ミクシィは4月より家族向け写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」を提供している。同アプリでは、無料・無制限で子供の写真や動画を投稿し、招待した家族だけで楽しむことが可能だ。家族でコミュニケーションを取れるコメント機能や、アップロードした動画を1秒ごとにつなげる「1秒動画」という機能もある。
このアプリの開発チームを率いている人物が、2004年にSNS「mixi」をスタートさせた本人、ミクシィ 会長の笠原 健治氏だ。自らの経験をもとにサービスを立ちあげたという笠原氏に、同サービスへの思いと、これから目指す先についてうかがった。
「20年後に「みてね」を見て、子供の頃を思い出してほしい」
「何年も何十年も使っていただけるサービスにしていきたい」と笠原氏は語る。
「映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の終盤で、主人公が壁に貼られた家族写真を見て、30年以上前の幼少期から青年期を思い出す場面があります。
『みてね』も子供が大きくなったときに家族との思い出をよみがえらせることができるような、そして写真を見ることで子供がいつでも原点に立ち返ることができるようなサービスを目指していきたいんです。
今は生まれたばかりのお子さんの写真が多いのですが、そのお子さんが10年、20年経ったときに、『みてね』を見て子供の頃を思い出せれば良いなと思います。
20年後はスマートフォンとは違うデバイスになっているかもしれませんが、デジタル化というところは変わらないはずです。極端に言うと、そのお子さんが親になったときにも使ってもらえるようなサービスにできれば嬉しいですね」(笠原氏)
開発のきっかけは子供の写真データ管理に悩んだこと
同サービスは笠原氏自らの経験がもとになって誕生した。
「子供が生まれて1週間くらいしたときに、ふと気づいたことがありました。生まれてから写真と動画をたくさん撮影しているけれど、これから先、どうやって保存していけば良いのだろうかいうことです。配偶者が撮影したものとも共有したいし、子どもの写真を1枚も見逃さないためにも、データを一元化したいと思いました」
そこで誕生したのが、夫婦や家族間だけで共有できる「家族アルバム みてね」だった。
家族内での共有ならば「かわいいでしょ」と「遠慮せずに、思いっきり親バカになって」自慢することができる。
また、普段から子供が何をしてどんな生活を送っているのかがわかるため、いざというときには手を差し伸べてもらえるような、見守られている感覚も持てるという。
「家族アルバム みてね」、アプリを起動した画面には月別のアルバムが現れ、成長を振り返ることができる |
キャプション右:家族でコメントをやりとりすることで、写真を話のタネにして手軽にコミュニケーションが取れる |
笠原氏は自らの実感を込めて語る。
「ふとした瞬間に、誕生からの成長を振り返られるのもこのサービスの特徴です。ちょっと疲れた時にも「これくらい大きくなった」と思えると精神的支えになります。子育ては思うようにならないことも多々ありますが、もっと楽しくしたい、家族がもっと関われるようにしたいということを実現するサービスとして作りました」
写真へのコメントを通して祖父母らと交流ができることにより、夫婦だけではなく、より多くの人が子育てに関わっている実感を持てるという。
笠原氏自身も、実家とお互いの様子が皮膚感覚でわかるので安心できるそうだ。ときには、コメントで両家の祖父母がコミュニケーションを取ることもあり、祖父母どうしの架け橋にもなっているという。
家族で登録している人ほど継続率が高い
4月のリリースから数カ月経った同アプリだが、出だしは好調なようだ。写真の投稿数が無制限・無料な同アプリでは、1000枚以上の写真を登録しているユーザーは「ざらにいる」とのこと。
中には1万枚以上のツワモノもおり、「祖父母や親戚10人以上とつながって、四六時中ワイワイやっている家族」もいるそうだ。祖父母の中には写真をダウンロードして保存したり、プリントアウトしたりするという使い方をしている人もいる。
同アプリは、「ママ」「パパ」「おばあちゃん」「おじいちゃん」などの登録をすることにより家族で写真を共有できるようになっているが、配偶者と共有している人の継続率は約70%、配偶者と祖父母とつながった家族の場合は約85%になる。
登録数とインストール数も増えているほか、WAU(Weekly Active Users/1週間にアプリを利用したユーザー数)も6倍くらいに増えているとのこと。
特に好評なのが、月別のアルバムだ。写真を簡単に月ごとで振り返られるため、成長を実感できる点が評価されているらしい。また、「感動した」という声が多いのは1秒動画。忙しい中、自分で動画を作るのは難しいが、1秒動画なら簡単に作成して親に共有できるため、親孝行をしやすい側面もあるということだ。
そのため、祖父母向けアプリを作って欲しいという要望が多くなっている。現在、祖父母は送られてくるURLを通して写真を見て、コメントをするという形式。基本的な機能はスマホアプリと一緒だが、祖父母向けのアプリを求める声もあるという。
笠原氏は「祖父母世代はスマホを使いこなしている人とガラケーの人とに二極化しています。また、アプリのUIに対する高い評価も背景にあるかもしれません」と話す。
スマホを使いこなす祖父母を持つユーザーであれば、ぜひこのUIで使ってほしいと思うこともあるのだろう。アプリUIへの評価が高い証拠でもあるようだ。
有料サービスなども検討するも「わかりやすさ」重視
今後についてたずねると「まだまだサービスの改善もできると思っていて、安定性も強固にしたいし、デザイン的にも新しい案があるので世の中に出していきたい。それらをやっていくことで、完成度の高いサービスにできるのではないかと思っています」と答えてくれた。
具体的なサービスの改善としては、アプリの起動高速化や祖父母向けアプリの提供、1秒動画の2本目配信などが挙げられる。
これまで1秒動画は、動画を20本アップロードしたユーザーに対して1本が配信されてきたが、ユーザーによって動画をアップロードする頻度や本数がバラバラなため、2本目以降については配信タイミングや頻度について検討を重ねてきたのだそう。
また、今後は有料サービスにも取り組む予定だ。プレミアム機能の提供や、同社の家族向けフォトブックサービス「ノハナ」との連携も検討している。
「これから半年くらいで、完成度が上がっていく見込みです」とのこと。プレミアム機能については、今ある機能を制限して有料化するというよりは、追加機能として進めていく方針だ。
一方で、サービスが使いにくくならないようにすることも気を使っているという。
「わかりやすさは今後も重視し、祖父母などの利用者が増えたときに、よくわからなくて使わなくなる人がいないようにしたいです。「みてね」はコミュニケーションサービスなので、写真をアップロードしても誰も見てくれないと気になってしまう。それは防ぎつつ、すべての方に使いやすいサービスにしていきたいと思います」
一人ひとりのユーザーに感謝しながらサービスを届ける
「生涯プロデューサーであり続けて、常に新しい仕掛けを考える人生でありたい」と語る笠原氏は、今回のサービスを振り返ってこう話す。
「サービスを0からスタートして、自分で宣伝のチラシ配りもして、いかにユーザーを獲得するのが大変かを改めて痛感しました。けれども、自分一人の力では何もできなくても、チームの色々な人たちの才能に協力してもらいながら仕組みを考えることほど面白いことは他に見当たりません。使って頂いているユーザーの一人ひとりに感謝しながら、これからも世の中のためになるサービス、独自のアイデンティティ、独自のサービスを届けることにこだわりたいと思います」
10年、20年と使い続けられるサービスを目指して、今後も「家族アルバム みてね」は変化を重ねていくことだろう。