パイオニアとブイキューブの合弁会社として設立され、企業や教育機関向けにWeb/ビデオ会議システムや電子黒板システムを展開するパイオニアVC。同社は昨年9月、ビジュアルコラボレーションシステム「xSync Prime」の提供基盤として、IBMのクラウドサービス「SoftLayer」を採用。サービス品質を向上させるとともに、国際間通信に対応した新サービス「xSync Prime Collaboration」としてリニューアルした。
パイオニアとブイキューブの合弁会社として設立され、企業や教育機関向けにWeb/ビデオ会議システムや電子黒板システムを展開するパイオニアVC。同社は昨年9月、ビジュアルコラボレーションシステム「xSync Prime」の提供基盤として、IBMのクラウドサービス「SoftLayer」を採用。サービス品質を向上させるとともに、国際間通信に対応した新サービス「xSync Prime Collaboration」としてリニューアルした。
IBMがSoftLayerの東京データセンターを設立し、パブリッククラウドの国内展開を本格化させたのは2014年12月のことだが、パイオニアVCはそれに先んじてSoftLayerの採用を決め、新サービス構築の基盤として整備した。
ビジュアルコラボレーションに最適なクラウド基盤
競争が激化するパブリッククラウド市場の中でSoftLayerを選択した理由について、VC事業開発部長の佐藤匡弘氏は以下のように話す。
「いくつかのクラウドサービスを評価してみて、最終的にビジュアルコラボレーションに最も適したサービスとして選定しました。決め手になったのは、各国間を結ぶデータセンター間の転送速度が圧倒的に速かったこと、専用線を使ったプライベートクラウドとの安全な接続が安定して実現できたことです」
xSync Primeは映像、音声、アプリケーションの画面を共有してビジュアルなコラボレーションを実現するシステムだ。製造業で使われる設計図や地図といった緻密なデータを共有することを目的に開発されたこともあり、高画質な画面上で遅延のないスムーズなコラボレーションができることが特徴だ。映像や音声の品質が高いうえ、文字や図面などの情報も効率的に伝えられるため、文教分野や金融業界など、さまざまな業界におけるコラボレーションシステムとして利用されている。
「お客さまが機密情報を扱うことが多いシステムですから、品質の高さとセキュリティは必須条件でした。また、製造業を中心に海外拠点とのやりとりが増えているため、安定したネットワーク速度が維持できることもポイントでした」(佐藤氏)
パイオニアの"音へのこだわり"を受け継ぐ製品
そもそも、xSync Primeというシステムはパイオニアソリューションズが開発した「サイバーカンファレンスシステム・プライム」がベースになっている。これは2008年に発売された自動車メーカーの設計エンジニアリングに対応したシステムで、セキュリティと品質が確保されたオンプレミス環境で提供されていた。
佐藤氏は、サイバーカンファレンスシステム・プライムについて、「バイオニアが培ってきた、通信カラオケやタッチパネル型プラズマディスプレイの技術を生かした製品です。"音質へのこだわり"はとても大きく、人の声がまったく途切れずに聞くことができるという点で、一般的なWeb会議システムとは別次元の製品との評価をいただいてきました」と説明する。
2012年には、富士キメラ総研の調査で「国内Web会議オンプレ型」でシェアNo.1を獲得している。2010年に、サイバーカンファレンスシステム・プライムのクラウドサービスとして、「xSync Prime」の提供が開始された。遠隔地の拠点をつなぐ会議においても、まったく音が途切れないサービスとして定評があった。
「コンシューマ向けのWeb会議システムなどを利用するとわかりますが、音声が少しでも途切れると、会議に集中できなくなってしまいます。xSync Primeではそうしたことは一切ありません。また、特に評価いただくのは、多人数でのディスカッションでのシーンです。声の通り方でどこに座っている誰が話したかまでがはっきりわかるので会議がやりやすいそうです」
ディスカッション中に人を特定できるのは、音域を広くとっているからだという。また、英語や日本語、中国語など、言語によって聞き取りやすい音域は異なるが、多言語での会話も問題できるようきめ細かな調整を施しているとのことだ。
SoftLayerの高速かつ高品質ネットワーク回線が好評価
2014年にブイキューブと資本業務提携しパイオニアVCとなってからは、こうした技術の伝統を引き継いだうえで、より品質の高い製品に仕上げていく必要があった。課題になったのは、製造業を中心に進展してきた海外拠点との安全でスムーズなビジュアルコラボレーションを実現することだった。そんななかで、SoftLayerの持つ高速で品質のいいネットワーク回線と専用線によるセキュリティが評価されたのだ。
「音声に注目した場合、コンピューティングやストレージよりも、ネットワークが重要です。その点ではSoftLayer一択と言ってもよい状況でした」と佐藤氏は振り返る。新会社の発足に合わせて評価に入り、2カ月ほどですんなりと結論が出た。パフォーマンステストの結果がよく、オンプレミスで提供してきたシステムを簡単に移行できたという。
顧客に提供するようになってからも、データセンター間の転送速度が速いこともあり、国をまたぐビデオ会議でも音の途切れや遅延はまったく気にならないレベルで提供できている。電話よりも音質がいいという声も多い。佐藤氏は、顧客の声として、こんなエピソードを明かす。
「ある外資系企業のCEOが来日したとき、都内の外出先で突然、海外本社とのスマートフォンを使ったビデオ会議がはじまったそうです。時間がなかったため会議を行いながら、車と電車を使って、お台場のホテルまで移動することにしたそうです。その間、会議が続いていましたが、一度も音が途切れることはなく、評価してくださいました」
新基盤を使って新しいサービスの提供も視野に
また、以前にも増して、国内ユーザーから評価されるシーンが増えたという。特にセキュリティ面を評価する声が多い。
設計図などの機密情報を扱う製造業では、パブリッククラウドのセキュリティに対する懸念は強い。中でも、インターネット回線を使って、マルチテナント環境で提供するといった仕組みでは、いくら安全性が高いとアピールされても、機密情報を扱うシステムの適用対象になることはまずない。
その点で、SoftLayerは専用線や専有領域の提供、物理環境(ベアメタル)環境など、企業ニーズにあったリソースを提供できることが、顧客に対する説得力を持った提案につながった。
「ある自動車メーカーでは、海外拠点のある地域ごとに近いデータセンターを選び、そこにxSync Primeサーバを配置してリアルタイム性の高いビデオ会議の環境を構築しています。仮想サーバの配置や管理は当社で行っていますが、顧客のニーズに合わせて、配置を簡単に変えられるため、サービス品質の向上につながっています」(佐藤氏)
今後は、xSync Primeに他のサービスを組み合わせて提供していくことも検討している。xSync Primeは、コラボレーションを実現するためのモジュールが組み込まれており、他社製のサービスや製品と連携することができる。そうした機能を活用することで、顧客の新しいニーズに応えていく構えだ。