KDDIとユーピーアールは6月30日、物流業界向けの温湿度管理機能付き位置情報端末「なんつい」を共同開発したと発表した。12月中旬よりユーピーアールが法人顧客向けに提供を開始する。

なんついは3Gモジュールを採用しており、輸送中の薬剤や食品の品質維持のためのセンサー情報を定期的に送信する。10分間隔測位時で約30日間の連続使用時間の大容量バッテリー(7500mAh)を搭載している。なお発信間隔は1分~24時間と利用者が任意に設定できる。GPSだけでなく、KDDIの基地局位置情報からも取得するため、安定した位置測位ができるという。

エリア拡大と湿度管理に対応した新なんつい

ユーピーアールはこれまでにも通信回線にPHSを利用した温度管理機能付き位置情報端末の提供を行ってきた山口県宇部市の企業。佐川急便などに導入実績があり、位置情報端末は、通信費やWebベースの管理機能、機器レンタルを含めて月額4500円でサービス提供を行ってきた。

以前の端末も「なんつい」として提供してきたが、この新しい「なんつい」では、既存製品で利用者からの要望が多かった「対応エリアの拡大」と「湿度管理」に対応した。

薬剤の保管バッグにおけるなんついの利用例

Webインタフェースで温度湿度管理ができるため、スマートデバイスでも閲覧可能だ

「旧製品のリリースは2002年で、当時はまだまだPHSのエリアも広く、通信速度が早い上に消費電力も小さいという魅力があった。しかし、通信技術の移り変わりから、PHSの基地局拡大があまり行われなくなった上、リリース当初に多かった三大都市圏のユースケースだけでなく、九州から北海道まで、幅広く地方で利用されるようになった。

輸送中に山間部の移動が一時間以上かかるケースもあり、そういった地域でPHSが繋がらず『リアルタイムで情報が見られない』といった声もあったことから、回線の切り替えを検討した」(ユーピーアール 物流IT営業本部 東日本営業所 所長 鈴木 満弘氏)

今回の位置情報端末に搭載される通信モジュールは3G。KDDIが広く魅力をアピールするLTEではない点が意外にも感じるが、KDDIのコンバージェンス推進本部 モバイルビジネス営業部 営業2グループ マネージャーの関 淳氏はその理由を次のように語る。

「LTEは高速である一方、非常に消費電力が大きい。その点ではまだまだ3Gに分がある。いかにして小さい電池で長く利用できるかを突き詰めて製品化した。例えば、通信する時以外はほぼすべての電池消費を抑えられるようにシャットダウンに近い状態にしたほか、アンテナも基板に組み込んでいる。消費電力など、トータルでLTEのメリットが出てきた時にはLTE化したい」(関氏)

ユーピーアール 物流IT営業本部 東日本営業所 所長 鈴木 満弘氏

KDDI コンバージェンス推進本部 モバイルビジネス営業部 営業2グループ マネージャー 関 淳氏

前述の鈴木氏によると、他キャリアも検討したものの、山間部の通信状況や、コスト、端末の作り込みの協力が得られやすかったことがキャリア選定の決め手になったという。また、東京湾周辺で、位置情報端末の捕捉率の実験を行ったところ、既存のPHS端末が9割程度の精度であったのに対し、KDDIはほぼ100%に近い実験結果が得られたとしている。

モジュール提供による協業はこれまでにもいくつかの実績がある

2点目の「湿度管理」は、物流業者の多くから要望があった"待望"の機能追加だ。鈴木氏が「医薬品業界や食品業界の双方から多くの機能追加依頼があり、今回の改善にこぎつけた」と語るのに加え、実際に医薬品配送を手がける三菱倉庫子会社のDPネットワーク 代表取締役常務の名村 強志氏も湿度管理の重要性を説く。

「医薬品は品質に異常があった場合、末端のお客さんの健康にもかかわるため重大な問題につながる。もちろん、運搬時にモニターで温度湿度管理はチェックしているものの、常に運転手がチェックできるわけではない。そこで、センサーが自動で異常発生のお知らせをしてくれるということは大きなメリットだ」(名村氏)

DPネットワーク 代表取締役常務 名村 強志氏

また、Good Distribution Practiceと呼ばれる医薬品流通規範が欧米にならう形で日本にも導入されることにあわせ、さらなる盗難や偽薬対策としての位置情報取得の安定化という側面でも、新しいなんついを活用したいとしていた。