理化学研究所(理研)と東京工業大学は6月8日、非対称な光学迷彩を設計する理論を構築したと発表した。

同成果は理研理論科学研究推進グループ階層縦断型基礎物理学研究チームの瀧雅人 研究員と東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの雨宮智宏 助教、荒井滋久 教授らとの共同研究グループによるもので、米科学誌「IEEE Journal of Quantum Electronics」に掲載された。

光学迷彩は、光を自在に曲げる装置によって、物体や人を見えなくする技術で、最近ではメタマテリアルという人工素材が注目を集め、透明マントのような装置の研究が進められている。これまで提唱されてきた光学迷彩装置は、入射した光が1つの閉領域を迂回するようにすることで、外部から見た人にとって、あたかもその領域内に何も存在しないように見せるという仕組みとなっており、外から光が入らないため、外部だけでなく内部からも見えない「対照的」な振る舞いを示す装置しか実現することができなかった。

今回の研究では、「内部から外部を見ることができるが、外部から内部は見えない」という「非対称性」を持つ光学迷彩装置を実現するための理論を構築した。ベースとなったのは2012年に米スタンフォード大学のグループが提唱した「光子に作用するローレンツ力」の概念で、光を補足する光学的な共振器を格子状に配置し、共振器間を光が曲がりながら伝搬する理論モデルだった。

同研究グループはこの格子共振器が光学迷彩装置にも利用できる点に着目し、格子共振器を拡張し電場に相当する効果を発揮させる、光学格子共振器を用いた理論モデルを構築した。その結果、光があたかも一般的な電場中を運動する電子のように振る舞うことで、光学格子共振器のパラメータを調整するだけで自由な伝搬光路を実現できることがわかった。特に、磁場が及ぼすローレンツ力によって、完全反対称な光路を実現することができ、電場から受けるクーロン力に相当する力により光路を調整することで、より多様で非対称な光の伝搬経路が実現できることがわかった。

現在、研究は理論の提案に留まっているが、今回提唱された光学格子共振器モデルは、フォトニック結晶を用いた非対称光学迷彩を実現に近づける理論だという。また、非対称な光学迷彩という研究テーマは、新たなメタマテリアルの開発を促し、理論とメタマテリアル開発の進展によって、非対称光学迷彩の実現が期待される。

これまでの光学迷彩(左)と非対称光学迷彩の概念図。