2011年の東日本大震災では、温暖化やオゾン層破壊の原因となるフロンや代替フロンが大量に大気中に排出されたことを、国立環境研究所の斉藤拓也環境計測研究センター主任研究員らの研究チームが突き止めた。
排出量を推定するために研究チームが用いたのは、国立環境研究所と気象庁がそれぞれ沖縄県波照間島、北海道落石岬、岩手県綾里の3地点で行っているフロンなどの大気観測データと大気輸送モデルを組み合わせる手法。オゾン層保護法によって1996年に生産禁止となったクロロフルオロカーボン(CFC)類、段階的に生産が削減されているハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類に加えて、これらの代替物質として使用量が急増しているハイドロフルオロカーボン(HFC)と、電子機器類に絶縁体として広く使われている六フッ化硫黄(SF6)を対象にデータ解析を行った。
HFCとSF6にはCFCやHCFCのようなオゾン層破壊の恐れはないものの、CFCやHCFCと同様、高い温室効果(単位重量あたりで二酸化炭素の数百倍から数千倍以上)を持つ。東日本大震災が起きた2011年3月以前、北海道落石岬、岩手県綾里では高濃度のCFCはほとんど観測されていなかった。しかし、これら2地点、特に被災地に位置する綾里では同年5月から頻繁に観測されるようになった。被害が大きかった太平洋沿岸の被災地方向から風が吹いている時に、高濃度の観測結果が得られたため、大量のCFCは被災地から大気中に排出されたと考えられる。
これらの観測データ解析から研究チームは、強力な温室効果ガスで一部はオゾン層破壊物質でもあるフロンや代替フロン類が計6600トン、東日本大震災によって排出されたと推定した。これは、オゾン層破壊物質としてフロンCFC-11に換算すると1300トン、温室効果ガスである二酸化炭素に換算すると1920万トンにそれぞれ相当する。
成分別で見ると、最も増えたのは主に冷媒として使われている代替フロンHCFC-22で、全排出量増加分の約半分を占めた。震災で壊れた冷蔵庫やエアコンから大気へ排出されたと考えられる。既に全廃されているフロンCFC-11も、72%排出量が増えていた。発泡剤として使用され、長い間建物などの断熱材中に閉じ込められていたのが、建物の倒壊や、震災で出た廃棄物を処理する際に断熱材が破砕され、大気中へ排出されたとみられる。
国立環境研究所の温室効果ガス排出量データによると、国内の二酸化炭素総排出量(2011年推定値)は12億4000万トン。斉藤拓也主任研究員によると「1920万トンは日本が年間に排出する二酸化炭素量の1.5%に当たり、自動車から排出される二酸化炭素の1割に相当する」。斉藤氏は「エアコンや冷蔵庫など冷媒としてフロンや代替フロン類を使用している機器を更新する際に、オゾン層や温暖化への影響がより小さい物質を含むものを選ぶ。さらに災害が起きた後は、被災した機器に残存しているフロンや代替フロン類の回収・破壊を進める」対策を提言している。
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