多言語翻訳システム開発で実績を積み上げているヤマハ株式会社と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が、肉声を自動的に多言語化する機能強化を目指し、共同研究を始めた。
ヤマハは既に日本語の話し言葉を多言語の文字や音声で利用者のスマートフォンに提供できるシステム「おもてなしガイド」を開発し、実際にいくつかの施設や航空機内で利用されている。5月1日からイタリア・ミラノで開催されている「2015年ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)」の日本館でも公式採用されている。
共同研究相手のNICTも、開発した音声認識技術と自動翻訳技術が多言語音声翻訳アプリ「NariTra」などに使われ、商用システムとして実際に利用者に重宝がられている。スマートフォン向けに開発し、公開している旅行会話用の多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra4U」は、英語、中国語、韓国語など27言語に対応しており、異なる言語を話す5人までの利用者が会話できる。2012年のロンドンオリンピックでは、NICTの呼びかけで23カ国・26機関が参加した多言語機械翻訳の実証実験が行われた。同機構が公開した音声翻訳アプリを使いスマートフォン上で5人までの利用者が同時に会話し、23言語のうち17言語は音声翻訳も可能、という実験だった。(2012年8月14日レビュー「音声翻訳技術の現状と将来」参照)
共同研究は、音声認識や翻訳精度を飛躍的に高め、「おもてなしガイド」の機能強化を図るのが目的。マイクに向かって日本語によるアナウンスを行うだけで内容が自動認識され、アナウンスブックの中から最適な外国語の音声や文字情報が自動選択される機能を開発する。日本語アナウンスの後に適切な外国語のアナウンスを自動的に流したり、利用者のスマートフォンに適切な文字情報をリアルタイムに提供することがより容易に行えるようになる、としている。
ヤマハとNICTは9月に実証実験を行い、今年度中の実用化を目指して研究を進める、と言っている。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、訪日観光客の増加が期待されている。これら訪日観光客だけでなく、高齢者や聴覚障がい者に対しても日本語の音声情報をいかに効果的に伝えていくかが大きな課題となっている。6月に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略2015」でも、こうした「おもてなしシステム」が重点的に取り組む新産業の一つに挙げられ、多言語音声翻訳が、継続的に訪日客を増加させ、地域経済の活性化にも寄与する技術として重要視されている。
関連記事 |