KDDIと一般社団法人のソーシャルメディア研究会、兵庫県警察と兵庫県内4市の教育委員会は6月15日、地域一体の産官学連携ケータイ教室を実施すると発表した。4市は、相生市と三木市、養父市、たつの市。
この4市の小中学校59校を対象として、携帯電話やスマートフォンの安心・安全な利活用に向けた啓発活動を19日より行う。
KDDIはこれまでも「KDDIケータイ教室」として、スマートフォンの正しい使い方やトラブル予防策などを教えてきたが、今回の産官学連携では、より地域に根ざした教育を年度末まで行う。
ソーシャルメディア研究会に所属する学生の意見を教室の教材に盛り込み、同会の代表理事を務める兵庫県立大学 環境人間学部教授 竹内 和雄氏が監修を務める。
また、兵庫県警が地域で起こっている身近な事例や地域課題を提供し、同様に教育委員会の方針も取り入れた"地域密着型"のケータイ教室教材となっている。
これまで各市の教育委員会は、それぞれが情報リテラシー教育の計画を行っており、異なる啓発活動を実施してきたが、今回の取り組みにあわせて管轄の小中学校を一括して、統一的に啓発活動に取り組んでいく。
実際のケータイ教室では、教室講師の認定試験に合格した研究会の学生が講師を務める。受講する子どもと年齢の近い学生が講師になることで、「講座の中で自分自身の体験談を交えて注意を促せる」というメリットが生まれる。
なお、このケータイ教室は今年度いっぱいの実施だが、アンケートによる意識変化の効果検証を行うことで、次年度以降への改善活動へとつなげていきたいとしている。
小学生の8割がネットに触れる時代
竹内氏や各市の教育委員会によると、各市で3割~5割の小学生がスマートフォンを所有しているという。これだけでなく、ネットに接続できる携帯音楽プレーヤーやゲーム機によるアクセスを含めると、約8割がネット文化に触れている可能性がある。
「トラブルは他人ごとではなく、実際に地区でトラブルにつながるケースもあるし、一般的な問題として(LINEなどの)"既読無視"、そして最悪の場合には殺人事件に至ったケースもある」(竹内氏)
「生徒さんたちは、先生よりもスマートフォンアプリの使い方に詳しい。生徒がトラブルに巻き込まれるだけでなく、加害者の立場になってしまう場合もある」(KDDI 理事 関西総支社長 松尾 恭志氏)
今回の取り組みの最大のメリットは、これまで個別に行っていたリテラシー教育を三位一体となって行える点だ。KDDIは通信インフラを担う事業者として、安全で安心なネットの使い方を啓蒙し、教育委員会や県警も倫理教育や社会常識の啓蒙活動を行ってきた。これを「それぞれの強みをうまく融合させること」(竹内氏)で、より効果的に児童や生徒に身につけさせようという取り組みというわけだ。
そこで大きな役割を果たすのが、竹内氏の下に集まった大学生や院生たち。実際にスマートフォンが身近にある環境で育ってきた彼らが、実体験をもとに児童や生徒に教えることで、「先生に授業形式で上から説明されるよりも、"お兄さん"や"お姉さん"に教えてもらったほうが真剣に聞いてくれる」とは竹内氏の言葉。KDDIのケータイ教室の講師試験を通った10数名の"先生"が、児童や生徒に教えることになる。
KDDIのケータイ教室は、年間で約3300回、KDDI社員ら100名が行ってきたが、今回の取り組みでも、講師試験の基準は社内向けとまったく一緒。小学生や中学生という低年齢の子どもたちに教えるため、「笑顔で優しく教えること」「恐怖感を与えてはダメ」といったポイントも重要になる。「学生の一人は、実際に講師試験を受けたが落ちてしまった。だけど、どこがダメだったのか勉強し直して、もう一度試験にチャレンジしようとしている」(竹内氏)。
実際に、記者会見場でも神戸大学大学院の学生が模擬授業を行い、授業内で見せる動画をわかりやすく紹介してみせた。
特に「大学のテスト期間中、3時4時まで友達とLINEして、勉強のことを議論していたつもりが、頭に入ってなくて結果がボロボロだった。便利だけど、何も頭に入っていないという体験はある」という実体験は、すでに卒業して何年もたってしまっている親御さんや先生からは聞き出せない貴重な声と言える。
実際に授業で流す動画。社会問題となった例を取り上げ、児童らに注意を促す。今回の取り組み外ではあるが、高校生らにKDDIがケータイ教室を行う場合、今年度からリベンジポルノを説明している。当然、教育現場に事前確認を行うのだが、引き合いが多いそうだ |
竹内氏が「これが日本中に広がってほしい。大人が子供を守れるようにできれば」と強調するように、単なる地方自治体や地域に近い大学が個別に進めるだけの取り組みで終わって良いはずはない。地域の実例を県警から持ち寄って反映するという地域への最適化だけでなく、こうした場の知見を他地域へ応用していくことが重要と言えるだろう。