国立循環器病研究センター(国循)は6月1日、心臓から分泌されるホルモン「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)」によるがん転移抑制効果についての多施設臨床研究を開始すると発表した。同研究には全国10施設が参加し、500症例の肺がん患者を対象とする。
ANPは1984年に発見された心臓ホルモンで、現在は心不全に対する治療薬として使用されている。これまでの研究で、ANPが血管保護作用を発揮することでがん細胞が血管へ接着することを防ぎ、がんの転移・再発を抑制していることが判明している。また、肺がん手術中から3日間ANPを低用量持続投与することによって、さまざまな心肺合併症を予防できること、さらには術後再発率が低下することが報告されている。同センターによれば血管保護作用を応用した「抗転移薬」としての臨床試験は過去に例がなく、世界で初めての試みになるという。
ANPががん転移を抑制する仕組み。がん手術時に放出されるがん細胞は、手術時の炎症によって発現する接着分子(E-セレクチン)により血管へ接着・浸潤すると推測されており、ANPはE-セレクチンの発現を抑制することで転移を防いでいると考えられている。 |
血管保護によって、がん転移を防ぐという考え方は、肺がんだけでなく、あらゆる悪性腫瘍に応用が可能と考えられている。国循は今後、さまざまながん拠点病院・研究機関と連携し、基礎研究の推進も含めて準備を進めていくとしている。