ソフトバンクモバイル協力のもと、奈良県高市郡明日香村の明日香村地域振興公社は、4月17日に超小型モビリティレンタルサービス事業「MICHIMO」をグランドオープンした。

MICHIMOは、2014年10月にプレオープンしていたサービスで、iPad miniを備え付けた超小型モビリティをレンタルし、飛鳥地方を簡単に周遊できる。

超小型モビリティは、ホンダなども開発を行っているが、今回のサービスでは日産が開発した小型の電気自動車「NISSAN New Mobility Concept」を利用している。この小型電気自動車を利用した商用サービスは全国で初めて。定員2名、全長2340mm×全幅1230mm×全高1450mm、車重500kgと小型ながら、最高速度は約80km/h、航続距離は最長100kmとなる。なお、利用するには普通自動車運転免許が必要だ。

プレオープン(昨年10月)の様子。NISSAN New Mobility Conceptはグランドオープン時には17台まで増えた

利用料金はプレオープンの実績を踏まえ、1日乗り放題、8640円のみのコースから、新たに「3時間コース」と「5時間コース」を新設。3時間コースが3240円、5時間コースが5130円となり、より気軽に利用できるような価格体系とした。

明日香村は、飛鳥時代に飛鳥京があった土地で、高松塚古墳など、多数の古墳や遺跡が点在している。特に「キトラ古墳壁画」が存在する場所といえばわかりやすいだろう。

超小型モビリティだけじゃない! iPadやiBeaconを利用した地域振興

MICHIMOは、超小型モビリティとiPad miniを活用した観光地の利便性向上、魅力発信を主眼に置いたサービスだ。iPad miniは、超小型モビリティのカーナビ利用以外に、取り外して史跡・古墳の案内情報端末としても利用できる。観光アプリ「MICHIMOナビ」をプリインストールしており、飛鳥地方の数々の名所を詳細に案内してくれる。

どこへ行くと指定するよりも「飛鳥を包む歴史風土を感じる」といった文脈を選ぶだけで、飛鳥地方の史跡をたどることができるナビだ

また、プレオープン時には提供されていなかったiBeaconにも対応。超小型モビリティで史跡にたどり着くと、自動的にスポットに到着したことをポップアップして通知するほか、訪問した観光スポットが自動で記録される機能も備える。ビーコン端末は当初、7カ所に設置され、順次拡大する予定となる。

iBeaconを活用しており、ビーコン端末が設置されているエリアに入ることで、自動的に史跡の説明がポップアップで表示される

ビーコン端末は史跡の説明板などに設置されている。Bluetooth Low Energyの技術を利用しているため、バッテリーは電池で2年ほど持つ想定だという。BLEの活用はKDDIも渋谷の実証実験で行っている

MIHIMOナビの機能はこれだけでなく、すでに明日香村の観光コンテンツとして提供されてきた「バーチャル飛鳥京」をMICHIMOナビに採用。このコンテンツは、飛鳥京の当時の都や寺院の様子を、3D再現してタブレットで閲覧できる。端末のジャイロセンサーを活用して、周囲を見渡すと向いている方向に合わせて3Dコンテンツを見渡せる仕掛けが用意されており、直感的に飛鳥京の当時の様子を見られる。

バーチャル飛鳥京

ユビ電とは?

MICHIMOは、観光振興による地域活性化が主眼となっている。ソフトバンクモバイルでは、2013年7月に香川県豊島で超小型モビリティを活用した実証実験を、明日香村と同様に行っている。この実証実験をキッカケとして、明日香村の取り組みが始まったとソフトバンクモバイル ITサービス開発本部 M2Mクラウド事業開発室 室長の山口 典男氏は語る。

実証実験だった豊島での取り組みとは異なり、この明日香村のMICHIMOは、2014年10月のプレオープンを経て、この4月に正式なサービスとしてスタートとなった。ソフトバンクでは、グループ企業のクリメンテックが開発した観光アプリとiBeaconを使った位置情報による案内、そして超小型モビリティとその裏で動く「ユビ電」をワンパッケージにして、他の地方自治体へ提供したいのだという。

ユビ電とは何か。

ユビ電は、電気をどれほど利用したか計測できるソリューションで、超小型モビリティの車体側に設置した認証機を使って自動車やバイクの個体を認識。EV充電の場合には、充電器側で車体の固有IDを認証した上で、充電を行える。これは、車に限った話ではなく、スマートフォンなどにも応用が効く話で、「電気を通信回線の利用料金と同じように、使った分だけ利用料金を支払えるようにできる」(山口氏)ようにするものだという。

ユビ電

ニュースなどで「勝手にコンビニや飲食店で充電を行い、逮捕された」といった話が流れるが、電気という今の世の中で普遍的に存在するものを「私がお金を払っているものだから、誰かに渡せない」ではなく、「使ったら、使った分だけ払えばいい」と簡単にわかる仕組みにする。それがユビ電の存在というわけだ。

ユビ電は、超小型モビリティをユビ電の充電台に接続すると車載認証キーから認証IDをユビ電クラウドに送信する。クラウド側で認証が正しいものと判断すると、通電し、充電が可能となる仕組みだ。これはほかのスキームにも応用できることが強みだろう。例えば、飲食店の会員証を持っているユーザーだけに認証キーを配布するといった活用を行えば、ある程度の囲い込み要素になりうる。

ソフトバンクモバイル ITサービス開発本部 M2Mクラウド事業開発室 室長 山口 典男氏

ユビ電の仕組み

もちろん、車メーカーが自社製品とユビ電をくくりつけて自社のEV車のみ充電できるような活用方法も可能性として存在するが、そうした質問に山口氏は「車メーカーとそこまでタイトに組まなくてもいいと思っている。そもそも、今回も日産の超小型モビリティと三菱のi-MiEVの双方を利用している。ビジネスドライバーとしては、様々な店舗さんが関わることが一番なので、今回のように地域の様々なステークスホルダーがいるところに提供して、『利用したい』という声があればすぐに提供できる環境が良い」としていた。

将来的には他の地方自治体でも

今回の正式オープンにあたっては、新たに「グリーン電力証書」も活用。充電する電気は、すべて奈良県の太陽光発電でまかなうようにすることで「グリーン電力の地産地消」を目指す。利用者には、MICHIMOグリーン観光証明書を発行し、移動手段としてレンタルするだけでなく、地域にとって、エコな観光回遊という新たな付加価値が生まれるというわけだ。

もちろん、このMICHIMOでは、超小型モビリティという存在が、一つの観光資源として大きな役割を果たす。プレオープンした10月~4月は、利用率は3割程度で推移していた。もっともこれは、織り込み済みの数字のようで、最終的に稼働率が100%近くを推移していた豊島の実証実験でも、当初の利用率は3割程度だったという。夏場に向けて、窓がない超小型モビリティ(ジッパー付きの簡易窓は存在)は「いい時期になる」とは山口氏の弁。

プレオープン期のフィードバックとして、簡易窓を取り付けた。道路交通法上、窓を取り付けられない超小型モビリティでは、冬季にユーザーから寒さに関するフィードバックを受けた。そこで特注の簡易窓を取り付けたのだという。ちなみにこの窓は日産と資本提携関係のあるルノー製

その自然豊かな環境と、1000年以上昔の古都という土地柄から「日本人の心の故郷」と言われる明日香村に、最新のICTと超小型モビリティを組み合わせた「非常に簡単に、心地よく使えるように作り上げたサービス」(山口氏)が組み合わさることで、年間の観光客数が80万人程度で長年推移しているこの地区の起爆剤となるかどうか。

「日本の他の地域や、世界でもこのテクノロジーのパッケージを提供していければ」と山口氏が話すように、今回の取り組みを起点として、地域振興の在り方を、明日香村をお手本として、他の地域でも応用していく夢を描いているようだ。

取材当日は体験試乗を行うことができた。通常の自動車とは乗り心地が明らかに異なる"新しい乗り物"といった方が良い。走行性がいいと言えないのは確かだが、印象で思うほど非力ではなく、小回りも利くゴーカートのパワフル版といった印象だ。モータージャーナリストではないため、多くは語れないが、一度試しに乗って損はない乗り物、そういった印象を受けた