米ニューヨーク州のAndrew M. Cuomo州知事(図1)は、8月下旬、オーストリアの半導体メーカーamsの大規模な半導体工場(図2)を同州に誘致することに成功したと発表した。同知事によれば、これによりニューヨーク州内に20億ドル規模の投資と1000名を越える雇用が生まれるとしている。amsもオーストリア本社で同様の発表を行った。
図1 Andrew M. Cuomoニュ―ヨーク州知事 (出所:ニューヨーク州Webサイト) |
図2 米国ニューヨーク州Utica近郊に建設されるamsの半導体工場の完成予想図 (出所:ニュ―ヨーク州Webサイト) |
実はニュ―ヨーク州は、世界第2位のファウンドリGLOBALFOUNDRIES(GF)の量産工場「Fab 8」やGFがIBMから譲渡された「East Fishkill工場」などの大規模半導体工場を多数有する半導体製造拠点となっている。
一方のamsは、オーストリアに本拠を置くアナログICおよびセンサメーカーで、1981年、オーストリアの鉄鋼会社フォエスト・アルパイン(Voestalpine)と米国半導体メーカーAmerican Microsystems(AMI)による合弁企業として発足した。日本進出は1994年で、2000年に東京に日本支社を設立。2012年に社名を旧来のaustriamicrosystemsから頭字語のamsに変更し、2014年には日本に車載半導体設計拠点を開設したほか、2015年5月に世界で13番目のセンサソリューション設計センターを東京に開設し、民生用、通信用、産業機器、医療用および車載用の高性能センサやアナログICの設計を行っている。amsはIoTのメガトレンドに乗って世界に向けて半導体ビジネスを急成長させることを目指し、IBMやTSMCとも技術提携し、IBMからCMOS技術の供与をうけつつ、TSMCに向けて自社独自技術とそのノウハウの供与を行っている。
今回、amsがニューヨーク州に建設を計画している半導体工場は200/300mm対応のもので、同州中央部のUtica近郊(図3)に2016年春より建設を開始し、2017年半ばに竣工、2018年初頭の生産開始を予定している。土地は、ニューヨーク州立大学(つまりニュ―ヨーク州政府)が将来の発展に備えて保有していたもので、そこに建物を州政府が建設し、amsに貸与する形をとることで、誘致したamsの経済的負担を軽減する。工場(ファブ)そのものの床面積は36万平方フィート(3万3000平方メートル)で、オフィスや付帯設備などを含めた建屋群の総床面積は60万平方フィート(5万6000平方メートル)としている。同工場では、産業用、医療用、自動車用、民生用、通信用のアナログ、パワー、ワイヤレス、センサ、MEMSなどの半導体チップを製造する計画。
amsは現在、オーストリアに200mm工場を有しており(図 4、5)、生産能力は年産18~19万ウェハ。0.8μm/0.35μm/180nmデザインルールのCMOS、高耐圧CMOS、およびSiGeプロセスを用いた自社製品の製造を行っている一方で、一部でファウンドリ事業も行っている。この工場は老朽化し、生産能力も限界に近いため、amsのCEOであるKirk Laney氏はかねてより、次の工場建設場所を探しており、ニューヨーク州より、工場建屋貸与という誘致条件を示されたため、欧州ではなく、米国への進出を決めたようだ。
図4 オーストリアにあるamsの既存の200mmウェハ対応ファブの外観 (出所:ams Webサイト) |
図5 オーストリアにあるamsの既存の200mmウェハ対応ファブのクリーンルーム内部の様子 (出所:ams Webサイト) |
新工場では、130nmプロセスを用いて、200mmウェハ換算で年産15万枚規模で生産をはじめ、最終的には、もっと微細なプロセスで45万枚規模まで増産していく計画。amsが同地で700名以上の従業員を募集するほか、工場を維持管理するためのさまざまな設備を担当する下請け業者も500名以上の従業員を募集する予定で、合計で1千数百名の雇用がニューヨーク州内に生まれるとCuomo州知事は州民に説明している。
GEの先端パワー半導体製造施設も誘致
またamsの誘致と時を同じくしてCuomo州知事は、General Electric(GE)の研究開発子会社GE Global Researchの次世代SiCパワー半導体デバイスのパッケージング施設をUtica近郊にあるニュ―ヨーク州立大学Polytecnic Institute(工芸大学群)College of Nanoscale Science and Engineering(CNSE:ナノスケール理工学単科大学))UticaキャンパスのComputer Chip Commercialization Center(コンピュータ用半導体チップ商用化センター)内に誘致することに成功し、500名規模の雇用が期待できると発表している。
ニュ―ヨーク州は、Cuomo知事の肝いりで2014年にNew York Power Electronics Manufacturing Consortium(図6)を結成し、GEとCNSEが主導して次世代パワー半導体デバイスの実用化を進めてきているが、今回のGE施設のUticaへの誘致は、このコンソーシアム活動の一環である。GEによれば、同社は過去50年以上にわたってSiC材料およびデバイスの研究をしてきたパイオニアであり(図7)、実用化でも他社をリードすべく、積極的にこの分野に投資しているという。
これらのamsおよびGEの新施設の土地と建屋はともに、ニュ―ヨーク州立大学の所有であり、ニュ―ヨーク州が建設および管理責任を持つ点が共通している。いずれも産官学が連携して事業の発展をめざす。
"NY lovesNanotec"をスローガンに掲げるニュ―ヨーク州は、世界のナノテク研究・製造の中心拠点になろうと、Cuomo州知事が先頭に立ってさまざまなナノテク推進施策を連発している。 州都AlbanyのCNSEキャンパスにはSematechやGlobal 450mm Consortium、Power Electronics Manufacturing Consortiumなどのコンソーシアムを誘致し、IBM、東京エレクトロンはじめ多数の企業に研究所を誘致している。先端デバイス試作用クリーンルームの共用や大学との共同研究や大学の実験・分析装置の利用などを通して産官学のコラボレ―ションを推進している。ニューヨーク州を世界のナノテクの中心(メッカ)にする計画は名実ともに着実に前進しているように見える。