イメージセンサはすでに人の目を越え、さらにその先へ
ソニーはメージセンサの3大事業方針として
- モバイル向けイメージセンサ/カメラモジュールの事業拡大
- デジタルカメラ向け大型・高性能センサによる高付加価値化
- センシング用途など新市場の創造(後述)
を挙げている。
大場氏は、「上司からは『将来のイメージセンサを考えるな、将来のイメージングワールドを考えよ』と常々いわれている。私たちは、将来どのような世界が出現するのか、その中でどのような技術や商品が必要になってくるのか、を見据えてそれに向けて長期的開発ロードマップを立案している」と言う。「CMOSイメージセンサの技術開発が進み、人間の目を越える目標は達成され、今後はさらにはるかに超えていく。その時、イメージセンサの価値はどこにあるのか、どんな価値を創出できるのか、戦略的思考をこの1点に集中させている」(同氏)。
大場氏は、5つの観点で人の目とイメージセンサを具体的に比較してみせた(図7)。第1の観点は速度の限界。動画は60コマ/秒で撮っている。人間の目の限界は240コマ/秒と言われているが、最新センサはすでに1000コマ/秒を達成している。ソニーは1000フレーム/秒の超高速連写可能なカメラの販売を始めている。
第2の観点は感度の限界。肉眼では見えない暗い所で見えるかどうかということ。ソニーのミラーレス一眼カメラに搭載したセンサでは、ISO40万という感度で撮影ができ、肉眼ではまったく何も見えない、ほぼ真っ暗闇でも撮れるようになった。
第3の観点はダイナミックレンジ(明暗差)の限界。第4の観点は視野(画角)の限界、第5の観点は肉眼で見える距離の限界で、いずれもイメージセンサがすでに人間の目を超えている。
IoT時代のイメージセンサ市場は1000億個規模をめざす
イメージセンサ市場でモバイル端末の次のけん引役になるのは何か?。大場氏は、「それは、IoTやIoE実現に必須のセンシング用途だ。イメージセンサによるイメージング市場は10億個規模だが、センシング市場が加われば、イメージセンサ市場は10年後には100億個に、20年後には1000億個に成長する」と言う。
IoT/IoE時代には、人が見る「human vision」からモノが見る「machine vision」へとイメージセンサ市場の主役が変わり、「そうなればイメージセンサの性能が人の目を越える価値が意味を持つようになる」(同氏)。
イメージセンサを備えたカメラの将来的な活用の場は、
- 軍事・防衛などの治安維持
- 環境・エネルギー、防犯・防災・社会インフラ、健康・医療・高齢者支援、農業、交通(ITS)・自動車などの社会問題解決
- 製造・流通・販売などの経済活動合理化
- 教育・学術・スポーツ、エンターテインメント(楽しさ・感動)、コミュニケ―ションなどの文化的・精神的充実化など
行政、産業から民生に至るまで幅広い。
大場氏は、この中で自動運転を特に取り上げて詳しく説明した。ソニーは、自動運転車開発ベンチャーと組んで自社のイメージセンサ技術を生かして自動運転技術の開発を始めている。カメラシステムの巨大な市場になることが期待されているからだ(図8)。
同氏は「自動運転車の実現には、さまざまなイメージセンサが必要だ。信号機、道路標識、歩行者、障害物、対向車、前方車、後方車などがそこにあると認識するだけでは不十分で、次にそれがどうなるかを予測できないと、自動運転はできない」と言う。さらに続けて「現在車載用として一般的な130万~200万画素のセンサでは、そこにあるという認識しかできない。次の動きを予測するためには、もっと高解像度・高感度のセンサが必要だ。夜や暗いところ、悪天候、雨による反射、街路樹による影、逆光、明暗差などへの耐性も必要だが、イメージセンサはすでに人の目を超えているので、ほぼ十分なロバスト性を確保できる」(同氏) とし、「交通インフラ関連の課題は技術で開発する」と述べた。
同氏は、イメージセンサのセンシングへの進化に際して、認識・測距、抽出、高速処理などの新機能の実現にあったてはシステムソリューションで解決したいと述べ(図9)、大学などアカデミアとの協業を行っていることを明かした。
そして最後に「イメージングの深化とセンシングの進化で新たな感動・価値を提案・提供し、新たな市場を創造していく」と決意を述べ、「異文化・異業種との共創が鍵となろう」と話を結んだ、