スマートフォン(スマホ)およびタブレットの機能は、ハイエンドのコンシューマ製品に近づいています。典型的なカメラの解像度は8~12Mピクセルであり、大型画面のディスプレイは家庭用のほとんどのテレビよりも解像度および画素密度が高く、MHLやHDMIビデオ出力も付属しており、技術者にとりスマートフォンはポケットサイズのメディアセンターとなりつつありますが、フォームファクタおよび電波障害(EMI)は、依然としてスマートフォンの設計者にとって一番の懸念事項となっています。持ちやすく運びやすいハイエンドの周辺機能を実現し、クリーンなEMIのエコシステムを形成し、しかも無線の送受信機能に干渉を与えないことは、未だに複雑な課題です。
MIPI(Mobile Industry Processor Interface)、HDMI(High Definition Multimedia Interface)、MHL(Mobile High-Definition Link)、USB(Universal Serial Bus)など新興の高速シリアル・インタフェースは、従来のパラレル・インタフェースに置き換わりつつあり、ハイエンドの周辺機器をサポートするために必要なデータ転送速度を実現しています。シリアル・インタフェースでは高速でのデータ転送が可能であると同時に、ベースバンドやアプリケーション・プロセッサとさまざまな周辺機器(プライマリ/セカンダリディスプレイ、カメラのインタフェースなど)との間に必要な回線の総数を低減できます。スマートフォンの設計における大きな問題は配線デザインです。つまり、カメラ、ディスプレイ、および接続用にノイズの多いデータ伝送路が密接に詰め込まれているため、EMIおよびクロストークを発生させ、カメラやディスプレイが動作している間、パフォーマンスが低下することがあります。
EMIの最も効果的な対策としてパッシブフィルタが使用されています。インタフェースがシリアルであるため、セラミックまたはフェライト製のコモンモードフィルタ(CMF)が適用されてきました。低周波のCMFは低周波のコモンモードノイズを適切に削減しますが、コンテンツが豊富な現在のスマートフォンにおいては有用性が失われています。従来のCMFはノイズを抑制するために広いスペースが必要であり、大きくてかさばる傾向があるため、これらのデバイスは、小型化する必要があります。
従来のCMFでは、周波数範囲700MHz~2500MHzのノイズが十分に抑制されません。フェライト製のデバイスは、低周波のノイズを削減できても高周波ノイズは削減できず、主要帯域の3G/4Gの携帯電話の無線帯域に干渉します。また、セラミックおよびフェライト製のCMFでは静電気放電(ESD)保護が十分ではありません。静電気により破損しやすい、微細な配線のチップセットが使用されたスマートフォンにとって、ESD保護は不可欠です。シリコンベースのESD保護がなければ、ベースバンドおよアプリケーション・プロセッサは、キロボルト単位のESD干渉にさらされ、プロセッサおよび電話の機能を損なう可能性があります。
セラミックまたはフェライト製の基板を用いたCMFの全体的な頑丈さに関する懸念もあります。というのは、これらの基板は、性質的に壊れやすく、現在のスマートフォンに見られる堅固または柔軟なPCBを偶然曲げてしまった場合に簡単に壊れることがあるためです。CMFは、中軸が破損するとEMIに対して役に立たなくなると同時に、本質的に高温での作動に問題があるため機械的な圧力を受けやすくなります。フェライトコアは、+85℃を超えると飽和し、抵抗が増加し、フィルタの動作に影響を及ぼします。スマートフォンの公称の内部温度は、パワーアンプが作動しており、携帯ネットワークと通信中であれば+85℃に達することがあります。
EMIとESDとの統合
上記の理由により、スマートフォンが進化を続けるにあたり、従来のCMFは大きな障害となり、製品の複雑さおよび機能レベルが制限されることはあきらかです。
ただし、これに対処する革新的な半導体技術が開発されており、メーカーは、製品のロードマップに設定された機能豊富なスマートフォンを実現し、MIPI、USB、HDMIなど高速のシリアル・インタフェースを採用することができます。セラミックやフェライトの素材ではなくシリコン基板に組み込まれたCMFを用いたフィルタデバイスにより、MIPIおよびHDMIが必要とするさまざまな信号は、実質的に妨げられずに通過し、コモンモードノイズのフィルタリングに関しては高い効果を発揮します。
オン・セミコンダクターは、従来のフィルタから脱皮する必要性を認識し、Al+Cuでコイルを形成したシリコンベースのCMFの製品開発に着手しました。
各チップを統合することにより(図1を参照)、スマートフォンの設計において、ノイズ削減とESD保護を備えたターンキー・ソリューションが生まれます。1つのコンパクトなデバイスにフィルタリングとESD保護を組み込むことにより、別々のCMFおよびトランジェント電圧抑制回路(TVS)ダイオードを使用する場合と比較して、信号の品位を大きく損なうことなく、貴重な基板のスペースを節約し、コストの削減、調達プロセスの効率化、組み立ての簡素化を可能にします(図2を参照)。これらの画期的なデバイスは、500MHz~3GHzのカットオフ周波数で15dBのコモンモード除去レベルおよび±15kVのESD保護を実現します(バリスタベースのESDソリューションと比較して10倍以上効果があります)。また、これらのデバイスは、信号を劣化させることなく、HDMI 1080p 24bitフルカラーの信号のサポートも可能にしています(図3を参照)。
HDMI 1.4環境におけるシリコンベースのCMFの信号の品位。左がCMFが無い場合のHDMI 1.4 データのアイ・ダイアグラム、右がシリコンベースのCMFを実装した場合のHDMI 1.4 データのアイ・ダイアグラム |
結論として、帯域幅を広く必要とするアプリケーションの人気の高まり、パラレルからシリアルへのインタフェースの移行、そして次世代スマートフォンのディスプレイ大型化と高解像度化は、データ転送において深刻な問題をもたらすことになります。オン・セミコンダクターは、最近の半導体技術の進歩により、以前よりも高い周波数のEMIを低いレベルに抑制し、ESD保護を備えたデバイスを開発しました。これにより、スマートフォンの設計を発展させるために必要な、高度に統合された、小型でコスト効率の良い抑制/保護ソリューションを提供できます。
著者紹介
Greg Rice
ON Semiconductor
シニア・プリンシプル・アプリケーション・エンジニア
半導体業界で、高速RF、アナログ、ミクスド・シグナルの製品において20年以上の経験を持つ。
現在はESDプロテクションとEMIフィルタの製品を担当。アリゾナ大学にて電気工学修士(BSEE)を取得。Printed Circuit UniversityにてEssential Principles of Signal IntegrityコースのProfessional Development Certificationを取得。