東京大学は9月4日、オキシトシン経鼻剤の連続投与によって、対人場面に現れる自閉スペクトラム症中核症状が改善することを発見したと発表した。

同成果は同大学医学部附属病院 精神神経科の山末英典 准教授らによるもので、9月4日に英科学誌「Brain」電子版に掲載される。

オキシトシンは、脳から分泌されるホルモンで、女性での乳汁分泌促進や子宮平滑筋収縮作用が知られている。また、脳の中でも作用していることが指摘されており、動物では、親子の絆を形成する上でオキシトシンの働きが重要であるとされるほか、人でも、健常な成人男性への経鼻スプレーを用いたオキシトシンの投与によって、他者と有益な信頼関係を形成して協力しやすくなること、相手の表情から感情を読み取りやすくなること、などが報告されている。

山末准教授らはこれまでの研究で、オキシトシンを1回経鼻投与することで、自閉スペクトラム症で低下していた内側前頭前野と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に他者の友好性への理解が改善されることを報告していた。一方、その後海外で行われた臨床試験において、連日投与では有意な効果を見出せないとされていた。

今回の研究では、自閉スペクトラム症と診断された20名の成人男性を対象に、オキシトシン経鼻剤を毎日2回ずつ連続して6週間使用し、使用前と使用後に対人場面での自閉スペクトラム症中核症状や脳機能などを評価した。臨床試験は、20名の参加者をオキシトシン経鼻剤の使用期間に続いてプラセボ経鼻剤の使用期間を受ける10名と、その逆の順番(オキシトシン経鼻剤使用前にプラセボ経鼻剤を使用)で受ける10名に無作為に分けて行われた。

その結果、オキシトシン投与前後ではプラセボ投与前後に比べて、対人場面での相互作用の障害という中核症状の改善が有意に認められた。また、内側前頭前野と呼ばれる脳の領域の機能が改善し、この脳機能の改善が強い参加者ほど中核症状の改善効果も強く認められた。1回の投与で効果を認めた他者の友好性を理解する方法の改善と脳活動の改善については、連続投与でも概ね同じ程度の効果があった。

現在、同研究グループは、オキシトシン経鼻剤の効果をより大人数で確認するため、名古屋大学、金沢大学、福井大学と共同で114名を対象とした臨床試験を行っており、2015度中に試験を終了する予定だ。

中核症状の軽減

安静時脳機能結合性の上昇と中核症状の改善

他者の友好性を理解する方法の改善と脳活動の改善