印鑑のインターネット通販でトップの実績を誇る「ハンコヤドットコム」の親会社、株式会社AmidA(アミダ)ではEC事業の拡大だけでなく、長年のECサイト運営ノウハウを生かしたデジタルマーケティングやプラットフォームビジネスといった新たな事業領域に進出。将来は、“世界”をも視野に入れている。

そうした将来の成長を見据えて、同社は、システムの最適化と、将来的なプラットフォームビジネスへの展開にも対応できるような、社内システムの構築に着手。商品管理、製造、外注、出荷といった一連の業務プロセスをクラウド型データベース「kintone」(サイボウズ)上に実装し、基幹システムや周辺システムをデータ連携ツール「DataSpider Servista」(アプレッソ)で連携させた。

その狙いはどこにあったのか。経営戦略室 室長 兼 マーケティング事業部 副部長の大田基樹氏とICT部サーバーチームの堺祐輔氏にお話をうかがった。

長年のECサイト運営のノウハウや知見を、新たなビジネス領域で生かす

赤を基調としたフレッシュな雰囲気のAmidAのオフィス

ECサイトに“おもてなしの心”を組み込んだ先進的なプラットフォームを目指す

経営戦略室 室長 兼 マーケティング事業部 副部長 大田基樹氏

1998年に大阪で創業して以来、インターネットビジネスの可能性を追求してきたAmidAでは、「お客様第一主義」が理念となっている。同社が運営する印鑑のインターネット通販の先駆け「ハンコヤドットコム」が、「日本オンラインショッピング大賞」「ベストECショップ大賞」など数々の賞を受賞しているのも、お客様第一主義のサイト構築・運営があってのことだ。

そうしたECサイト運営における経験やノウハウ、IT基盤を生かし、AmidAはいま新たなビジネス領域にチャレンジしている。大田氏は、これからのビジネスの方向性を次のように語る。

「集客や販売促進といったデジタルマーケティングや、Eコマースのプラットフォームビジネスなど、これまで『ハンコヤドットコム』で培ってきたノウハウや知見を生かし、お客様のEコマース事業のお役に立ちたいと考えています。またインターネットという特性を生かし、国内に限らず、海外へのビジネス展開も視野に入れています」

海外向けのビジネス展開の1つは、日本と同じような印鑑・スタンプによる認証文化のある地域に国内と同様のビジネス展開をすること。もう1つは、認証文化のない地域で、“おみやげ”として販売するというビジネスだ。

また、プラットフォームビジネスにおいては、「ECサイトに“おもてなしの心”を組み込んだ先進的なプラットフォーム」を目指しているという。では、ECサイトにおける“おもてなしの心”とは何か。それは、サイトを訪れるお客様に最善の“顧客体験”を提供することに他ならない。そのために必要になるが、お客様ニーズに俊敏に対応できるスピーディーな開発体制であり、柔軟性のあるIT基盤だ。

そうしたスピーディーな開発体制と柔軟なIT基盤を持つ先進的なプラットフォームを目指して、今回、社内システムの再構築を決定。商品管理、製造フロー、外注フロー、出荷フローなどの業務プロセスをクラウド型データベース「kintone」上に構築し、基幹システムや周辺システムとの連携を、データ連携ツール「DataSpider Servista」で行う社内システムを実現した。

スクラム開発で、満足度の高いシステムをスピーディーに開発

ICT部 サーバーチーム 堺祐輔氏

これまでAmidAでは、スクラッチ開発でシステムを構築してきた。堺氏は、スクラッチ開発は自由度が高いというメリットがあるものの、次のような課題があると話す。

「スクラッチ開発は、開発期間が長期にわたってしまいます。また稼働後の改修・追加が必要になると、その対応に時間がかかってしまいます。今日のようにビジネス環境の変化が激しく、システム変更のニーズにスピーディーに対応できるようにするには、スクラッチ開発では限界があります」

また大田氏は、これからの時代に求められる開発手法を、粘土細工とレゴブロックの例で説明してくれた。

「これまでは、自由度は高いが時間がかかる粘土細工のようなシステム開発が主流でしたが、現在は、短期間で完成できるレゴブロックを組み合わせるような開発方法が主流です。そうは言っても、エンドユーザーの皆様にご満足頂けるサービスを提供するためには、きめ細やかな対応も必要になるため、AmidAでは、基本的な部分はレゴブロックで組み上げ、細かい部分は粘土で細工する、というようにミドルウェアとスクラッチ開発の良い部分を柔軟に取り入れながら開発を進めています」

こうした考えのもと、AmidAでは、アジャイル開発手法の1つである「スクラム」による開発体制を採用した。そうすることで、チーム全員がうまく連携し、満足度の高いシステムをスピーディーに開発できるようになる。そして、そのIT基盤として選ばれたのが、クラウド上でアプリケーションを自由に作成できるkintone と、全てのデータの“ハブ”として機能するDataSpider Servistaだった。

DataSpider Servistaがハブとなって、kintone上の各業務システムや基幹システム、周辺システムを連携

実現できる機能とスピード感のバランスを評価

AmidAが構築している業務システムは、①販売用ECサイト、つまり、エンドユーザーが商品を注文するための「インタフェース部分」、②受注から出荷までの社内業務をサポートする「バックヤードシステム」、③経営に関わる数字を管理する「基幹システム」の3階層で実現されている。

このうち、バックヤードシステムの部分をkintone上で構築し、基幹システムや周辺システムとDataSpider Servistaで連携した。2014年10月より検討を開始し、12月よりシステム構築に着手。翌年1月からは、「出荷フロー」「製造フロー」「外注フロー」を順次リリースした上で改善を重ね、検討からわずか3ヵ月という短期間でサービスインを実現した。このスピード感、システムを拡張していく際の柔軟性こそが、AmidAが求めていたIT基盤だったと言えるだろう。

大田氏は、DataSpider Servistaとkintoneの組み合わせを採用した理由を次のように語る。

「DataSpider Servistaは、専用のアダプタを利用することでkintoneと容易に連携でき、データ接続をするためだけの余分なシステム開発に時間を割く必要がありません。その分、“お客様のためのサービス向上”という最も重要な部分に注力できるのが大きなメリットであり、導入を決めた最大の理由でした」

また堺氏は、実際にシステムを開発・管理する立場から、「DataSpider Servistaとkintoneの組み合わせにより実現できる機能と、スピード感とのバランスが優れていることを評価しました。また、システム開発者の視点で見たときの使いやすさが優れていることも理由の1つでした」と評価する。

業務の自動化によって手作業がゼロに顧客サービスの向上に集中できる

DataSpider Servistaとkintoneによる新システムにより、これまで手作業で行っていた業務が少しずつだが、着実に自動化できてきている。大田氏はビジネス面での効果を次のように語る。

「DataSpider Servistaで各システムを連携できたことにより、これまで手作業で行っていた業務の自動化が加速しています。業務によっては、手作業の時間がほぼゼロになり、現場リーダーの管理業務の負荷も大きく軽減されました。その分、よりお客様サービスの向上に集中できるようになりました。」

たとえば、今まではできなかった拠点間でのデータ連携を実現したことで、2人で4時間かかっていた受注データの振分作業が自動化された上、出荷処理が同時にできない不都合も解消した。また、拠点間での情報共有もスムーズになった。製造・外注フローシステムでは、合計約4時間ほどかかっていたデータの振分作業を自動化している。

システム面での効果について、堺氏は、「DataSpider Servistaは、直感的に使える高い操作性により、開発・生産性を大幅に向上できます。これにより現場の要望をすぐに実装できる俊敏性を得ることができました。またアプレッソさんや、サイボウズさんのサポートで、事前にシステム構築の青写真を描くことができていたので、安心してシステム構築に望めました」と話す。

今後の展開について大田氏は、「今回のシステム構築は、単に社内シテムの最適化というだけでなく、当社の新しい事業領域であるプラットフォームビジネスの展開という面でも大きな意味がありました。今後の強化ポイントは、より一層の“スピード化”であり、お客様の顧客体験をさらに向上させることです。アプレッソさんのサポートには、これからも大きな期待を寄せています」と話している。

AmidAのプラットフォームビジネスへのチャレンジ――「“おもてなしの心”を組み込んだ先進的なプラットフォーム」がどのように進展していくのか、今後も目が離すことができない。