当たり前のように感じていた平穏な日常を取り戻すために
2011年3月11日、未曽有の天災が東北・関東地方を襲った。「東日本大震災」。東北地方を中心に多くの人が被災し、取るものも取り敢えず襲いくる津波からの避難を余儀なくされた。そんな当時において、それまで当たり前のように感じていた平穏な日常をいち早く、被災地でありながらも取り戻す努力を人知れず続けてきた企業がある。総合スーパーで有名な「イオン」のグループ会社で、主に各地のイオンの「施設管理」「警備保安」「清掃」を手掛けるイオンディライトだ。
震災からの復旧に際して、最前線に立つのが施設の「安全・安心」を担う同社だ。宮城県気仙沼市にあるイオン気仙沼店は、震災時、最大2.8mの津波が押し寄せ、店舗1階が、がれきやクルマにより、完全に埋まってしまうという事態に陥った。同店は海からは少し離れていることもあり、地震が収まった後に、店内に荷物を取りに戻ろうとした従業員が殺到、人があふれたために、イオンディライトのスタッフが通用口を閉め、店外屋上への避難誘導を開始。まだ逃げ遅れた来店者が居るかもしれない、という危惧から、店舗の裏まで熟知しているイオンディライトのスタッフのみで店内の見回りを行った後、押し寄せてきた津波に追われるギリギリのタイミングで屋上へと続くスロープを駆け上がった。
同社東北支社 気仙沼センター センター長(当時)の永野朗氏は、津波が引いた後の惨憺たる様相となった店舗を見て、「水浸しの店を放って出ていくわけにはいかない」と感じたという。すぐさま同店の補修などを目的に、全国より同社スタッフが支援に訪れ、当たり前の毎日を取り戻すための取り組みが進められた。その結果、同店はまだ1階のがれきの撤去が終わっていない2011年4月1日に、屋上にテントを設置し、発電機などを稼働させる形で、仮営業の形ながら、営業を再開するところまでこぎつけることができた。営業再開日となった4月1日は、多くの人が買い物をするために列をなした。「朝から多くのお客様が来店され列をなす姿を見て、地域の重要な生活インフラとしてのイオンの役割をあらためて実感しました」と永野氏は当時を振り返る。
快適な避難生活の実現に挑んだ後方支援のプロフェッショナルたち
一方、イオンモール石巻店は、店舗へのダメージがなかったことが幸いして、震災後2週間にわたって約2500名もの被災者を受け入れる臨時避難所として機能することとなった。そんな避難所生活は、技術力や現場力で業界トップクラスの力を有する同社がこれまで蓄積してきた治安・清掃・施設管理といったすべての分野での専門性が改めて求められることとなった。多くの人々が生活を続けるうえで、水道や電気といったライフラインの復旧はもとより、エレベータが壊れていたり、余震によるスプリンクラーの配管破裂など、施設の修理などはやはり専門的な知識がものをいうためだ。そうした避難生活の快適性の向上に向け、「やはり衛生面は言い表せないくらい苦労した」と同社の同店責任者である伊藤敏明氏は当時を振り返る。「とにかく被災者の方々の居心地を意識して、清掃や落下物の撤去などを随時行った」(同)という。
しかし、そうして活動する同社のスタッフたちも、家族が行方不明になったり、仲間が命を落としたりした被災者であった。そんな環境下でも、彼らは連日、清掃などを行っていくことで、避難してきた被災者たちの居住性を向上させたいという想いが、彼らを突き動かしてきた。そうした想いを支えたのが「後方支援に徹しようという使命感」だと伊藤氏は語る。確かに、清掃や点検といった仕事は一見して表に見えない地味な仕事だ。だが、それなくしては快適性を得ることはできない。「この仕事に入ってから、設備・警備・清掃というのは後方支援隊と思って働いてきた。決して派手ではないが、快適な空間を提供するのが我々の使命」という想いを胸に、あくまで安全・安心を提供するという使命感、そしてその道のプロフェッショナルとしてのプライドが彼らを突き動かしていた。
地域社会への貢献に向けた利用者への「安全・安心」の提供
被災地での奮闘に加え、被災地で不足する資材の調達や自動販売機への商品の充填などの後方支援も各地で進められた。「安心してお客様が買い物をできる状態をすぐに復旧する」という同社が掲げた目標に向かって、例えば、震災直後より飲料水のペットボトルは通常の2倍近く入手するよう手配を進めた結果、関東や東北地方で品切れの自販機が続出する中、同社が提供する自販機では、ギリギリであったとするが、最後まで品切れをすることなく飲料水の提供が続けられた。
また、同震災を契機に、イオングループ全体としてのBCP対応の強化も加速しており、そうした店舗の耐震補強工事なども同社が担当しているという。
あれから4年。東北各地で営業を続けるイオン各店には連日、多くの人が訪れるようになった。来店した人たちが1人でも多く、安全・安心・快適な環境で買い物をできるようにするべく、今日もイオンディライトで働く人々は自分たちがそうした環境を生み出すという強い想いの下、活動を続けている。同社の名前は決して、買い物客からは見えないかもしれない。しかし、平凡で当たり前な毎日を陰ながら守り続けることを目指し、今日も彼らは、高い安全・安心の実現という使命感と誇りを胸に、仕事に取り組んでいる。
Youtubeに掲載されている東日本大震災での同社の社員の奮闘ぶりを伝える動画「3.11揺るがなかった「誇り」と「使命感」」。あの日、イオンの店舗と従業員、そして来店客はどういった状態に陥り、それに対し、イオンディライトの社員たち(イオンディライトピープル)がどのようにして、当たり前のように感じていた平凡な日常の再開に向けて取り組んだのか、といったことを視聴することができる |