産業技術総合研究所(産総研)は5月18日、肉用牛の僧帽筋の霜降り度合いを牛が生きたままの状態で計測できる装置のプロトタイプを開発したと発表した。

今回開発したプロトタイプによる肉用牛の霜降り状態の計測イメージ

黒毛和牛の僧帽筋

同成果は産総研地圏資源環境研究部門の中島善人 上級主任研究員によるもので、3月18日付(現地時間)の学術誌「Applied Magnetic Resonacne」に掲載された。

飼料の種類や量が牛肉の霜降り具合にどう影響しているかを調べるには、牧場で牛の霜降り度合いの経年変化を追う必要がある。また、競り市に出た肉用牛の適正な価格を正確に把握するには屠畜前に計測しなければならず、霜降り具合を牛を傷つけずに短時間で計測できる装置が必要とされている。現状では、超音波画像診断装置でスキャンする手法が主流だが、脂肪と筋肉の混合比率を定量的に計測することは難しく、新しい原理による計測法が望まれていた。

今回開発された装置は産総研が資源開発・地盤工学への応用を目的に研究を進めていた片側開放型という特殊な形状の磁石を採用したプロトン核磁気共鳴スキャナーに着想を得たもの。この技術を使用することで、脂肪組織中の脂肪分子と筋肉組織中の水分子を定量的に識別することができる。霜降り具合は体表から10cm以上の深さにあるロース芯の霜降り状態で決まるが、片側開放型のプロトン核磁気共鳴スキャナーで計測するのは困難なため、今回は代替案としてより体表に近い筋肉である僧帽筋を対象に開発を行った。装置は片側開放型用の希土類永久磁石や高周波コイルなどで構成されており、高周波ノイズ対策を施されている。感度領域のサイズは、1.9×1.9×1.6cm3の直方体で、探査深度は3cmとなっている。研究では僧帽筋の試料を約10秒で計測することができた。短時間で計測が可能なため、牛を静止させるための鎮痛剤や麻酔剤が不要と考えられるという。

開発したプロトタイプ

今後、生きた肉用牛の計測を検討していく予定となっているほか、肉用牛の霜降り計測専用ではなく、牛の筋炎といった大型家畜の病気の非侵襲診断にも使える可能性もある。また、霜降り具合が重要視されているブランド豚やマグロなどへの適用、さらに、高級食材だけではなく、水と油を含む大きな物体をその場で非破壊計測できる特性を活用して、老朽化したインフラのメンテナンスや油汚染土壌試料の計測など土木方面への応用も目指すという。