ERPの中でも会計や人事システムは、そのデータの重要性からいわゆる自社内にサーバを構築するオンプレミスでの運用が従来の常識とされていた。しかし、ここ数年で徐々に状況は変わり始め、クラウド化を望む声が多く聞かれるようになってきている。
この変化にいち早く反応したのがスーパーストリームだ。スーパーストリームは会計、人事・給与に特化した「SuperStream-NX」シリーズで中堅から大手市場に大きなシェアを持っている。会計、人事も含めたERPのクラウド化の流れを予測し、2011年からクラウド対応を進めている。
こうした背景には「クラウド」という考え方が一般化してきたこともあるが、大きな推進力となったのはAmazon Web Services, Inc.が提供する「アマゾン ウェブ サービス」、いわゆる「AWS」の提供開始によるところも大きい。今回はこの2社による、「ERP+クラウド」がもたらす、企業の改革について対談していただいた。
クラウドの都市伝説
――まずはクラウド市場についてお二人の率直な意見をお聞かせください。
小島氏 私たちは日本でAWSをより多くの人に使っていただくために、さまざまな支援活動をしています。クラウドの市場は確実に広がっていますが、一方でいまだに「クラウドは危険」「怖い」というイメージを持つ人もいるのです。ですから、そういうクラウドにまつわる都市伝説を払拭するのも私の役目ですね。
山田氏 弊社SuperStream-NX既存7400社のお客様の中にも、近年では「SuperStream-NXはクラウド対応しているのか?」「会計などの重要な企業情報をクラウドに置いてセキュリティ面は大丈夫だろうか?」等のご相談が増えました。やはりクラウドに強い関心があるユーザー様は多いと実感しています。
小島氏 クラウドというと、「セキュリティや可用性が不安で基幹業務には使いたくない」という方もいらっしゃいます。しかし、自社で構築したセキュリティよりも、クラウドの方が厳重なのが一般的です。例えばAWSでしたら、世界最大規模のeコマースである「Amazon」が使っているのですから、それと同じセキュリティレベルを適用できます。
山田氏 お客様からすると、具体的な事象があるから不安という訳ではなく、いわゆる”なんとなく不安”という漠然たる思いなのが本音なのでしょうね。
小島氏 AWSの日本のデータセンター群(東京リージョン)は、実は東日本大震災の1週間前にローンチしたのですが、震災直後に世間で輪番停電やデータセンター自体の損傷等があったのに対し、東京リージョンは問題なく稼働し続けました。こうした実態を見ていただければ、AWSのセキュリティや安全性においてご理解いただけるのですが、問題はそうした事実をご存じない方や、つまり一度もクラウドを使ったことが無い方々が、そういう都市伝説に振り回されているということです。
山田氏 あとはシステムの業務領域によっても違いますよね。例えばCRMやSFAはSalesforceを代表するように既に日本市場でも十分クラウド化が浸透しています。しかし、ERP分野となると企業の「ヒト・モノ・カネ」という重要な経営情報を扱うシステムなので、クラウドに出すことを懸念される方もおられます。ただし、顧客データはクラウド基盤の外に出しているのに、自らの財務や人事の経営データは外へ出したくないというご判断には違和感を覚えます。
メリットが多いERPのクラウド化
――では、実際にERPをクラウドへ移行することのメリットは何なのでしょうか?
小島氏 まずはバックアップではないでしょうか?AWSでは定期的にクラウドストレージに自動的にバックアップをとることができます。しかし、お客様が自らリアルタイムにバックアップを実行しようとすれば、システムや運用ルール、それに対応する人件費なども発生します。実は、クラウドのメリットは機能面で語られることが多いのですが、こうした運用面での長所はあまり発表されることがない部分ですよね。
山田氏 オンプレミスだと、バックアップの為にテープ・DATが必要ですし、サーバのディスク容量が不足してくれば別途、追加・交換も必要です。そもそもメンテナンスやバックアップ部分からシステム部門の方が解放されるのは非常に大きいですよね。
小島氏 いわゆる、ハードウェアの更新タイミング、アプリケーションの更新タイミングを切り離すことができるんですよね。これは非常に大きなメリットで、例えばサーバの入れ替えなどでは、ハードウェアのコストや工数もかかりますし、それにともなう期間や人員も必要になってくるうえ、システム自体は従来と同じ、という事にもなりかねません。それがクラウドにすることでこうした生産性のない作業から解放され、コストやリソースの削減につながるのです。
山田氏 ハードウェアも日々進化しますから、今最新型の64bitのサーバを購入したからといって、いずれ数年後には古くなります。老朽化するたびにERPシステムの引っ越しや再構築をしていては非常に大変ですよね。
小島氏 実はAWSはインテルと協業している関係で、常に最新のチップを搭載した仮想サーバ環境を利用できるといったメリットがあります。
山田氏 なるほど。仮想サーバ(Amazon EC2)のストレージにしても、以前はHDDだけでしたが、今ではSSDも選択できます。当然ながらSuperStream-NXではSSDのクラウド基盤で動作すればパフォーマンスに著しい改善効果があることが実証できています。
小島氏 さらに、任意に新しいハードウェアに切り換えることもできますし、その他にもスペックダウンというのも可能です。例えば、初期に想定したスペックで運用を開始したところ、ピーク時でもそのスペックは必要なかったといった場合に、すぐにスペックダウンすることができます。それだけで大きなコストカットができます。
山田氏 そうしたサーバのスペック変更も、ブラウザやスマートフォンで24時間どこからでも操作・変更できるのがAWSの魅力ですよね。ERPの世界でいうと、それが新しい運用の発想に繋がるのです。例えば、会計システムならば、外部データからのバッチ連携や締め処理、消込処理など重たいシステム処理の時にリソースを増やす。人事給与システムならば、給与計算のピーク時だけハードウェアを増強させる。そして利用していない深夜の時間帯などはコスト削減の為にサーバを止めてしまう、といったスケールに対する新しい発想や運用もクラウドなら可能になります。
小島氏 いわゆる「打ち手が多くなる」というのがクラウドのメリットの1つですよね。サイジングが合わなかった、となればオンプレミスでは修正不可能ですが、クラウドならすぐに対応できる。よく「クラウドで運用していて、何かあったらどうするの?」って言われるのですが、その”何か”に対応する手段は、むしろクラウドのほうが多く可用性に優れているのです。
ERP+クラウドがもたらす顧客満足度向上のビジネスサイクル
――今までのお話を聞く限り、クラウドを利用しない手はないように感じますが、パートナーやエンドユーザーへはどのように理解してもらい、安心してご利用いただこうとお考えですか?
山田氏 弊社では、2013年よりAWSやIIJ GIO、Azureを含めたIaaS/PaaS基盤におけるSuperStream-NXの動作検証を行ってきました。中でもAWSはまったく問題無く動くことが検証できています。2014年の4月にはパートナー様へAWSの正式保証を開始することを宣言し、またパートナー様の技術者向けにSuperStream-NX on AWSのためのトレーニングも実施しました。さらに同年9月には、市場のユーザー様へもAWS上での運用を保証することも改めてプレス発表しています。
小島氏 メーカーであるスーパーストリーム様が保証していただけるのは、クラウドの認知向上にも大きなメリットになります。あとは事例ですよね。大きな会社様がAWSを使っているという事例を見せると、「あのセキュリティに厳しい○○社が使っているなら安心だ」という心理が働きます。
山田氏 SuperStream-NXのクラウドとしては、AWSを代表する「IaaS/PaaS環境」の上にSuperStream-NXを稼働しているお客様と、パートナー様がIaaS/PaaSに加えてソフトウェアも含めトータル提供している「マルチテナント環境」のクラウドの2種類があります。そのいずれにおいても対応できるよう、さまざまな動作検証を行って参りましたので安心してご利用頂けます。また、弊社自身も自社の開発環境や各種情報管理、サポートシステムなどはAWSで稼働させています。つまり、我々自身がユーザーでもあるので、自信を持ってお客様にも推薦できるところもあります。
小島氏 そもそもAWSはeコマース事業をいかに楽に運用できるかという部分を掘り下げていくことで出来あがったシステムです。皆様に安心して利用してもらい、楽になった部分を革新的なクラウドの使い方の発掘に役立てて欲しいですね。これまで食わず嫌いだった方々もぜひ一度試してほしいです。
山田氏 私共としては、自分達が日々心を込めて作っているSuperStream-NXが心地よく、快適に動くことが一番重要であり、その場所がクラウドであれば新しい運用の発想も踏まえ、向いていると考えています。すでに多くのユーザー様が、AWSを始めとするクラウド上にSuperStream-NXを置いて運用いただいています。弊社にも、クラウドERPのノウハウが溜まっていますので、是非気軽に相談してほしいですね。そして、ユーザー様のシステム部門に、従来サーバ管理や運用に割かれていたリソースを解放することで、時間を有効活用し、新たな顧客満足度向上を生み出すビジネスサイクルを築き上げていただきたいと思います。
――ありがとうございました。