自分たちが書いたプログラムで新たな価値の提供を

ビジネスSNS「Wantedly」は、熱意のある人々がさまざまな場で働くことができることを目指して2012年2月に提供が開始されたサービスだ。従来ながらの求人媒体とは異なり、人と人とのつながりや、それぞれの人の思いを軸にして、人と会社をマッチングすることに重きが置かれている。Wantedlyを運営するウォンテッドリーでは、ここにきてサービス領域の拡大にも注力。その一環として今年4月には、名前や社名からWantedlyユーザーを検索して自身の人脈の最大限の活用を促す新サービス「Sync」をリリースした。

ウォンテッドリー CTO
川崎禎紀氏

そんなウォンテッドリーのCTOを務める川崎禎紀氏は、Wantedlyのサービス開始から間もない2012年4月に同社に参画。創業者2人に続く3人目のメンバーとなる。そのきっかけは、共通の知り合いを通じて創業者2人の下へと遊びに行ったことにある。話が弾んで足しげく通ううちに、知らない間に自身も一員となっていたのだった。

「そんな経緯ですので、人とのつながりが大切だというのは、自分自身の原体験でもあるんですよ」(川崎氏)

前職は、外資系の金融機関で社内のトレーディングシステムの開発に携わっていた。プログラムを書くことで新たな価値を生み出せるような仕事を探していた学生時代の同氏にとって、当時の日本企業にはなかなか意にかなう会社は見つからなかったという。

「だけど、ここ2~3年の間に日本でもスタートアップ界隈がすごく盛り上がってきました。自分が書いたプログラムによってユーザに価値を届けることができる、いい時代になったなと感じています」(川崎氏)

ウォンテッドリーのエンジニア陣はビジネスの拡大ともに増員を続け、現在は20人強となっている。そこでは敢えてディレクターの役割は置かれず、各チーム構成もできる限り少人数となるよう留意されている。

「それぞれのチームがスタートアップのようなマインドで活動できるように心がけています。コスト管理などについても、エンジニアの中で資質のある人たちに任せています。たとえばもし100人もの開発チームとなってしまうと、自分たちがつくるプロダクトへの愛情がわかないでしょうから」と川崎氏。

そんな同社のエンジニアリングの特徴について川崎氏は、「新しいものを取り入れることをおそれないことにある」と言う。

「新しいから良い、古いから悪いというわけではありませんが、エンジニアそれぞれが、そのときそのときの問題を解決するために最適な技術を見極めていけるように心がけています。現場のエンジニアたちが、自分たちで調べてきた新しい技術について次々と提案してきてくれるのが当社の面白いところだし、とても誇りに感じている部分でもあります。日頃から積極的に情報収集していなければ、そうした提案はなかなかできないでしょう。あと、エンジニアという人種は、新しい技術を使ってみたいという気持ちがどうしても強いので、3年後まで見据えた効果についてきちんと説明できさえすれば、自分の手でそうした技術を使えるようにしています。これは、エンジニアのモチベーション向上にもつながっていると思います」(川崎氏)


組織の拡大に伴い、マイクロサービスのアーキテクチャを採用

ウォンテッドリーでは、各種Webブラウザ、iOS、アンドロイド、そして別サービスのアプリケーションなど、あらゆる環境からサービスにアクセスできるよう、多様な技術を駆使している。

現在、Webアプリケーション開発におけるアプリケーションサーバ側のフレームワークとしてRuby on Railsを採用。Webブラウザ側には、JavaScriptやCoffeeScriptを用い、フレームワークとしてAngularJSを導入している。またiOSアプリでは、新規開発にはSwiftを利用する。

「多くの種類のモダンなフレームワークを採用しています」と川崎氏はコメントする。

インフラはAWS上に構築。Dockerコンテナを使ったデプロイ方式などの採用により、コードによる自動化を進めている。

そして最新のサービスであるSyncに関しては、GitHub社が最近公開したクロスプラットフォーム実行環境であるElectronをベースに、デスクトップアプリの開発が進められている。

「あたかもWebアプリをつくるような感覚でデスクトップアプリがつくれてしまうのがElectronのメリットです」(川崎氏)

またSyncの開発では、マイクロサービス的なアーキテクチャスタイルを採用。アプリケーションサーバをチーム単位で分割して開発する体制がとられている。その理由について川崎氏は、次のように説明する。

「総数5人ぐらいまででプロダクトをつくっているときは、ひとつのコンポーネントにすべての機能が乗っかっている方がシステムの複雑化も抑えられるなどスムーズに開発が進められました。だけど20人を超えた辺りから、ひとつのソースを皆でいじることの弊害の方がはるかに大きくなってくるんです。たとえば自分が書いているコードの変更が、システムのどの部分にどういった影響を与えるかまでを正確に把握するのは難しいでしょう。そのため、当社の組織のサイズが大きくなったのと合わせて、マイクロサービスのアーキテクチャを採用し、システムを分割して開発できるようにしました」

メッセージアプリ「Sync」イメージ

また同社では、WantedlyのAPIを公開して他サービスとの連携を促すなどオープン化戦略を強化しているが、それはシステム面にとどまらない。自分たちの技術やノウハウを外部に公開するという、“知のオープン化”も積極的に進めている。エンジニアには社外の勉強会への参加を推奨しており、そうした場で同社のノウハウがどんどん広められているのである。

「このような文化は創業時から根付いているものです。要望があれば社内の開発フローだって公開してもかまいません。そういったところを社内で閉じていても仕方ないでしょう。それに、より良いやり方を伝えると同時に、より良いやり方を教えてもらえることだってありますからね」と川崎氏は語る。

近く、東南アジアを中心にサービスのグローバル展開も視野に入れている同社にとって、Wantedlyプラットフォーム上で価値を提供できる人々をどこまで広げていけるかが、成長の鍵を握っている。

「もっともっと新しい人たちに価値を届けていきたいです。そのためにも、新たな価値を生む挑戦を促進するような環境づくりをさらに進めていきたいですね」(川崎氏)

ウォンテッドリーのオフィス内の様子 ソファで作業するエンジニアも多いという