基幹システムの刷新における最難関ポイント、それが経営者の承認である。そのための提案書作成に頭を悩ませる情報システム担当は数知れない。そんな人たちの駆け込み寺とも呼べる存在が、NTTデータセキスイシステムズが開催する「超上流構想書作成講座」である。
前回の記事では、超上流構想が生まれた背景について紹介した。今回は、具体的に超上流構想の肝となる「6つの構成要素」について解説していこう。
成長に必要な基幹システムとは?5年後想定の超上流IT構想「6つの構成要素」
「超上流」は課題を抽出する「トリガー」
「超上流」は、全体構造として企業が持つ課題を炙り出すための"トリガー"としての役割を担っている。ごく簡単に言ってしまえば、システム面から見た企業に”ストレス”を与えて、問題点を抽出するという方法を採る。
システムの置き換えというと、現場や周囲からの不満やクレームを集めることから始まり、ここから構築していくのが一般的だが、これではたいしたシステムは構築できないと宮下氏は述べる。5つのトリガーを与えることで、その企業が抱える課題を明解に導き出すというわけだ。
「基幹システムの刷新は、現場からクレームが切っ掛けとなることが多いようです。ただその場合、どうしても使い勝手の改善に視点が向かってしまう。それでは、システムを変える意味はありません」
現場から苦情が上がった部分に対応したとしても、それはあくまで「現状の改善」にしかならない。だが基幹システムというものは長い期間にわたり、使い続けていくものである。
「今のシステムが使いやすく改善されても、それが5年後、10年後にも使いやすいとは限りません。場合によっては、基幹システムそのものがボトルネックとなってしまい、企業の成長を妨げてしまうことも十分にあり得ます。ですから今を基準にするのではなく、最低でも5年先を見越してシステムを考える必要があるのです」と宮下氏は主張する。だからこそ企業成長や事業の移り変わりを予想した上でシステムを検討する「超上流構想」が有効なのだ。
5年先を見据えたシステムを生み出す超上流フレームワークの「6つ構成要素」
宮下氏による「超上流構想書作成講座」では、NTTデータセキスイシステムズが用いる超上流構想書を作成するためのフレームワーク「超上流フレームワーク」を元に解説が行われている。ここでは、特に重要となる「6つの構成要素」について宮下氏のコメントとともに紹介しよう。
事業成長
企業である以上、成長を目指すことは当然の責務である。もし年々成長していったと仮定した時に、果たして現行システムの改善だけで対応できるのかを検討する必要がある。声高らかに売上げの目標を掲げるだけではなく、システムを入れ替える場合には、それを前提としたシステムの問題点を具体的に探し出すのだ。
例えば、年々10%ずつ成長していったと仮定する。当然、その場合には人が増える、作業量が増える、事業所が増える。そのように、成長を前提としてシステムに負荷を掛けて行った時に、どこがボトルネックになるのかを見つけ出す。
「5年先が想像しにくければ、取り敢えず仕事が1.6倍になった場合を想定してください。その時に真っ先にボトルネックになるポイントが成長を妨げる要因です」
事業特性
1つの会社でも複数の事業を抱えることは珍しいことではない。また先を見据えた場合にも当然、全く形態の異なる事業を運営しなければならないこともある。事業成長は事業毎の特徴を整理した"骨格"のようなものだ。システムも当然事業毎に異なってくる。
ある企業において、A事業とB事業の2つがあったとする。現時点ではA事業の方が圧倒的に売り上げが高い。だが、近年の成長から推察すると5年後にはB事業が逆転している可能性もある。
もし、現時点を基準にシステムを刷新してしまうとA事業が主体のシステムになってしまい、近い将来に主力となるB事業の成長を阻害してしまう要因となってしまう。このような状況を回避するためにも、システムを事業ごとの骨格として整理して、把握しておく必要性がある。
「超上流フレームワークでは、事業を特性別に20のモデルに分類をします。そこで事業成長やベンチマークをトリガーにして、強化、維持・文化、補強に層別して整理して、各事業の将来を見定めます」
事業課題
5年後にはどのような課題が存在しているか、または現状よりも大きな課題となっているのかを検討する。例えば、海外進出を検討しているのであれば、それぞれ国ごとに異なる税制に対応しなくてはならない。これは、事業特性と合わせて考える必要がある。事業特性ごとに考えて、何が成長し、そこにはどんな課題が生じるのか。それらを予想してシステムを検討していくプロセスだ。
「たとえば、法人型の顧客を中心に組まれてきたシステムが、コンシューマ的なシステムに対応しなければならないという課題が出てきたとします。この場合、決済の仕組みから、顧客の広がりへの対応と事業特性ごとのシステム的な課題が見えてくるわけです。」
事業俯瞰
基幹システムは、企業活動のプロセスを支えるインフラである。それぞれの業務プロセスにおいて、どことどこが繋がっているのか。また、組織間の連携はどのようになっているのか。それらを俯瞰して、明確にすることが大切になる。
「近年はビジネスが複雑になり、社長ですら組織や業務プロセスのつながりがわからないことが多いのが現状です。ビジネスフローや自社と取引先の関係、業務プロセスなど、全体を俯瞰からみた地図を作る。すると、どの部分に問題があるのかが浮き彫りになります」
競争優位
基幹システムの刷新は、規模によっては数千から数億の予算がかかる大きな投資である。経営者であれば、当然だがそれに見合うだけのリターンを求める。だが、単なる現状改善では、そのリターンに対する答えは出て来ない。
かつては、人件費削減と業務効率化が、基幹システム刷新のキーワードとなっていた。だが既にやるべきことはやり尽くしている企業も多く、今ではそれも通用しない時代となっている。
ではどうするのか?それに対する宮下氏の答えが「システムそのものが、価値を生み出し競争優位性を高めるものになること」である。
「宅急便で、荷物がどこにあるかを追跡できるサービスがあります。この例のように、基幹システムによって、顧客サービスが向上し、競争力を高まるのであれば、投資に対するリターンとして認められやすくなるでしょう」
テーマ抽出
前述した5つの要素を組み合わせ検討していくと、自ずと5年先に向けてやるべきテーマが見えて来る。それらに優先順位をつけて何からすべきかを検討する。
「実際にこのフレームワークを実践すると、大体30ほどのテーマが見つかります。それに優先順位をつけて経営者の方に“絶対にやらなければいけないこと”を選んでいただく。これが超上流コンサルティングの方法です」
これまで、多くの企業に対して「超上流コンサルティング」を実践してきた宮下氏だが、抽出されたテーマに対して、「経営者の方から、特にやるべきことはない」と答えられた経験は皆無とのことだ。
「5年後、10年後を見据えた時に、すべきことが一つもない企業なんて存在しません。それは企業の根幹を支える基幹システムも同様です。そして、今ではなく将来を見据えたシステムを考える手法として、この超上流フレームワークは非常なる手法なのです」(宮下氏)
今回紹介したNTTデータセキスイシステムズが提供する「超上流フレームワーク」を学ぶことができる「超上流構想書作成講座」は、2015年度も不定期ではあるが開催されるとのこと。システムの入れ替えを考える場合には、まずは、自分たちが今現在どんな組織であるのか?5年後にどんな組織になるのか?をジックリと見つめ直し、具体的に抽出していくことが何よりも必要なのだ。
取材協力 株式会社NTTデータセキスイシステムズ |
積水化学工業の情報システム部が分離独立し、1987年に設立したセキスイ・システム・センターがNTTデータと資本・技術提携を行い、2005年に社名変更。2006年に株式会社アイザックが合併し、ITに関する各種コンサルティングやSI事業を行う。また、独自のサービスとしてクラウド型基幹業務システム「SKit FLEXi」も提供している。コンサルティングサービス「IT想定書作成講座」も展開している。 |