日産自動車(日産)の「新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会」――。新型スカイラインに否定的な「アンチユーザー」だけを集めて試乗会を催し、そこでのユーザー体験をオンラインで共有させるという試みだ。その背景には、ネガティブ・コメントが寄せられたことを性能と世評のギャップを埋めるチャンスと捉え、果敢に取り組む姿勢があった。
後編となる本稿では、日産におけるソーシャルメディアマーケティングの役割と考え方に迫りたいと思う。
体験の共有で新たなブランドを創る
前編にて述べたように、試乗会の参加者全員が新型スカイラインに対する悪印象を好印象に変えたわけではない。だが、そうした結果も、試乗会の結果に「リアリティ」を与える意味では有意義だったようだ。
「試乗会の参加者全員が新型スカイラインのファンになってくれるのが本当は理想なのでしょう。ですが、現実はそう甘くはありませんし、そうならなかったからこそ、試乗会でのユーザー体験がよりリアルになり、他のユーザーから見て魅力的で、共感しやすいコンテンツになったと考えています」(冨井氏)
2015年3月時点、円安の追い風もあり、世界市場における日本の自動車メーカーの業績は好調だ。だが、こと日本国内に限って言えば、国産乗用車、とりわけ軽乗用車を除く小型・普通乗用車の販売台数は依然伸び悩んでいる。
日本自動車販売協会連合会の調査によると、小型・普通乗用車の販売台数は、2013年1月~12月で287万2111台(前年比95.3%)、2014年も286万472台(前年比99.6%)に留まった。また、スカイラインが類する国産高級セダンも日本での苦戦が伝えられ、欧州勢に押され気味とされている。
「とはいえ、スカイラインの性能・機能が、欧州勢の高級セダンに劣っているわけでは決してありません。問題は、型どおりのマス・マーケティングでは、ライバルに比したスカイラインの優秀性がなかなか伝えられないことです」と、冨井氏は指摘する。
「そんな日産車の実力・魅力を、正しく知ってもらうことがソーシャル・チームの大きな役割です。例えば、ソーシャルメディアを通じて、性能・機能をさまざまなかたちで伝え、ときには体験してもらい、それをまた広く共有していただく。それによって、スカイラインなど、日産車の新たなブランドをかたち作っていきたいと考えています」(冨井氏)
お客様の潜在意識に「日産いいね」を
日産におけるマーケティングの本流は、あくまでもマス・マーケティングであって、ソーシャル・マーケティングではない。だが、本流ではないがゆえに、日産のソーシャル・マーケティングでは、型にとらわれない施策を自由に展開することが可能であり、実際にもそうしてきたという。
例えば、ソーシャル・チームは以前、軽自動車「DAYZ(デイズ)」を女性限定で30日間貸し出し、「貸し出した7人中 何人が本当に購入するか」という企画を展開した。また最近では、日産の電気商用車「e-NV200」に、バーベキュー道具一式を搭載した「バーベキューカー」をソーシャル・チームで作成。2月から、その車をベースに「究極のスマートBBQカー」を実現するクラウドファンディングのプロジェクトをスタートさせている。
「マス・マーケティングで電気自動車の魅力を伝えようとすると、どうしても環境性能の訴求に終始していまい、消費者から『それならハイブリッドでいい』と思われかねません。そこで私たちは、バーベキューカーという電気自動車の新たな使い道を提案し、環境性能だけではない、電気自動車の魅力に気づいてもらうおうと考えたわけです」と、冨井氏は語る。
「このように、ソーシャルメディアでは、製品の魅力・機能をさまざまな切り口・アイデアから個別に訴求していくことができ、それら1つ1つの施策に対する反応をとらえ、次の製品企画や開発、マーケティングにつなげていくことができます。そうした足回りの良い活動は、マス・メディアではなかなか実現できないことです」(冨井氏)
日産自動車 マーケティング本部・販売促進部の冨井 祐樹氏 |
ちなみに日産では、ソーシャルチームだけでなく、各自動車ブランドなど他のマーケティングチームも、インターネット上で話題性の高い企画を公開している。
例えば、「日産 X-TRAIL(エクストレイル)」のチームは、エクストレイルを使ってスキー場でピザを配達するという企画を展開し、その映像をWeb広告化した。また、デイズのチームは、デイズに触れた瞬間に女性が早着替えをするという動画を作成・公開し、100万回の再生を記録したという。このように、インターネットでの話題の広がりを見越したマーケティング手法は、ユーザーに対し日産のキャラクターを楽しく印象づけているようだ。
「私たちが志向しているソーシャルメディア・マーケティングには即効性はないかもしれません。ですが、乗らず嫌い試乗会やバーベキューカーのような企画を打ち続ければ、『日産=面白いことをする会社で、いいね』というイメージを、性別・世代を問わずさまざまな層の生活者に持っていただくことができるはずです。そうなれば、例えば、若い世代が車を購入するときに、必ずや日産の存在を思い起こしてくれでしょう。そんな明日に向けて、これからも、最終顧客・ユーザー目線に立った斬新な施策を展開していくつもりです」と、冨井氏は最後にこう締めくった。
【前編】日産的ソーシャル活用 - 新型SKYLINE 乗らず嫌い試乗会、その狙い
【参考】
日産自動車 公式Webサイト
日産自動車公式facebookページ
日産ソーシャルプロジェクト「にっちゃん」
新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会 特設Webサイト
X-TRAIL × PIZZA-LA
30DAYS with DAYZ 特設Webサイト
究極のスマートBBQカープロジェクト 特設Webサイト