ビジネスSNS「Wantedly」をご存知だろうか。
同サービスは、給与や職歴といった条件ではなく、企業が掲げるビジョンによって求職者とのマッチングを行うソーシャル・リクルーティング・ツール。ユーザーは、Facebook IDにて登録後、求人情報の閲覧や応募が可能となり、企業は、月額課金制にて求人情報を掲載し、応募者とのコミュニケーションやその管理を行うことができるという仕組みだ。
同サービスでは昨今、ビジネスSNSとしての更なる拡大を見据え、さまざまな機能の拡充と新たな戦略を打ち出している。2015年4月にはビジネス人脈管理ツール「Sync(シンク)」をリリースし、6月には日本経済新聞社と、互いの顧客基盤・ブランド・提供コンテンツを活用した新サービスの開発に向け資本提携を実施したほか、同サービスのAPIを開放することで、企業の自社サイトに「話を聞きに行きたい」ボタンを設置することを可能にしたばかりだ。
その成長力は数字にも表れ、2012年2月の公式リリースからわずか3年で、1万社を超える企業と、月間60万人のユーザーが利用するサービス(2015年6月末時点)に成長。しかし、同サービスも運営企業となるウォンテッドリーもゼロからスタートしたことに変わりはない。
本稿では、同社 CEOの仲暁子氏と、マーケティングを担当する生熊暁氏に、この飛躍を支えた要因をマーケティング視点で振り返ってもらった。これまでに無いサービスが、ローンチ後、どのようにその認知を拡大し、一般ユーザーとユーザー企業を増やしていったのか ―― これまでの戦略を明らかにしたい。
(右から)ウォンテッドリー CEOの仲暁子氏と同社 マーケティング担当の生熊暁氏 |
「Wantedly」は、マーケター不在でも成長できるサービス
―― この3年間、採用担当者(企業)向け・ユーザー向けそれぞれで、どのような獲得施策を行ってきましたか
仲暁子氏(以下、仲氏) : マーケティング的な取り組みでいうと、サービス開始から1年半後くらいに、採用担当者向けの広告出稿を始めました。一方で、ユーザー向けには今でもほとんど、広告は出していません。
生熊暁氏(以下、生熊氏) : これは、サービス自体に "既存ユーザーが新規ユーザーを連れてきてくれる仕組み" がビルドインされているから可能なことですよね。逆説的といえるかもしれませんが、マーケターがいなくても成長できるのがWantedlyのビジネスモデルです。
しかし、採用担当者にはWantedlyを認知してもらう必要があります。加えて、「このサービスは、良い募集要項に対してユーザーの共感が集まり、応援され、更にユーザーが集まってくる "良サイクル" が自然と回っている」ということを理解してもらい、利用に繋げなければいけません。ですから、採用担当者の獲得には予算を投じています。
―― ターゲットとなる採用担当者(企業)には、何か傾向がありますか?
生熊氏 : 検討期間が長いことでしょうか。大企業であればあるほど、新たな採用ツールを導入するハードルは高くなります。リターゲティングなどの広告に接触後、一日以上経ってから登録する企業が半分以上。長いと一年半後くらいに登録するケースもあり、広告を見てすぐに行動する企業は少数派です。
この傾向を考慮し、見込みの高い企業とさまざまな場所で長く接点を持てるよう、Facebook広告やYDN・GDNのリターゲティング広告など、訴求別に数パターンずつ展開しています。3,4本ある "鉄板" のクリエイティブに新規のものを加えてA/Bテストしながら、CTR/CVRを指標として見た上で、効果の高いものを残していくというやり方を採用しています。
ターゲティングが狭いサービスのため、SEMのほか、ユーザーIDベースでのリターゲティング広告をクロススクリーンで配信できるFacebook広告で新規獲得することが多いですね。
Facebookページでは高リーチ率の動画を上手く活用
―― Facebookページでは4.4万を超える「いいね!」が集まっていますが、ここまでどうやって育ててきましたか?
生熊氏 : 広告のクリエイティブと同様、リーチ率とエンゲージメント率からユーザーの反応が良い投稿例を、5,6パターン導き出しました。話題になった募集要項やWantedlyをよく利用される企業さまのニュース、弊社が取材を受けた記事などを紹介しています。
また、新機能ローンチのタイミングで公開する動画は自動再生され、リーチしやすいのが特徴。尺の長さや再生率などはとくに意識せず、やはり追っているのはリーチ率です。
―― YouTubeも利用していますよね。手応えはどうですか?
生熊氏 : Wantedlyを利用して採用活動をする企業の取り組みを動画で伝えていますが、実は、この動画でCVを獲得しようとは考えていません。バナー・テキスト広告は、Wantedlyに遷移してもらう狙いがあるのに対し、動画広告ではサービスを認知してもらったり、他社がどのようにWantedlyを活用しているか知ってもらったりするのを目的としています。
マーケティング施策以前に、"穴のないサービス"作りを
―― いくつか自社メディアも運営していますが、こちらもサービスの認知度向上が目的ですか?
生熊氏 : 獲得施策の柱ではなく、採用担当者(企業)と接点を持つための手段として位置付けています。採用担当者向けメディア「人事アンテナ」では、月5,6本のコンテンツを配信していますが、そこで得たCookieをリターゲティング広告で活用し、数カ月後に若干成果につながる程度ですね。
仲氏 : これらはここ最近の話しですが、もっと以前の、社員が9名くらいだった頃は、ブログ「Wantedly 航海日誌」に私が記事を書くことで、全方位的な認知拡大を目指していました。サービスよりもチームの手の内を明かし、私たち自身に共感してもらい、応援してもらおうという思いが強くあった。AKBのファンが「自分が(応援して)育てたんだ!」と言いたくて応援する心理に近いですね(笑)。
―― しかし現在では「Wantedly 航海日誌」での更新は止まり、Wantedly内にて「シゴト日記」を公開してますよね
仲氏 : 投稿数自体は減りました。背景の一つには、私よりもWantedlyというサービス自体が知られなければならない、と考えるようになったことがあります。さらに、ここ一年半くらいで私の仕事が経営にシフトしたことも影響しています。経営ネタは書いても、読む側は面白く無いかなって思ったりもして(笑)。
―― なるほど。最後にスタートアップの経営者へ、マーケティング視点でのアドバイスをお願いします
仲氏 : まずは圧倒的に支持され、好いてもらえるサービスを作ってください。マーケティングは、エンジンが回るようになった段階で注ぐ油のようなもの。愛してくれるファンができたタイミングで、"サービスを加速させる起爆剤として" マーケティングが重要になると思います。
―― ありがとうございました
サービス自体に "ユーザーがユーザーを呼ぶ仕組み" を組み込むことで、順調にその数を増やしてきたWantedly。一方、採用担当者(企業)向けには、長期的な関係を構築しサービスの優位性を理解してもらうことで、利用促進につなげてきたようだ。
リターゲティング広告やFacebookの企業公式ページ、YouTube、ブログなど、それぞれの特徴を活かし、PDCAを回しながら勝ちパターンを確立していくというWantedly流のマーケティング戦略を、ぜひ参考にしてみてはどうだろうか。