今年は、ISCの開催地がフランクフルトに移動した最初の年で6月に会場が確保できず、ISC 2015の開催が例年より1カ月遅れて7月になった。それに連動して、Green500へのサブミッションのデッドラインも1カ月遅れとなった。加えて、Green500を主催するWu Feng教授のお父上が亡くなるというご不幸が重なり、Green500の発表がさらに遅れて、8月1日の発表ということになった。

その結果であるが、日本のPEZY ComputingとExaScalerが開発し、理化学研究所に設置されたスパコンシステム「Shoubu(菖蒲)」が7031.6MFlops/Wで1位、高エネルギー加速器研究機構(KEK)に設置されたスパコンシステム「Suiren Blue(青睡蓮)」が6952.2MFlops/Wで2位、2014年10月にKEKに設置された「Suiren(睡蓮)」が6217.0MFlops/Wとスコアを伸ばして3位となり、1~3位を小規模なベンチャー企業体であるPEZY/ExaScalerが開発したスパコンが独占するという結果となった。そしてこれは、2014年4月にPEZY/ExaScalerがスパコン開発に着手してから、まだ、1年3カ月間という短期間で達成されたことを考えると、驚異的な開発スピードである。

Green500で1位となった5台のExaScaler-1.4液浸槽が並ぶ理研の「Shoubuスパコン」(写真はPEZY提供)

ShoubuとSuiren Blueは「ExaScaler-1.4」の液浸槽数が異なる構成であり、Shoubuが5台、Suiren Blueが1台で構成されている。ExaScaler-1の世代では動作周波数が遅めのチップしか取れなかったが、今回はプロセスのターゲットを変えて設計の中心に近い性能のPEZY-SCチップを使い、マザーボードも新設計してPCIスイッチを削除して消費電力を減らすなどの改良を行っている。その結果、初めて7000MFlops/Wを超える高い電力効率をたたき出している。これはExaScaler-1のSuirenでの2014年11月時点の4945.6 MFlops/Wを42%上回る数値となっている。

一方、KEKのSuirenは、ハードウェアは基本的には前回と同じExaScaler-1であるが、ソフトウェアを改良して、行列をCPUメモリとアクセラレータメモリに分割して持たせ、大きな行列を転送量少なく扱えるようにして、 4945.6GFlops/Wから6217.0MFlops/Wと25%あまりスコアを改善している。

理研で菖蒲のサブミッションデータを測定中のPEZYの齊藤社長(左)とExaScalerの木村社長(右)。今回の設置から計測作業も、最終段階では、両社長を中心に徹夜の連続だったという

Green500のTop3を独占というのは快挙であるが、2012年6月には、1位から10位まで全てIBMのBlueGene/Qが独占するという前例があり、これには及ばない。

今回のGreen500の4位は、前回1位のドイツのGSI Hermholtz Centerに設置された「Lattice-CSC」で、前回と同一スコアであるので再測定は行っていないようである。5位は東京工業大学のGSICに設置された「TSUBAME-KFC」である。TSUBAME-KFCは4257.9MFlops/Wで前回よりスコアを落としている。TSUBAME-KFCはTSUBAME-3.0に向けての実験システムであり、色々と増設などを行っているので、電力が増えたものと思われる。

PEZY/ExaScalerはISC 2015に出展

2014年11月のSC14では東大のブースに間借りして展示を行ったPEZY/ExaScalerであるが、今回のISC 2015では自前のブースを構えて展示を行った。前回のGreen500で2位という知名度と独自のメニーコアアクセラレータと液浸冷却に関する技術的興味からブースを訪れる人は多く、座り込んで技術的な詳細を聞くという人もかなりの比率であった。前回1位のLattice-CSCのリーダーでISC 2015ではPRACE ISC賞を受賞したDavid Lohr氏やIntelの次世代Xeon PhiとなるKnights LandingのチーフアーキテクトであるAvinash Sodani氏らが、ブースを訪れて熱心に質問していた。

ISC 2015でのPEZY/ExaScalerの展示ブース。前回、Green500 2位の知名度でかなり来場者があり、座って色々と質問する人の比率も高かった。日本から2台のBrickを持ち込み、1台は組み上げた形で、もう1台は分解した状態で展示(前側の展示ケース)していたことで、注目を集めていた

今回のISC 2015では齊藤社長、木村社長を含め5人のチームでブースを訪れる人たちの対応を行っていた。

なおPEZY/ExaScalerは、2015年11月15日から米国で開催されるSC15において、今回よりもかなり大きな自社ブースを出展する計画であり、齊藤社長によれば、「それまでに何とか、開発中のExaScaler-1.5を完成させてお披露目をしたい」とのことであった。

ISC 2015での展示を担当したPEZY/ExaScalerのメンバー。中央がPEZYの齊藤社長、その左がExaScalerの木村社長。齊藤社長の右でパンフレットを持っているのはExaScalerの鳥居CTO、その右がエンジニアの萩本氏。左端の紅一点は木村社長夫人