大手3DプリンタメーカーStratasysの日本法人 ストラタシス・ジャパンは2015年5月19日、高校・大学向け3Dプリンティング教育カリキュラム「3Dプリンティング入門:設計~製造編」の日本語版を発表した。同年7月1日(予定)よりストラタシスのWebサイトにて無償ダウンロードを開始するほか、9月より日本大学 芸術学部 デザイン学科への導入が決定している。同カリキュラム提供について、ストラタシス・ジャパンの代表取締役社長 片山浩晶氏に話を聞いた。
産業界における3Dプリンタ活用の変遷
3Dプリンタは、従来、試作品をスピーディに作りあげるラピッドプロトタイピングのために主に用いられてきたが、昨今は米国を中心に、製品そのものや治具を作るDDM(ダイレクト デジタル マニュファクチャリング)へと主軸を移してきている。特に、航空宇宙産業、自動車産業、医療機器などのような、高付加価値を求められ、小ロットで多品種であり開発にスピードが必要とされる類のものにめざましい成果をあげている。
教育現場への期待と、導入への障壁
3Dプリンティングによるデジタルファブリケーションは、モノづくりの常識を根幹から覆す技術だ。そのため日本でもますます関心が高まっており、2013年に公表された“世界最先端IT国家創造宣言"においては、「学生らが将来を展望した技術を習得できる環境整備」と「教育環境のIT化推進施策」の1つとして3Dプリンタが加えられている。また、経済産業省は、教育機関が3Dプリンタを購入する際の補助金制度を設けるなど、教育現場への導入が大いに期待されている。
しかし、国内の教育現場に3Dプリンティングが導入されている例はごくわずかである。導入の障壁となっている理由は大きく分けて2つある。1つは教育者の理解が十分でなく教えられる人が少ないこと、もう1つは3Dプリンタの利用に不可欠な3Dデータが手に入りにくいことだ。ストラタシス・ジャパンは、この2点に対してさまざまな施策を打ち出している。その1つが今回の学校向け教育カリキュラムの提供である。
デジタルファブリケーションのリテラシーを広く浸透させる
同カリキュラムは、2014年12月に英語版で発表され、既に米国、オーストラリア、イタリア、中国、シンガポール、インドなど各国の教育機関に導入されている。
カリキュラム内容は、「製造業の進化の歴史と転換点」「主要3Dプリンティング技術の特性と制約の理解」「時間とコストカットのための利用機会の特定」「3Dプリンティングが与える経済的な影響」「可動部品を備えたオブジェクトのデザインと3Dプリンティング」など、3Dプリンティングの歴史から紐解き、デジタルファブリケーションとは何かという基本知識から、3Dプリンタが現在から将来に渡って何を可能にするのかを14週間で体系的に学べるようになっている。
「デジタルファブリケーションを真に活用できる社会を作っていくためには、3Dプリンティングのデータ設計手法を教える前に、広く一般知識として浸透させることが必要です。このカリキュラムは、その目的に叶ったものになっています。これを用いて、日本の未来を担う学生に、デジタルファブリケーションのリテラシーを広げていきたい。まずは高校・大学への取組をスタートしますが、ゆくゆくは小・中学校も視野に入れています。3Dプリンティング技術によって、ワクワクするようなモノづくりの楽しさに慣れ親しんでもらいたいと考えています」(片山氏)。
同カリキュラムは「基礎コース」として位置づけられ、各学校のコースの特色に合わせて、教師が必要な内容を加えていくことが想定されている。9月に導入が決定している日本大学 芸術学部 デザイン学科では、最新のデザイン教育として、以前よりデジタルファブリケーションの教育研究に取り組んでいる。従来のデザイン手法に新しい手法を加えることで、相乗効果を期待しているという。
10年先の日本のモノづくりへ
ストラタシス・ジャパンが見据えているのは、10年先の日本のモノづくりだ。日本のモノづくりは高い品質を担保するため、開発スピードについては他国に比べて弱い感がある。また、人件費を考えると、大量生産の分野で海外に勝つことは困難だ。片山氏は次のように言う。
「時代はマスプロダクション(大量生産)から、マスカスタマイゼーション(個別最適化生産)へ変化してきています。個別の要望に応える、つまり消費者の多様化に寄り添う工夫をしたモノづくりです。より付加価値の高いものを、必要な数だけ生産する。3Dプリンティングは、この考え方に最もマッチする技術で、かつスピーディな開発や生産を可能にします」
製造技術の競争は世界的に激化しているが、品質における日本製への信頼感は、いまだ世界の人々の中に根強くある。デジタルファブリケーションのリテラシーが国内に広く浸透し、将来的に高品位の3D設計技術者が数多く創出されることが、日本の競争力を高める鍵になりそうだ。