カルボン酸をより有用なアルコールに効率よく変換できる触媒を名古屋大学の研究チームが開発した。研究の究極の狙いは、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を有用な物質に変換することにある。カルボン酸をCO2から合成する方法は既に数多く知られており、今回の研究成果と組み合わせればCO2の資源化も期待できる、と研究チームは言っている。
酢酸やアクリル酸などの総称であるカルボン酸は、石油化学工業で大量に生産されるほか天然にも豊富に存在する。これを燃料のほか医薬品、農薬、香料、化粧品、洗剤、繊維などの原料としても幅広い用途があるより有用なアルコールに変換する意義は大きい。しかし、これまでに見つかっている触媒を使った反応では、変換できるカルボン酸の種類が限られる上、大きなエネルギーを必要とし、さらに副生成物が多く目的のアルコールだけを得ることが難しかった。
名古屋大学理学研究科の斎藤進(さいとう すすむ)教授らが開発した触媒は、ルテニウム錯体と呼ばれる。ルテニウム錯体自体は、新しい化合物ではない。既に1973年にその業績でノーベル化学賞を受賞した英国のジェフリー・ウィルキンソン氏らによって合成されている。さらに2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治(のより りょうじ)氏の受賞理由も、ルテニウム錯体を用いた研究業績だった。斎藤教授らの研究で、ウィルキンソン氏らによって合成されたルテニウム錯体が、特殊な添加剤を加えて高温・高水素圧にした条件でのみカルボン酸をアルコールに変換できること、また野依氏らが開発したルテニウム錯体もわずかではあるものの変換できることが確認された。ただし野依氏らが開発したルテニウム錯体にも、無視できない量の副生成物ができてしまうという問題がある。
新しく開発されたルテニウム錯体は、ルテニウムと結合している配位子と呼ばれる有機分子部分が有機リン系であるのが特徴。この構造によって、ウィルキンソン氏らの錯体ではできない温和な反応条件でもカルボン酸をアルコールに変換することが可能になった。CO2から作られるカルボン酸、バイオマスに含まれるカルボン酸をはじめとする大きいカルボン酸も変換でき、副生成物も少なく、高い割合で目的のアルコールを得られることが確認できた。
今回の成果を基に今後さらに活性の高い触媒を開発すれば、天然に豊富に存在するカルボン酸を再生可能資源とすることで持続可能な炭素循環社会に寄与でき、さらにはカルボン酸をCO2から合成する技術と組み合わせればCO2の資源化にも貢献することが期待できる、と研究チームは言っている。
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