がんの進展に関与しているとされる線維芽細胞の中の重要な細胞内シグナル伝達系のひとつを、名古屋大学大学院医学系研究科の高橋雅英(たかはし まさひで)教授、浅井直也(あさい なおや)准教授、榎本篤(えのもと あつし)准教授らが解明した。がんの進展には、がん細胞だけでなく、周りの線維芽細胞の活性化が大きな役割を果たしている。その一因となるシグナル伝達を突き止めたもので、がんの治療法開発の新しい標的になるという。名古屋大学循環器内科の室原豊明(むろはら とよあき)教授、山村由美子(やまむら ゆみこ)客員研究員らとの共同研究で、3月2日付の米科学誌キャンサーリサーチに発表した。
がんの増殖、浸潤、転移などの進展では、さまざまな増殖因子やサイトカインを分泌する周辺の微小環境の影響に、関心が最近高まっている。研究グループは、多様ながん細胞で発現しているタンパク質のAktがリン酸化するガーディンに着目して、ヒトの乳がん組織とその周辺を調べた。Aktによるガーディンのリン酸化に伴うシグナル伝達が、乳がん細胞以外に、周りのがん関連線維芽細胞などにも発現して、活性化していることを確かめた。
次に、マウスの皮下にがん細胞を移植して影響を調べた。ガーディンがAktで活性化(リン酸化)しない変異型マウスでは、野生型マウスにがん細胞を移植した場合に比べて、がんの増大が抑えられ、がん関連繊維芽細胞の数も少ないことがわかった。また、Aktによるガーディンの活性化を障害させたマウスから得られた線維芽細胞とがん細胞を共にマウスに移植した実験でも、がん増大が抑制された。一連の実験から、がん関連線維芽細胞内のAkt-ガーディンのシグナル伝達が盛んになって、がん進展を促すことがうかがえた。
高橋雅英教授は「がん組織では、Aktによるガーディンのリン酸化が報告されていたが、がん関連線維芽細胞で、このシグナルの関与がわかったのは初めて。がん細胞自身と線維芽細胞に同じように効く治療薬ができれば、効果がより高いだろう。がん細胞だけでなく、周辺の微小環境を対象にした治療の戦略を示す発見として意義がある」と話している。
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