産業技術総合研究所(産総研)は6月24日、エーディーシーと共同で、経時安定性と温度安定性がともに世界最高水準で、コンパクトな直流電圧標準器を開発したと発表した。
国の電圧標準は、限られた機種の大型直流電圧標準器を介して校正機関へと供給されている。近年、多くの製品やその製造には、電気を基本とした制御・駆動方式が用いられており、製造現場での電圧測定ニーズが高まっていることから、正確で高度な電圧測定を、場所を問わずに行える小型の直流電圧標準器が求められていた。
今回の研究ではまず、直流電圧標準器に必要なツェナーダイオード素子の経時変化特性を、ジョセフソン効果(二つの超伝導体の間に薄い常伝導体を挟んだ構造の素子に生じる物理現象)電圧標準器を用いて評価した。そこで得られた結果から特性の良好な素子を選別し温度制御用モジュールへと実装した後、温度係数の評価や改善を行ったことにより、小型のものとしては世界最高水準の性能を持つ直流電圧標準器の開発に成功した。
開発した標準器の出力電圧は7.2Vと10Vで、7.2V出力での経時安定性は±1ppm(100万分の1)/年、温度安定性は±0.02ppm(1億分の2)/℃、10V出力での経時安定性は±2ppm(100万分の2)/年、温度安定性は±0.03ppm(1億分の3)/℃を実現した。
また、これまでの標準器では、電源を一度切ると、再び電源を入れてから安定して使用できるまでに数十時間かかっていたほか、電源を切ると直近の校正値が保証されなくなるなどの課題があった。これに対し、今回開発した直流電圧標準器では、本体をバッテリーパックに装着することで、一切電源を切らずに40時間以上の駆動が可能だという。また、AC電源に接続しなくても長時間バッテリー駆動で標準電圧出力を得られるため、AC電源からの雑音が重畳しない正確な測定が可能となる。
さらに、本体に20分間の電源保持ができるバッテリーを内蔵しているため、必要な場所ごとにバッテリーパックを用意しておけば、電源を保持した状態で本体だけを移動させることができる。これにより、本体を拡張ユニットから抜き出し、別に用意された拡張ユニットに差し込むことで連続した校正業務ができ、業務の効率化につなげることができる。
両社は今後、今回開発した小型直流電圧標準器を高精度なデジタル・マルチメーターや電圧/電流発生器などの測定器の基準電圧源として使用できるようにしていく、としている。