Tintri、Nimble Storage、Nutanixなど、ストレージ業界における新興企業に最近注目が集まっており、日本でも導入が進みつつある。では、実際に導入した企業はこういった企業にどのようなメリットを感じたのか? 今回、Tintriのストレージを導入した企業に取材する機会を得たので、レポートする。
サービス増加による負荷が課題
新たなサービスを追加するごとにシステムが重くなる。システムを拡張すれば済む話だが、予算確保が難しい場合もある。また、稼動するシステムが増えれば、当然、運用も複雑になる。これは、どこの企業でも抱える課題だ。
「TSUTAYA」や「Tポイント」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の100%子会社である「T-MEDIAホールディングス」も、同様の悩みを抱えていた企業の1つだ。
同社は、親会社であるCCCが運営するインターネット関連のメディア事業を継承し、ネット宅配レンタル、映像・音楽配信、eコマースなどのネットエンタテインメント事業を行う。
具体的には、ネット宅配レンタルサービス「TSUTAYA DISCAS」、映像配信サービス「TSUTAYA TV」、総合エンタテインメントeコマースサービス「TSUTAYA オンラインショッピング」、音楽配信「TSUTAYAミュージコ♪」をはじめ、最新のライフスタイルニュース、映画、音楽、書籍などのエンタテインメント情報を伝える「T-SITE」、インターネットショッピングモール「Tモール」、Tカード連動型街づくりゲーム「Tの世界」等のネットメディアが主なサービスだ。さらに、今年の4月にはリアルとネットが連動した新しいゲームプラットフォーム「TSUTAYA オンラインゲーム」の提供も開始している。
これらのインフラは、NTT系のデータセンターで運営されており、2010年に構築されたシステムで、更新時期を迎えていた。
システムリプレースが必要だった理由について、T-MEDIAホールディングス IT本部 企画開発Unit プラットフォームチームLeader 松本裕也氏は、「単に、保守サポート切れや経年劣化の問題もありましたが、VMotionが使えないという課題の解決や、BCPやDRを視野に入れた基盤を作りたいというのもありました」と説明する。
また、同社のシステム基盤は、レスポンスの面でも限界に近づきつつあった。
「すごい勢いでサービスが増えていましたので、レスポンスの悪化もあり、運用面で苦労していました。昨年のT-SITEのリリースの際には、遅くならないように、アーキテクチャで工夫し、チューニングを重ねていました」(松本氏)
採用のきっかけはVMworld
そこで同社は、2014年の4月からシステムのリプレースを検討。重点が置かれたのはストレージだ。理由は、容量やレスポンス向上を図る上で、もっとも効果が大きいと判断したためだという。
実際に導入したのはティントリの「Tintri VMstore T800シリーズ」だ。採用のきっかけは、昨年8月末に米サンフランシスコで開催されたVMworldだったという。
「それまで、VMの運用で困っていましたので、VMworldでは、何か運用を楽にするツールがないか探していました。そのとき偶然ティントリさんのブースに立ち寄る機会があり、VMwareに特化し、ファイルシステムも自社で作り込んでスピードを重視した設計になっている点に興味を持ちました」(松本氏)
同社がもっともティントリに注目したポイントは、シンプルな構成でVM単位の管理ができるという、チューニングのしやすさだったという。
「現在のストレージではストレージ全体のIOPS(Input Output Per Secondの略。1秒間に可能なI/Oの回数)などは把握できましたが、チューニングする際、どのサービスの何が原因でレスポンスが悪くなっているのかを掴むのが難しい面がありました。そのため、原因の仮説を立てて改善を実施し、効果を確かめるという作業を繰り返していましたが、効果があったりなかったりで、作業に無駄がありました。また、ストレージの追加も簡単で、これまでサービスを立ち上げる際には、どのデータをどこに置くかを気にしながら行っていました。その必要がなくなった点も大きいと思います」(松本氏)
もちろん、ストレージの強化では、別の案もあった。
「すべてのデータをSANにもっていけば、レスポンスは改善されると思っていましたが、それほどデータはありませんでしたし、コストの問題もありました」と、T-MEDIAホールディングスIT本部 本部長 畝岡健氏。
ただ、同社はティントリ製品の採用をすぐに決断したわけではない。ティントリという名前は、それまでほとんど聞いたことがなく、本当に採用してもいいのか不安があったという。
「なぜ、それを採用するのか。(松本には)そればかり確認していました」(畝岡氏)
そこで、松本氏はすでに導入している企業の話を聞いたり、ユーザー会に参加して利用状況を確認して、徐々に不安を解消していったという。
実際の移行作業はとくにトラブルもなく終了。4月からは順次新システムへの移行を開始した。
「トラブルがあったらすぐに戻せるように、旧システムと並存しながら、順次サービスを移行しています。10月までに完了し、そのときには1000VMが稼動する予定です」(畝岡氏)
新システムのディスク容量は1.5倍に拡大。6月現在では一部のシステムのみの移行に留まっているため、まだまだシステムに余裕はある。実際の効果を確認できるのは10月以降になるが、コスト面ではすでに効果が見えているという。
「サーバのコア数が増えたこともあり、ラックの本数は半減しました。機器も削減でき、それにともない保守料金も減っています。投資分を回収しつつ、コストも削減できています」(松本氏)
「システムのチューニングは、やらないで済むに越したことはない」と話す松本氏だが、何かあったときには、VM単位の管理が役に立つと話す。
新システム移行で、当面、レスポンスチューニングは必要がない同社だが、今後は、VM単位のコピー機能を使った複数の開発環境の構築によるサービス立ち上げの早期化や、BCPやDRといった災害対策を強化していく予定だ。