新規材料として期待されているヘリセン(複数のベンゼン環がらせん状に連結した分子)の2重らせん構造をわずか2ステップで構築する簡単な方法を、大阪大学大学院工学研究科の酒巻大輔(さかまき だいすけ)研究員と関修平(せき しゅうへい)教授らが開発した。剛直な骨格のため、らせんの向きが安定に保持され、適用性が広い。新しい半導体や光学材料の応用に道を開いた。名古屋大学大学院工学研究科の大学院生の熊野大輔(くまの だいすけ)さん、八島栄次(やしま えいじ)教授との共同研究で、3月16日付のドイツ科学誌Angewandte Chemie International Editionオンライン版に発表した。

図1. 酸化的カップリングによるダブルヘリセン合成(提供:大阪大学)

ベンゼン環をらせん状に連結した分子はヘリセンと呼ばれる。そのらせんは右巻きと左巻きの2種類が存在し、らせんの巻き方に応じて異なる光学特性を示し、新規光学材料として応用研究が進められている。しかし、従来の合成法は厳しい条件下で5~10ステップも工程を経ており、簡単に作れなかった。研究グループは、平面状分子のN-ヘテロペンタセンを酸化的カップリングで直接連結して、市販の化合物から最短2ステップでひとつの分子内に2つのらせんをもつヘリセン(ダブルヘリセン)を構築できるようにした。

図2. 今回開発されたダブルヘリセンには、逆向きのらせんをもった2種類が存在する(提供:大阪大学)

酸化的カップリングは高校の化学の教科書に載っているほど一般的で、さまざまな反応系に広く利用できる。実際には、2つの窒素を有する平面状分子と、窒素と酸素を1つずつ有する平面状分子をそれぞれ反応させて、ダブルヘリセンを作った。合成されたダブルヘリセンは、ひとつの分子内に、右巻きと右巻き、左巻きと左巻きというように、同じ向きのらせん構造をもっていることをX線構造解析で突き止めた。

この2種類のダブルヘリセンをらせんの向きごとに分離することに成功し、逆向きのらせんをもったヘリセンが逆符号の円偏光二色性吸収を示すことも確かめた。通常、合成されたダブルヘリセンは熱でらせんの向きが反転するが、今回合成した分子は二重らせん構造を反映して骨格が硬く、100℃程度の高温でも、らせんの向きを安定に保持できることがわかった。

関修平教授は「有機ラジカル分子の合成を試みていて、変なものができた。その偶然がきっけになってこの方法を見いだした。ヘリセンだけでなく、ほかの非平面性共役系分子の合成にも応用できるだろう。らせん分子はDNAのように向きが安定しているのが重要だが、合成が難しく、コストも高い。この方法なら、安く作れるので、新規材料としてより応用しやすくなる。合成したダブルヘリセンの物性を詳しく研究したい。ヘリセンは圧力でらせんがバネのように伸び縮みできるため、圧力に応答する半導体も作れる」と話している。