日本国内だけでなく、海外でも芸術品として評価の高い日本刀。元々愛好家の多い分野ではありましたが、刀剣をモチーフにしたオンラインブラウザゲーム「刀剣乱舞」のヒットをきっかけに、今、女性たちの間でも日本刀がブームになっています。

刀剣博物館

今回のブームをきっかけに、刀剣が実際に所蔵されている場所や展覧会に足を運ぶ人も増えているということですが、普段私たちになじみの無い分野の美術品ということもあり、鑑賞する上での知識はあまり知られていません。

そこで、初心者が刀剣鑑賞をするときに知っておくとより楽しめるポイントを、6月9日より特別展「備前刀剣王国」を開催する刀剣博物館の学芸員の方にお話を伺いました。

――「美術品」としての刀の歴史を教えてください。

日本刀という形が整ったのが平安時代後期、現在千年余が経ちましたが、日本刀が武器という性質から完全に離れたのはやはり明治6年の廃刀令以後でしょう。しかし、日本刀を鑑賞するという事は古くからおこなわれ、室町時代にはすでに日本刀の美術的な鑑賞法をまとめた書物があります。

――鑑賞する上で知っておくと良い、刀の部位の名称はありますか?

いわゆる日本刀の世界は独特な言葉が多いので、はじめは難しく感じるかもしれませんが、基本的な言葉さえ頭に入れば、色々と世界がひろがります。

刀剣の部位名称を知っておくと、鑑賞する上での世界が広がる (参考書籍「てのひら手帖 図解 日本の刀剣」刀剣博物館主任学芸員 久保恭子氏監修)

――刀剣鑑賞初心者が鑑賞する際のポイントを教えてください。

姿ではまず、その作品がいつ頃つくられたかが分かります。地鉄(じがね)で国や流派、刃文で作者個人と絞っていく事ができます。しかし知れば知るほど見所は多く、例えば地鉄に現れる映りや焼き入れなどで生じる刃中の働き(はたらき)、そして作者のサインでもある銘など細かい所を挙げるとかなり奥深いです。

――刀の「美しさ」や「価値」はどうやって決められているのでしょうか、審査基準などが存在するのでしょうか?

当博物館は日本美術刀剣保存協会が運営する博物館で、協会では毎月審査を行っています。おもには銘の真偽鑑定であり、無銘のものには極め(国や流派・作者を絞り込みながら、より妥当性がある流派や作者を鑑定すること)をつけます。

また、審査も何段階かあり、基本的な審査の上は美術的価値をはかる格づけ審査です。しかし何よりも日本刀はお持ちの方によりその美しさや価値は異なるものです。その作品を大事にされる方が一番の基準でしょう。

――鑑賞する際のマナーや作法、また鑑賞者へのお願いがあれば教えてください。

展示室等での鑑賞はともかく、日本刀を手にとると、なぜか刀身を動かしたくなる方がままおられますが、日本刀の鑑賞は居合いや剣舞などとは違います。静かに拝見するもので、日本刀は一灯に対し真っ直ぐに向け、左右に振ったりしないようにします。鑑賞会では横に何人が並びますので、(刀身を振ると)とても危険です。

刀剣は静かに拝見するのがマナー

――近年の刀鍛冶たちの状況をお聞かせください。

いまだ若い方でも刀鍛冶になりたいという方がいらっしゃいます。ただ現実は厳しいものです。修行修行の世界で、また修行があけても生業とできる方は少ないです。しかし、それは全ての方ではありません。もちろん注文が先々まで出来上がり待ちという刀匠さんもいらっしゃいます。

――貴博物館としての今後の展開・展望を、教えてください。

まずは博物館に来館していただく事が第一ですが、さまざまな鑑賞会やイベントなどに参加していただき、日本刀の魅力を知っていただきたいです。主催者側としては、さまざまな発想で、日本刀文化を後世に繋げていけたらと思います。

――最後に、6月の展示会に訪れる刀剣鑑賞初心者に向けてメッセージをお願いします。

6月9日より特別展「備前刀剣王国」が始まります。展覧会名のごとく備前は日本刀の歴史上、数多刀工を抱えた第一の刀剣王国です。備前刀の歴史を軸に日本刀を覚えていくと、とても分かりやすいです。是非この機会に足をお運び下さい。

特別展「備前刀剣王国」

特別展「備前刀剣王国」

東京都・代々木の刀剣博物館にて開催される特別展「備前刀剣王国」。会期は第一期が6月9日~8月23日、第二期が8月25日~11月1日(月曜休館・祝日は開館)。開館時間は10:00~16:30(入館は16:00まで)。入館料は大人800円、会員・学生は300円、中学生以下は無料。

備前国(岡山県)は日本刀の一大産地として知られ、平安時代から室町時代に至るまで多くの刀工が存在した。その背景には、日本刀の原料となる良質の砂鉄が中国山地で産出し、かつ水上交通を利用した流通の発達があったことなどが大きな要因であったと考えられている。恵まれた立地条件を活かし、歴史的大戦乱の際には常に需要に対応する新たな様式を生み出し続け、比類ない刀剣王国を築き上げた備前国。名工の数は万を数えるが、同展では備前刀剣王国の根幹となった名工の代表作を展示し、その特長を端的に解説する。なお、それぞれ、第一期では平安・鎌倉、第二期では南北朝・室町に焦点を当てて展示が行われるとのこと。

同展の関連イベントとして、「若手職人による実演会」が開催される。開催日時は7月12日13:00~15:30。そのほか、講演会「備前刀はおしゃれ」も開催される。こちらの開催日時は9月5日14:00~16:00。いずれの催しも、往復はがきによる申込が必要となる。詳細は刀剣博物館Webページにて案内される。

そのほか、同博物館学芸員によるギャラリートークも開催。開催日時は7月4日、8月1日、10月3日で、各日11:00~12:00と、14:00~15:00。いずれも入館料のみで、参加費は無料となっている。