岡山大学は6月23日、カーボンナノチューブ内部に閉じ込められた水の挙動を分子シミュレーションで解析し、氷と水の区別がなくなる新たな臨界点(固液臨界点)が存在することを世界で初めて明らかにしたと発表した。
同成果は岡山大学大学院自然科学研究科(理)の望月建爾 特任助教、甲賀研一郎 教授の研究グループはによるもので、6月22日付(現地時間)の「米科学アカデミー紀要」電子版に掲載された。
甲賀教授らの研究グループは、これまでの研究で、カーボンナノチューブ内部の超微小空間で水がアイスナノチューブと呼ばれる準一次元氷に相変化すること、その相変化が連続的に起こりえることを発見し、固液臨界点の可能性を示していた。しかし、固液臨界点はいかなる物質に対する実験でも見つかっておらず、理論的にも存在が否定されていた。
今回の研究では、直径約1nmのカーボンナノチューブに内包された水をシミュレーションで再現。広範囲の温度・圧力条件下で水の固液相転移挙動を追跡し、分子レベルでナノチューブ内の水の運動と構造を解析した。その結果、密度ゆらぎおよび比熱の発散傾向など、固液臨界点の存在を強く支持する複数の証拠から、固液臨界点の存在を示すことに成功した。さらに、さまざまな温度、圧力、ナノチューブ直径における水の状態(相)、相境界、臨界点をまとめた相図を完成させた。研究では、固液臨界点を6個確認し、ナノチューブ内部の水においては、固液臨界点が珍しいものではなく、実際に観測される可能性が高いことがわかった。
固液臨界点では、密度やエネルギーゆらぎが大きくなったり、水を内包したカーボンナノチューブの熱伝導性が急激に変化することが予想されている。今回の研究をきっかけに、密度やエネルギーゆらぎを利用した新たな化学反応の開拓や、ナノチューブの熱伝導率を内包物質の相転移により制御する新技術の開発などにつながることが期待される。