ネットワーク・デバイスの急速な普及が進む中、企業には、国や言語の異なる消費者それぞれに、最適な形で情報を提供していくことが要求されている。そのために急務とされているのが、グローバルカスタマーエクスペリエンス(以下CX)の向上だ。この分野に特化したソリューションベンダー、SDLジャパン株式会社が2015年3月19日、都内でフォーラムを開催し、CX向上の必要性や市場動向の解説に加え、SDLのパートナーである日本アイ・ビー・エムによる協業事例の紹介、および日本企業のグローバルビジネスを成功に導く最新ソリューションの紹介を行った。

国内外すべての顧客に、最適化されたカスタマージャーニーを

SDLジャパン株式会社 リージョナルバイスプレジデント 本富 顕弘氏

英国に本社を置くSDLは、世界38ヶ国に70のオフィスを有し、グローバルブランド上位100社中79社にCXソリューションを提供している。

「現代の顧客はパソコン、タブレット、スマホなどを利用し、時と場所を問わず情報にアクセスしてくるため、企業はすべてのデバイスにおいて統一されたコンテンツ、共通の体験を提供していくことが重要です」と、SDLジャパンでリージョナルバイスプレジデントを務める本富顕弘氏は語る。

今日、グローバル展開を推進する日本企業では、グローバルWebのガバナンスが差し迫った課題となっている。Webのグローバルおよびローカルでの運用と、本社での管理を両立させなければならない。

また、グローバル展開を成功させるためには、多言語化も欠かせない。本富氏によれば、Web上で一番利用者が多い英語すら27%しか使われていない。つまり英語版のコンテンツを用意しただけでは、27%の顧客にしかリーチできないということだ。

「パーソナルにもグローバルにも、商品の購入前の検討から購入後の評価拡散まで、カスタマージャーニーのあらゆる接点で体験を最適化するというのが、SDLの提唱するCXです。これによって企業は継続的なブランド・リレーションシップを実現できると確信しています」(本富氏)

SDLが提唱するカスタマーエクスペリエンス(資料提供:SDLジャパン株式会社)

それを可能にするソリューションとして紹介されたのが、SDL CXC(Customer Experience Cloud)だ。SDL CXCは4つの柱からなるが、フォーラムではそのうち、SDLが今後日本市場向けに注力する3つのソリューションが紹介された。

1.CXを向上させるデジタルエクスペリエンス - SDL Web(Tridion)、SDL Mobile

「SDLでは、SDL Web(Tridion)のアドオンSDL Mobile を通じて、"次世代の" レスポンシブWebデザインを提案していきます」(同社・細谷氏)

同社 ソリューションコンサルタント
細谷 雄一氏

SDL Tridionは、Webコンテンツ管理システムとして既存のSDLプロダクトだが、ADF(Ambient Data Framework)と呼ばれるアーキテクチャを採用していることが一つの特長となっている。開発者はWebアプリケーションに加え、カスタムの「カートリッジ」を組み込むことで、訪問者のコンテキストデータ(ユーザー情報、デバイス情報、ジオロケーションなど)を活用して、より最適なコンテンツを提供できる。しかも、SDL Tridionは配信環境として、.NetとJavaの双方をサポートしているため、ADFの仕組みを活用することは、同時に、配信環境に依存しない形でコンテキストデータを活用する仕組みを実装できることになる

SDL Mobileは、このADFの仕組みを使ったSDL Tridionのアドオンモジュールだ。一般に普及しているレスポンシブWebデザインのテクノロジに加えてサーバサイドでコンテンツを最適化する仕組みを備えることで、アクセスしているデバイスを認識し、テンプレートを自動選択してレスポンスを構成できる。これによりトラフィック量は削減され、表示パフォーマンスの向上が期待できるとともに、相対的にCDNコストの削減も期待できる。デバイスごとのテンプレートは、SDLがクラウド上で管理・運用するため、開発者はデバイスへの対応負荷も軽減される。表示が遅い、レイアウトが中途半端、バグ修正に追われる…といった従来の課題が、これで一気に解決できる。

また当日は、旧来の手法で開発したWebアプリケーションに、SDL TridionのCMS機能を追加で活用できるDD4T(Dynamic Delivery for Tridion)や、容易にカスタマイズ可能で、デモ版製作を支援するSDL TridionのスターターキットDXA(Digital Experience Accelerator)など、製品の最新情報についても触れられた。

2.技術文書製作・展開の効率化 ナレッジセンター - SDL LiveContent Architect

「あらゆるタッチポイントで最適な体験を提供していくため、SDLはマニュアルについてのソリューションを用意しています」(同社・青木氏)

同社 ビジネスコンサルタント
青木 淳平氏

世界中に製品を供給している企業の場合、文書管理が追いつかない、マニュアルとマーケティング情報の記載が統一されていない、翻訳やDTPに時間がかかりすぎるといった数々の問題が存在する。それを解消するために生まれたのが、技術文書を管理・執筆するためのアーキテクチャ「DITA」だ。

文書を複数の「部品」としてみなし、分割して扱えるため、マニュアルのバリエーションが増えた場合でも、章や段落単位で再利用すれば作業はスピーディになり、表現や説明に食い違いが生じることもなくなる。さらに変換処理による自動組版にも対応している。HTML化すればピンポイントで情報を見つけ出しやすくなり、ユーザーの満足度向上につながる。他にも、独自ビューアー用に整形して出力したり、機器自体にマニュアルを内蔵させたりと、活用の幅は広い。

SDL LiveContent ArchitectはDITA技術文書作成に必要な機能がセットになっており、すでに日本でも200社を超える採用実績がある。ユーザーからは「DTPコストが100%削減できた」「翻訳版作成作業の効率化ができた」といった効果が報告されているという。

一回の執筆で、様々な出力形式に対応(資料提供:SDLジャパン株式会社)

3.迅速かつ低コストで多言語化を図る ランゲージ - SDL WorldServer

「ここ3年ほどの間に、コンテンツの翻訳ニーズが高まってきています。製造業の売上が海外にシフトしていること、海外現地法人が増加していることなどがその要因と考えられます」(同社・伊藤氏)

同社 ビジネスディベロップメントマネージャー 伊藤 研一氏

これに対応するのがSDL WorldServerだ。翻訳依頼作業の多くの部分を自動化・一元化することで、コストと時間の圧縮を可能にする。

翻訳すべきコンテンツ・データを受け取ったSDL WorldServerは、予め登録された各言語の翻訳担当者または翻訳会社に依頼メールを自動発送する。翻訳者は原稿をブラウザのフォームに入力することになるが、翻訳メモリや用語集はSDL WorldServerが一元管理しているため、過去に類似した翻訳例があれば、ブラウザ上で提示される。これにより新規に翻訳が必要な箇所が絞り込まれ、作業時間が短縮することはもちろん、全社的に統一された翻訳を仕上げられる。チェック依頼と受付も同様に自動で行われ、翻訳が完成する。

SDL WorldServerなら、翻訳依頼からチェックまでの殆どが自動化される(資料提供:SDLジャパン株式会社)

人が依頼作業を行うのに比べ、格段に時短が図れると同時に、表現のばらつきや翻訳発注の重複を回避できるようになり、大幅なコスト削減にもつながる。ある大手航空会社では、SDL WorldServer導入後、Webコンテンツ翻訳の70~80%、また某メーカーでは80%以上を効率化できているという。

導入企業の満足度は、パートナー企業との連携強化でさらに高まる

これらのシステムは、既に国内での導入実績もある。商用車や電化製品のマニュアル作成を手がける某企業にはSDL LiveContentが、また大手メーカーのグループ企業には、SDL LiveContentに加えてSDL WorldServerが導入されている。両社とも増え続けるドキュメントへの対応や多言語化、DTP作業からの解放などを目的として、SDLのプロダクトを選んだという。さらに某プリンタメーカーでは、グローバル展開にあたってのブランディング強化やカスタマーリレーションの強化のために、SDL TridionとSDL WorldServerが採用された。

パートナー企業を通じて導入検討が進んでいるケースも多く、リージョナル・セールスディレクターの藤松氏は「クリエイティブや高度なSIなど、強みを持つ企業様にパートナーとして協業していただければと考えています」と語った。

同社 リージョナル・セールスディレクター 藤松 良夫氏

同社 アライアンス&カスタマーサクセスマネージャー 日比 悦之氏

パートナーとの連携強化についても、SDLジャパンは余念がない。今回のようなフォーラムを定期開催して情報提供を行っていく他、SDLジャパンがパートナー同士をつなぐハブ機能を果たす。またSDL Tridionの認定試験をオンラインで受験できるようにするなど、パートナーを積極的にサポートしていくことが、アライアンス&カスタマーサクセスマネージャーの日比氏からアナウンスされ、フォーラムは閉会した。

グローバルビジネス展開に課題を抱えている、成功への道筋を模索しているという企業の方、またはそうした企業への支援をビジネスチャンスにしようと考えている企業の方は、ぜひ一度、SDL CXCの詳細に目を通してみてはいかがだろうか。