スマートフォン向けアプリ(以下、スマホアプリ)の開発に携わる人ならば、「App Annie」というサービスをご存知であろう。彼らにとって、もはや欠かせないものだと言っても過言ではない。

アプリのダウンロード数や収益等の市場データや利用状況データ、分析ツールを提供する同サービスは主に、アプリ開発者やデベロッパー、アプリを使ったサービスを提供する企業を中心に世界規模で約40万のユーザーを抱え、トップ100パブリッシャーのうち94%が利用するという。利用者は、どんなアプリに人気があり、受け入れられているのかといったデータを同サービスから取得する。

「スマホの利活用が進み、オープンなプラットフォームでのアプリマーケットが展開される中、同市場へ参入を考える人にとって必要な情報が足りていないと感じて立ち上げたサービスがApp Annieです」と語るのは、提供元となる米App Annie の日本法人にてカントリーディレクターを務める滝澤琢人氏だ。

米App Annieは2010年から活動を開始し、滝澤氏が代表をつとめる日本法人は2014年2月に設立された

スマホアプリ市場は変化のスピードが早く、日本法人が設立された当時(2014年)と現在を比較しても大きな違いがある。日本市場の傾向としては、辞書などのシンプルな実用アプリ(コンテンツ)がゲーム等のエンタメ系へと取って代わり、課金形態も買い切り型から無料アプリ内で独自通貨を購入させて消費を促すアイテム課金型が主流になった。

「以前、スマホはコンテンツを出す先の1つでしたが、現在はゲーム端末として認識されるようになりました。ゲーム会社がスマホアプリの将来性にいち早く気付いたのでしょう。アイテム課金型への大きな転換は、LINEが登場し、ユーザーがスタンプを購入するようになったあたりからだと感じています」(滝澤氏)

米App Annie の日本法人にてカントリーディレクターを務める滝澤琢人氏

ゲームパッケージを購入することに慣れ親しんできた国「日本」

日本市場に関する2015年上期のデータによると、月ごとのアプリダウンロード数自体は横ばい状態。しかし、収益規模は前年同月比(2014年6月と2015年6月を比較)で139%伸びているという。その理由を滝澤氏は、「コンテンツもリッチになったほか、課金するユーザーの増加や、課金していたユーザーがより高額の課金を行なうようになったからでは」と説明する。

また、アプリのダウンロード数やアクティブユーザー数ランキングでは、世界各国と同様に、ゲームを中心としたエンタメ系アプリが上位となっているが、ゲームの内容自体には各国の国民性やデバイスの使われ方によって違いがうまれる。

日本は、コンシューマー向けゲーム機を通じたゲーム文化が40年ほどあり、過去にさまざまなゲームを体験してきたユーザーが上手くスマホにシフトしたほか、"パッケージを購入してゲームを楽しむ"ということに親しんできた国民性もある。

「アジアは中国と韓国、台湾の市場が大きく東南アジアも伸びてきています。しかし、いずれもゲーム機とパッケージを購入して遊ぶという市場があまりなく、ゲームといえばPCのFree to Play文化だったため、その影響は強いようです。一方、北米では、スマホをコンテンツ消費ではなく隙間時間の遊びに利用する傾向がある。そのため、本格的なゲームは少なく、日本では伸びないカジノゲームが中心です」(滝澤氏)

ダウンロード数と収益別のトップカテゴリ(iOS App Store)
出典 : 2015年第2四半期アプリ市場動向レポート データ提供 : App Annie

ダウンロード数と収益別のトップカテゴリ(Google Play)
出典 : 2015年第2四半期アプリ市場動向レポート データ提供 : App Annie

アプリ開発のヒントは、生活者視点にある

しかし、新たに市場参入を試みる企業や、スマホアプリでのビジネスを強化しようという企業は、エンタメ系アプリが上位を占めることに目を奪われる必要はない。「ランキングの上位やライバルコンテンツに注目するのではなく、海外のランキングを見ることも重要です。海外で人気があるのに日本で成功していないアプリ、中位程度にあって伸びつつあるアプリなどに注目すると、いろいろなものが見えてくるはず」と滝澤氏は言う。

どのようなサービスが考えられるだろう。そのヒントは、ユーザーが実際にスマホをどう使っているか、スマホで何をしているのかを知り、"生活者の視点"でユーザーがどういうものを求めているのかを考えることにあるという。

「スマホはゲーム機ではありません。高度にパーソナライズされ、カスタマイズされた小型PCです。これだけ体に近く、生活に密着した身近なツールは今までありませんでした。それがどういう使われ方をしているのか、どういったサービスを提供すれば便利に使ってもらえるのか。電車の中でどんな人がどういう使い方をしているのかを観察するだけでも違います。アプリがどう使われているのかを実際に見るのが重要なスタートラインです。そこから得られる発見や気づきを検証する際に、App Annieが活かされる。個人的な体験をデータという共通言語で確認するわけです」(滝澤氏)

具体的なアプリの一例としては、アメリカの国民食ともいわれる宅配ピザの注文方法が、電話からスマホアプリへとシフトしていることが挙げられた。

「ピザはたいてい、嫌いなものを抜いたり好きなものを追加したりというカスタマイズをして注文されます。それを1つ1つ注文するのは面倒ですが、アプリを使えば簡単に確認できますし、過去の履歴から手軽に注文することも可能です。注文のプロセスを劇的に変化させられることで、これまでは面倒だから使わなかった人が使うようになったりもします。また、店側はユーザーがどこにいるのか、どういうシーンで注文しているのか、その人が何を好きなのかなどを知ることもできるわけです」(滝澤氏)

この事例から私たちが学ぶことは、単に「宅配ピザのアプリが良いらしい」ということではなく、「1つ1つ指示しながらやっていくような、"面倒くささのある生活上の課題"は何かというような視点が必要」ということだろう。

「食べ物である必要はなく、教育、健康、フィットネスといったいろいろなジャンルで考えられるものだと思います。どの分野でもモノのサービス化が進んでいて、物質よりも経験やサービスが求められている。モノを買った時も、所有することではなくそれをどう使うか、誰と使うか、それによって何を経験できるかということに価値を感じる世代です。その流れが一番速く進んだのがゲームですが、これは飲食などさまざまな分野に波及して行くはずです。生活者の視点から見てどんなことを解決してほしいかを考えることで、日本市場や日本の生活者に合った新しいサービスが生み出せると思います」と滝澤氏は語った。

アクティブユーザー数に基づく非ゲーム系トップアプリ(左 iPhone / 右 Android)
出典 : 2015年第1四半期アプリ利用状況レポート データ提供 : App Annie