PMPにも色々なレイヤーがあり、純広告の定義が曖昧になってきたり、今のアドテクの配信構造が変わってきたりすると思います。そのように構造が変わったときに広告ビジネスを継続できるように、もしくはこれまで以上にスケールしていけるような土壌を作っていきたいと思います。
現在のアドテクにおいてメディアの価値を広告において出すのはとても難しいと思っています。たとえばniconicoではニコニコ超会議といったリアルと連動した立体的なコミュニケーションプランニングを行ってメディアの価値を高めていますが、インターネット上の広告単体においては、バナー広告はただの枠という扱いで、広告が見られた回数やクリックされた回数でしか評価がされません。そこで今後はPMPを活用し、メディアが持っている情報をもっと幅広く利用することで、広告主さんと価値に見合った取引をしたいと思っています。
最後に、アドテク事業社への要望や課題などはありますか?
日本の市場だけで見ると、アドテクは広告主さんの方を向いている単語であり、仕組みという印象が強いように思います。単純にアドテクを提供する事業社の数で見ても、広告主側を担当するDSP業者はとても多いですし、メディアにメリットのあるテクノロジーはそんなに多くない印象です。メディアの立場としては、もう少しメディアやユーザーにとってイノベーティブになってほしいというのが本音です。現在は最適化を進めていく中でCPCやeCPMが下がっていく世界観になっているので、メディアの価値をしっかりと測れる指標作りや、1インプレッションの価値を高めるような提案があるとメディアへの風向きがぐっと変わるんじゃないでしょうか。我々と一緒にそのあたりの指標やプロダクト作りに魂をこめて専念していただきたいです。
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本稿は、adingo Marketing Magazineに掲載された記事を転載したものです。