名古屋大学は6月10日、計算機を用いて新薬の開発を効率化する新手法「VS-APPLE」を開発したと発表した。
同成果は名古屋大学大学院工学研究科計算理工学専攻応用計算科学講座計算生物物理グループの千見寺浄慈 助教、奥野達矢氏、加藤鉱也氏らの研究グループによるもので、6月9日に米科学誌「Journal of Chemical Information and Modeling」に掲載された。
ほとんどの薬は、標的の生体タンパク質に結合しその機能を調節することで作用を発揮するため、新薬の開発では、標的タンパク質に結合する化合物(ヒット化合物)を探すことが第一となる。これまでは化合物探しを網羅的な実験で行っていたが、莫大な資金を要することが問題視されている。
より効率的に化合物を探し当てるため、計算機を用いて理論的に化合物を予測するバーチャルスクリーニング(VS)という手法が注目を集めている。特許を避ける事や、その後の改良に有利となることから、同手法では新規性の高いヒット化合物を見つける能力が求められるが、これまでのVS法では新規性を欠いてしまったり、予測精度や計算時間が課題となっていた。
VS-APPLEは、X線結晶解析技術の発展によって近年急激に増加しているタンパク質-化合物複合体の結晶構造を活用しており、多様で新規性の高いヒット化合物を発見し、精度が高く計算速度も速いという特徴を持つ。広く用いられているベンチマークテストセットであるDUDを用いて他のVS法と比較した結果、VS-APPLEはトップレベルの成績を収め、計算速度も実用的であることが確認されたという。今後、構造データベースに登録されるタンパク質-化合物複合体の数が増加するに伴い、予測精度も向上していくと考えられている。
今後、VC-APPLEを公開して誰でも使えるようにする計画となっており、同手法によって、効率的にヒット化合物を発見することで、創薬にかかるコストを削減できれば、希少疾患など利益を想定しにくいためにこれまで創薬の対象となりにくかった疾患への介入が進むことが期待される。