もし自社の商品に不良が見つかり自主回収に至った場合、ソーシャルメディアの担当者はどのように対応すればいいのでしょうか。炎上を避け、ピンチをチャンスに変える対応事例をご紹介します。
こんにちは、SMMLab ゲストライターの柴です。
あなたの会社では、商品不良による自主回収が起きてしまった場合のソーシャルメディア対応が決められていますか。企業内での危機管理マニュアルは存在していても、ソーシャルメディアといった比較的新しい分野においては未整備のケースも多いかもしれません。
自主回収や事件への対応事例をネットで探しても、検索にヒットするのは昨年末に騒ぎになった異物混入問題などを筆頭にした炎上事例ばかりです。でも、知りたいのはリスク回避に成功した事例ですよね。
そこで今回は、Facebookページを活用してブランド毀損リスクを回避したキンレイの事例をご紹介します。ピンチをチャンスに変えたケースとして、参考になるはずです。
▲なべやき屋キンレイのFacebookページ
https://www.facebook.com/nabeyakiyakinrei
事案発生から商品再販までのFacebook対応
「頑張ってください」「食べれるの楽しみ」「待ってました」「大好きです。大変でしたね。」などの励ましの言葉たち。
これらは2月12日にキンレイがFacebookページに投稿した商品販売再開のお知らせに集まったお客様からのコメントです。投稿に集まった反響の内容と数に、Facebookページ担当者も目頭が熱くなったと言います。
それでも発覚当初、現場は慣れない対応に追われていました。Facebookに関しても「(商品不良のお詫びを)掲載したら炎上するリスクが高まるのではと考えていました。」というほどです。
事の発端は今年の1月27日の夜、鍋焼うどんのアルミ鍋に不具合が見つかったことに始まります。コンビニエンスストアで販売しているアルミ鍋商品の一部に、容器側面に数ミリ程度の損傷のある商品が混入する可能性のあることがわかったのです。
ここで、時系列でキンレイのFacebookページ上での対応を簡単に紹介していきましょう。
1月27日夜 投稿をストップ
不具合が発覚した時点で、不具合商品のお詫びと回収に専念するためFacebookページの投稿を停止しました。通常投稿の自粛は、販売再開を迎えて状況が落ち着いた2月18日まで続いています。
1月30日 商品の不具合について投稿
商品の不具合を早急にお客様にお知らせするために、Facebookページでも謝罪と回収のお知らせを投稿しています。
2月12日 商品再販のお知らせを投稿
商品の流通再開にあたり再度謝罪と応援の声に対するお礼、そして今後の決意を投稿しています。
この投稿には2,816件もの「いいね!」、17件のシェア、39件のコメントが集まりました。そのコメントの内容が、冒頭で紹介したお客様からのあたたかい言葉だったのです。
ファンから支持された理由
お詫びの文面にもかかわらず、商品再販のお知らせ投稿にこれほど多くの支持が集まったのはなぜでしょうか。理由は2つあると考えます。1つ目は事後の対応の良さ、2つ目は普段のコミュニケーションです。
事後の対応の良さ
事後の対応での最重要ポイントは、できるだけ早く謝罪すること、情報開示の2点です。世間を騒がせた炎上事件を振り返ると、対応の遅さや隠ぺいに走ったことが事態を悪化させていたケースが少なくありません。
そのことを踏まえ、キンレイではFacebookページ上でも早めの対応を行っています。不具合についても保守に走らず、情報開示と改善意思表示に徹する内容になっています。
▲1月30日 商品の不具合についての投稿とコメント
また、投稿に書き込まれたお客様からのコメントに対して一つひとつ丁寧に返信しています。こういったお客様と真摯に向き合って対応する姿が評価されたのではないでしょうか。
普段のコミュニケーション
重要なのは事後に行う単発の対応だけではありません。緊急時でもお客様からあたたかい反応が返ってくるのは、普段からお客様としっかりコミュニケーションを取っているからこそです。
ここで少しFacebookページの投稿をご紹介しましょう。
キンレイのFacebookページはなべやき屋キンレイのブランディングや、こだわり、想いをファンに届けることなどを目的に2014年9月に開設されました。通常は商品紹介やクイズ、季節に絡めた投稿を行っています。
左の商品紹介は、アレンジ方法も加えることでファンが鍋焼うどんを楽しめるような投稿になっています。
また、右の受験期の投稿は受験生への応援メッセージと絡めて商品を紹介しています。一方的に自社の伝えたいことだけを言うのではなく、お客様の気持ちに沿った内容になっています。
そして常に、ファンのコメントにはきめ細やかに対応しています。このように、お客様に向き合ったコミュニケーションが、双方の関係性を密にしてきたと言えるのではないでしょうか。
ピンチをチャンスに!
他社Facebookページを見ていても、緊急事態発生時のお詫び投稿をしているケースは見受けられます。一方で、今回キンレイが2月12日に掲載した販売再開・応援御礼の投稿は珍しいものです。
しかも、キンレイは全国新聞での謝罪広告に加え、この投稿をFacebook広告として出稿しています。なぜならFacebookページのファンに限らず出来るだけ多くのお客様に、お詫びと応援いただいたことに対する感謝の気持ちを伝えたいという想いがあったからです。
▲2月12日 商品再販のお知らせの投稿
この投稿は、予想を超えてポジティブな反響を集めました。結果的にキンレイは「誠意のある企業姿勢」と「お客様から愛されていること」を多くの人に知ってもらえたのです。
実は今回の事案においてのポジティブな変化は、それだけではありません。
社内に対しても影響をもたらしました。販売再開・応援御礼の投稿への反響を受けとめ、全社的に「暖かい声に感謝と、今後期待を裏切らないよう、より精進に励みたい」という意識を強めたそうです。
Facebookページ担当者自身も「より身近にお客様を感じることができました、それによりコメントなども進化したように感じます。反面、責任感もより大きく感じるようになりました。」と振り返っています。
キンレイはブランド毀損リスクを回避しただけでなく、社内外においてピンチをチャンスに変えたのです。
事前にソーシャルメディアの危機管理マニュアルを作成しておくことは、もちろん重要です。しかし、それだけではピンチをチャンスに変えるほどの力は持たないでしょう。
ソーシャルメディアといえども最後はやはり「人」です。キンレイのように普段から一人ひとりのお客様に対応するという心構えをもっておくことが、大切だということを教えてくれる事例と言えるのではないでしょうか。
ライター紹介
柴 佳織(Kaori Shiba)
企業のFacebookページのコンサルティングから、解析・運用支援などを行う。また、Facebookマーケティングのライターや講師も務めている。
本稿は、ソーシャルメディアマーケティングラボにて掲載された記事を転載したものです。