国内外の企業信用調査・市場調査を中核に、関連するコンサルティング事業やインターネットを介した企業関連情報提供サービスなどの事業を手がける東京商工リサーチ。明治25年創業という長い歴史を有する同社は、国内トップとなる434万件以上の企業情報を提供するとともに、世界最大の企業情報プロバイダーであるDun & Bradstreet (D&B)と提携し、全世界2億4000万件超の企業情報の提供を行っている。D&Bが発行するデファクトスタンダードの企業識別コード(D-U-N-S Number)を提供できるのは、国内では同社のみだ。
東京商工リサーチは2014年12月、営業効率の向上とメール配信、セミナーやキャンペーンなどのマーケティング活動の精度向上を目的に、「Oracle Marketing Cloud」のマーケティング・オートメーション機能である「Oracle Cross-Channel Marketing」を導入した。
顧客の行動履歴の分析の自動化を実現
東京商工リサーチでは、業種・企業規模・部署や役職などの情報と、メール開封やオンラインアクセス、セミナー・イベント参加などの行動履歴の2軸を用いて分析し、最も関心の高い顧客や見込み顧客ごとに数値化、優先順位付けを自動で実施している。導入後間もないものの、既に顧客企業に展開するメルマガの開封率が向上するなど一定の成果が表れているようだ。
東京商工リサーチでは、2012年にメール配信システムを導入し、支店や担当者ごとにバラバラに行っていたメールマガジンの配信プラットフォームを一本化した。これにより、登録アカウントは順調に増えていき1万5000アカウントから15万アカウントへと10倍にまで増加。しかし一方で、このメール配信システムで把握できることは開封率程度であったため、先の営業促進へつなげることは困難だった。
事業本部 マーケティング部の部長である弓削正範氏は、「メルマガを配信したその先にあるものが見えないことは、不安でもありました」と振り返る。
弓削氏は、かつて勤務していたD&Bで「Oracle Eloqua(Oracle Cross-Channel Marketingの旧称)」の使用経験があり、その特性を理解していたので、この課題を解決するためにマーケティング・オートメーションの導入へと踏み切った。
「当社の企業情報が持っている属性情報との親和性が高く、またD&Bではすでに企業データベースにつながるコネクタを提供していることもあり、今後の戦略も考慮してOracle Cross-Channel Marketingを採用することにしました」(弓削氏)
会員15万名に送るメールマガジンの開封率が20%にまで上昇
昨年12月にインプリメントを行い、今年2月にはメールマガジン配信の検証を開始した。東京商工リサーチでは、すべてのメールマガジンの会員に向けたメールを月に3通配信しているほか、地域やセミナーなどのイベントに合わせてターゲティングしたメール配信も行っている。現在、これらの配信業務はOracle Cross-Channel Marketing上で滞りなく行われているという。ここまでで目に見えた効果があったのが、配信したメールの開封率の向上だ。ごく短期間ながら、開封率が15%から19~20%まで上昇したのである。
「一見わずかな変化に思えるかもしれませんが、メールマガジンの開封率がこれだけ上がるのは驚くべきことです。Oracle Cross-Channel Marketingによってデザインが洗練されたことなども影響しているのではないかと見ています」と、弓削氏は語る。
同社の営業活動において、メールマガジンは重要な位置づけとなっている。それは担当者1人当たりの営業先や調査先の企業数が非常に多いためだ。限られた人員で国内すべての企業を常に見る必要があることから、担当者と顧客との関係がどうしても希薄になりがちなところを、メールマガジンによって接点をつくることで、顧客との良好な関係を築いているのである。
全顧客に向けて毎月配信しているメールマガジンは、与信管理系のハウツー読み物、倒産集計やそのトピックス、海外の景気動向などの3種類。このメールマガジンについて、誰がいつどのリンクをクリックしたのかがわかり、それがスコアリング・モデルに反映されるようになっている。
「質・量ともに、かなり有意義なデータが得られるようになりました」(弓削氏)
導入から検証、運用までマーケティング部主導で進めたものの、操作方法の理解などに関して大きな苦労はなかったという。ただ、一点苦労したのが、先述したスコアリング・モデルの作成だった。企業データを扱っている東京商工リサーチでは、配信先の顧客企業の属性情報にひもづくスコアリング・モデルを作成することにしたが、企業属性の特徴をとらえるのに時間がかかったという。この先、スコアリング・モデルは自社の商材として顧客に提供することも見据えているため、チューニング作業にも手間がかかった。
弓削氏は言う。「スコアリング・モデルは国内全件の正確な企業情報を扱うわれわれにしかできないものであり、またマーケティング・オートメーションとの相性もよいので、自社で活用して効果を上げた後、早い段階で新たなサービスとして展開できればと考えています」
最後に同氏は、今後マーケティング・オートメーションの活用を検討している企業に向けて次のようにアドバイスする。「今、マーケティング担当者はコストに見合う成果を示さなければならない時代になっています。そのためには、正確な企業情報プロファイリングを行い、属性情報と行動情報によるスコアリング顧客をセグメント化し、根拠のあるターゲティングを実現することで、現状より投資効率の良いリード生成と説得力のある営業戦略の実行が可能になるのではないでしょうか」