会員数1400万人を誇る巨大イラストコミュニケーションサイトpixiv。サービス開始から今年9月で8周年を迎えるpixivがどのようにマネタイズを行ってきたのか、pixivの歴史を振り返りながら、どんな運用をしているのか、マネタイズの変革期はどんな時だったかなどを伺いました!
サービス開始から8年を迎える「pixiv」のマネタイズの歴史とは
現在pixivはどのようなユーザーに利用されているのですか?
pixivは10代から20代のユーザーが8割を占める非常に若年層比率が高いメディアです。登録者ベースですとユーザーの男女比率は半々程度ですが、アクティブ率だと女性の方が高い傾向にあります。
最近はスマホユーザーが増えてきていているのですが、スマホユーザーの場合、PCよりもさらに女性のアクティブ率が高い傾向にあり、アクティブユーザーの7割が女性ユーザーという状況です。
pixivは今年で8周年を迎えると思いますが、この8年でpixivのマネタイズはどのように変化してきたのでしょうか?
サービスリリース時は、マネタイズに関する準備までなかなか手が回らなかったというのが正直なところで、リリースから半年間、広告によるマネタイズには手を付けられていませんでした。主要機能のアップデートが落ち着いた半年後の2008年に、アフィリエイト広告のタグを貼ったり、いわゆる純広告の枠の設置と資料の作成を行い、pixivの広告販売が開始されました。
また、純広告をスタートしてすぐに、adingoさんを代理店としてOverture(現:Yahoo JAPAN)のテキスト広告でのマネタイズも開始しました。実はOvertureの広告掲載を開始したのと同時期に他のアドネットワークも開始したのですが、pixivはその当時からPVは数十億以上、広告のインプレッションも1日数千万以上あったので、当時のOverture以外のアドネットワーク広告は案件在庫がすぐに切れてしまい、広告が配信されないという問題があったんですね。ですので、当時はOvertureをメインに利用してマネタイズをしていました。
加えて、案件在庫の問題の他にOvertureを利用したのにはもう1つは理由があります。それは他のアドネットワークと比べてOvertureの収益性が本当に高くて、アフィリエイト広告や純広告、その他のアドネットワーク広告の収益はおまけのような感覚だったということなんです。今思うと1社に頼ったリスクの高い広告運用をしていたなと思いますが、当時はOvertureの広告にだいぶ助けられました。
ただ、2012年頃になるとアドネットワーク市場が成熟して広告案件の在庫切れが少なくなくなってきたので、それ以降は1社に頼るマネタイズではなく、真面目に各アドネットワークやSSPと向き合っていこうという方針に転換しました。現在では常時20から30ほどの配信型広告サービスをデバイスや枠に応じて使い分けています。
しっかりとネットワークと向き合うという意味で、アドネットワーク・SSPの複数社運用を開始した頃から始めたのが、毎日各種数値を共有する「数値報告ミーティング」というものです。この毎日15分ほどのミーティングには、マーケティングチームとグロースチームの責任者に加えて役員も出席する形で始まりました。これにより、日々の小さな変化を見落すことがなくなるだけでなく、チームの責任者が揃っているのですぐに対応策を決め、即日行動に移せるようになりました。
なぜこのタイミングから毎日の「数値報告ミーティング」を開始しようと思ったのですか?
ピクシブ アカウントマネージャー 笠原達郎さん |
理由は色々とあるのですが、運用体制面で言うと、ちょっと気が弛んでるんじゃないかという空気感があったからだったかと思います。当初から、週次の数値報告ミーティングは行っていたのですが、その中でたとえば、週半ばから1つのアドネットワークの配信がエラーになっていても週明けまで気づかなかったり、有料会員登録ページに不具合が起こって登録数が減少している状況が数日放置されてしまったり、そういったトラブルの発見が遅れることによるデメリットが多く報告されていました。
「いやいや、それくらい毎日見ろよ!」と思われるかもしれないのですが、配信ネットワーク数が多いと見なくてはいけない管理画面数も多く、他業務もある中で、毎日自主的に数値を把握しようという意識が弱くなりがちだったんです。
そこで、毎日の数値確認を個人の自主性に任せるのではなく、毎日ミーティングをして、かつ広告の数値報告だけではなく、新規会員の登録数や有料会員の登録数なども同時に集計して、そのミーティングで共有することにすれば、自ずと各チームがKPIを強制的に毎日見ないといけなくなり、必要な情報がそこに毎日集まることになります。
また、この「数値報告ミーティング」が非常に効果的だなと思ったことは、グロースチームという弊社内で会員増加施策を考えている別チームと、自身の所属するマーケティング部の責任者が同じミーティングに出席し、加えて役員も出席することで、問題点の洗い出し、解決案の決定、新しい施策の決定までをすべてこの15分程度の時間で決めることができることです。上長決済を待つ必要がないため、1週間で数十のPDCAが回せるようになりました。
例えば、どこかの広告枠の収益が異常に凹んでいれば、何かしらの配信不具合が起こってるんじゃないか、ということに朝一で気付くことができ、もしそれがネットワーク側の原因ではなく、サイト側での何らかの変更が原因になっている場合、その場で対処案を出し合ってその日中に実装してしまうこともできます。数字をお見せできないのが残念なのですが、このミーティングを始めてから、ぐっと配信型広告の収益は上がっていきました。それまでは配信型広告の収益は広告収益全体売上の半分程度だったのですが、一気に7割から8割まで成長しました。といっても純広告の売り上げが落ちているわけではなく、こちらも右肩上がりです。このミーティングを開始したことそれ自体が一番収益的に効果の高い施策だったと思っています。
もちろん、多くのメディアの担当者はこのようなミーティングを既に実行しているかと思うのですが、もしやってないメディアの方がいらっしゃるなら、絶対にやったほうが良いと思います。早ければ5分、どんなに長くても30分しかかからないですが、続けていくことでしっかりと結果になります。
純広告の売上とネットワーク広告の売上は等価ではない
現在のpixivのマネタイズ手法(有料会員、純広告、アドネットワーク等)を教えていただけますか?
売上を構成するのは純広告、配信型広告、プレミアム会員(有料会員)、イベント物販等です。現状は配信型広告の売上が最も多く割合を占めていますが、プレミアム会員の獲得と純広告の方が人的リソースは割いています。人数にするとアバウトですがプレミアム会員の獲得と純広告販売にそれぞれ3から4人、アドネットワーク等の配信型広告の運用に1人といった形です。
売上比率では配信型広告の比率が最も多くを占めますが、プレミアム会員の獲得や純広告販売に多くのリソースをつぎ込んでいるのはどういった理由でしょうか?
プレミアム会員の月額の利用料売上は、配信型広告の売上より安定的かつ継続的なものだということがあげられます。もしプレミアム会員の月額利用料の金額とアドネットワークの売上金額が同額だったとしても、それは等価ではないと思っているんですね。また、純広告販売に関しては、配信型広告と比べると人員数に応じた売上の変動が大きいものだと考えています。
そもそも配信型広告の運用というのは、PVという資産価値をどれだけ高くトレーディングするかという仕事だと思っているので、PVという資産が存在する限り、ものすごく下手なトレーディングをしたとしても収益が0円になることは絶対ないんです。例えば、配信型広告の収益が月に1000万円あるメディアがあったとすると、その売上を同じPVで1100万円にストレッチさせるのが、配信型広告の運用担当者のミッションだと考えています。弊社ではこの運用は私1人で担当していますが、これによってあがっている収益を自分一人で作っているなんて思っておらず、サービスの開発・運営・企画・制作を行うエンジニアやディレクターの努力がPVになり、そのPVという資産を使ってアドネットワークの運用をしていると認識しています。
配信型広告の売上が大きくなってくると、運用コストの問題から純広告から撤退するメディアもあると耳にするのですが、そういった話にはならないですか?
2年後同じ質問をされたらどう答えているかわかりませんが、今のところ考えたことがないですね。先ほどもお話しましたが、やはりトレーディングと純広告の収益は性質の違うものだと考えているからです。配信型広告で売上が月に500万円で純広告の売上が300万円だったとしたら、もちろん500万円の方が額は大きいのですが、この500万円は400万円をストレッチして500万円にしているという性質のもの。そうなると結果的にその部署の努力による売上は配信型広告の100万円と純広告の300万円なので、純広告の方が大きくなります。厳密には、枠によっては配信型広告の想定利益と純広告で得られた利益の差額がプラスオンとなるのでもう少し計算はややこしくなるのですが、それを加味しても純広告のプラスオンの売上のほうが大きいと感じています。
また、純広告を撤退しない理由の一つに、pixivの純広告の売上が現時点では順調に伸びていて、毎期過去最高売上を更新しているということもあります。こちらについてはネットワークで出せないような形式、枠、カテゴリを考えて、純広告ならではメリットを付けて売るように心がけています。やはり配信型広告と比べてサイズや表示形式の自由度が高い枠や、自社内のデータを活用したセグメント配信が行えるメニューなど、配信型広告との明確な差別化が図れている枠の方が売れ行きが良い傾向にあります。
最近、新しくネイティブ広告も開始したと思うのですが、どのような経緯で始めたのですか?
始めたきっかけは、「なんかネイティブ広告っていうのが流行っているらしい」と聞いて、「じゃあ一度やってみようか」といった単純なものでした。実際やってみたところ、CTRはもちろんのことCPCについても通常のバナー枠より高い水準での推移となったので1クリックあたりの平均的な質は向上しており、さらに並行して自社サービスへの誘導配信のテストも行ったところ、バナー枠からは誘導できなかった新規ユーザーの流入がぐっと増えたので、ネイティブ広告については、バナーブラインドネスをある程度解消することができる視認性の高い広告枠と考えています。
デザイン・レイアウトの自由度が高い分バナー枠より手間はかかりますが、微調整を繰り返しながら効果状況に影響を与えていけるということでもあるので今後も配信テストを進めて色々な検証をしていきたいと思っています。
pixivの今後のチャレンジ
最近は動画広告やPMPなど、様々な広告配信手法が登場していますが、予定している今後のチャレンジはありますか?
第三者プラットフォームでは取得できないpixiv内のデータの分析・活用を広げていければと考えています。現在、ユーザーの登録情報を元にして、性別・年齢・職業によってクリック率がどう変化するのか?イラストを投稿したユーザーと投稿していないユーザーでどちらがクリック率が高いのか?などのデータ調査を行ってますが、今後はこれを突き詰めてクライアントの業種ごとまで分析出来れば面白いなと思います。
また、配信型広告については、動画広告やPMPも含めて今後も新しい技術、機能、サービスが出てくるので、その流れについていこうという覚悟と意志はあります。この3年間、聞いたことのないアドネットワークの会社からご提案を頂いたらとりあえずまずは配信してみるというスタンスでやってきました。各社さんから新しい機能、手法、独自提案を頂いた場合も、ほとんどをとりあえずやってみる精神でいます。もちろんその都度タグの入れ替えなどが発生するので手間はかかるのですが、とりあえずやってみることで収益改善のヒントになるような様々な発見が得られ知見も深まっていきました。今後もその姿勢は崩さないでいたいと思っています。最近では特に海外のアドテクプレイヤーが続々と日本に進出してご提案も頂きますが、正直なところ、話のすべてを理解しきれない時もあります。しかし、最終的にどの程度の収益が上がるかについては結果論でしかないので、プロダクトの細かい仕様やアルゴリズムが100%理解できなくても、安全性が担保できるのであれば、とりあえず配信してみようと思っています。
なので、ご質問された「pixivが今後どういう広告運用をしていくか?」という問いに対する答えは、ある意味、配信型広告を提供している各ネットワーク事業社さんのご提案内容によって左右されるというのが正解かもしれません。メディアより広告事業社の人の方が広告について詳しいのは確かなので、どんどんご提案頂いて引続き色々なトライをしていきたいと考えています。
騙されたりしないですか?笑
最近は本当に収益が上がる可能性のあるご提案なのか、インプレッションを確保したいだけのご相談なのかがわかるようになってきたので大丈夫です(笑)
昔に比べるとpixivの知名度があがってきたこともあり、ありがたいことに今ではたくさんの広告会社さんにご提案を頂きます。したがって、各社さんの提案内容の違いや連絡頻度、レポート内容の違いなどがけっこうよくわかるんです。加えて、前述した「とりあえずやってみる精神」で培った過去の知見もあるので、どういった施策で収益が上がるのか、ある程度は想定がたつようになってきました。
広告事業社へ一言
メディアと向き合う広告事業社に対して何か要望や課題などはありますか?
pixivが利用しているネットワーク各社の担当者さんはレポーティングなど丁寧にやってくださる方ばかりで、むしろ感謝の意を伝えたいくらいです。そんな中で敢えて要望があるとするならば、私が個人的に要望したいことなのですが、配信型広告の事業者さんはいろいろなメディアさんと取引されていると思いますので、お打ち合わせの際に個々のメディアごとの評価について伺わせてもらえるととても助かります。普段枠ごとのeCPMばかりを追っているので、他のメディアとくらべて配信型広告事業者の立場からはpixivがどう捉えられているのかなど、大きな視点でレポーティングして頂けると、普段あまり見れていない部分なので大変嬉しいです。
あとは先ほど少し話題に出た、インプレッションの確保を目的とした提案にあまり偏りすぎてほしくないというのも要望ですね。
特にこの2、3年は事業者が増えたことで、各社さんのインプレッションの取り合いが激しくなっていると思います。昔は「こんな実装が出来たら本当に収益上がりますよ!」などコンサルティングの要素が強かったのですが、最近は「どうやったらインプレッションが貰えるでしょうか」といったところから話がスタートすることが多くなっています。答えとしては「単価を上げてくれたらインプレッションをお渡しできます」というお話になり、現存の広告枠、広告配信方法の土壌の中での単純な価格競争になるので、広告事業社さんにとってもあまり建設的な話にならないと思います。「ではこういうチャレンジやこういう検証をしてみませんか?」というトライアンドエラーのご提案があると、両社にとって良いお取組みが出来ると考えています。
最後に一言お願いします!
お陰さまでpixivは8年目に突入し、その他の関連サービスと共に順調に成長しています。現在ピクシブの社員は100名を超え、今後も事業成長に合わせ採用活動を強化していきたいと思っていますので、個性的な企業で楽しく働きたい方は是非話を聞きに来てください。
ピクシブのエントランスは様々な企業やpixivのユーザーが書いた絵馬が飾られています。
adingoが書いた絵馬も飾られていました!
今回インタビューを受けてくださったのは・・・
ピクシブ株式会社 アカウントマネージャー 笠原 達郎 さんです。
貴重なお話を頂き、ありがとうございました。
adingo Marketing Magazineは、SSP・プライベートDMPを提供するadingoが運営するアドテク・マーケティング界の情報マガジンです。
アドテク事業をおこなっているadingoが運営するからこそ可能なコンテンツ作りを目指して、本当に聞きたいこと、知りたいことにずばっと切り込み、インターネット広告事情から、マーケティング業界の最先端を走る担当者のインタビューなど盛り沢山な情報をお届けします。
本稿は、adingo Marketing Magazineに掲載された記事を転載したものです。