1. はじめに

テレダイン・レクロイは、最先端のモータ・ドライブの研究/開発に求められる多角的な解析を1台でこなすモータ・ドライブ・アナライザを発表しました。

地球温暖化対策の一環として、全世界で省エネルギー化が進められていますが、鍵となる技術としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などのパワーデバイスの高性能化、モータの高効率化などの要素技術もさることながら、PWM(パルス幅変調)を基本としたインバータ回路の最適制御も大きな課題とされています。図1には、代表的なモータ・ドライブのブロック図を示しましたが、複雑な制御を行うために高性能なマイクロ・プロセッサを用いていた一種の組み込みコントローラと見ることができます。モータ・ドライブ・アナライザは、すべてのブロックの評価を1台でこなすことができます。

図1:代表的なモータ・ドライブのブロック図

従来、モーター・ドライブのパワー解析は、パワー・アナライザが用いられてきましたが、元々はスイッチング技術を用いる前の低い周波数の動作を前提とした測定装置です。測定精度は高いものの、高速のスイッチング動作の解析などは、より高速の測定器であるオシロスコープに頼らざるを得ませんでした。また、定常運転時の測定が対象で、負荷の急変などの動的な測定はできませんでした。

2. 優れた基本性能 - 12ビット高分解能と8チャンネル入力

テレダイン・レクロイは、すでに定評のある2.5GS/s、12ビット高分解能デジタル・オシロスコープシリーズに8チャンネル機「HDO8000」を追加、三相モータ各相の電圧と電流を同時に12ビットの高精度で捕捉することができるようになりました。2.5GS/sの高速サンプリングと最高1GHzの広帯域に加え、各チャンネル最大250M点までのロングメモリを搭載可能なので、10MS/sのサンプリング速度で25秒間信号観測することができます。こうした優れたハードウェアをプラットフォームとして、モーター・ドライブ・パワー解析ソフトウェアを搭載した専用解析機モーター・ドライブ・アナライザ「MDAシリーズ」が開発されました(図2参照)。

図2:モータ・ドライブ・アナライザ「MDA810」

3. 多様な用途に柔軟に対応する直感的なユーザーインタフェース

モータ・ドライブには数種類の結線方法がありますが、MDAシリーズではそのすべてに対応しているだけでなく、図2のように選択した結線方法に応じた結線図が示され3つの電圧、3つの電流の誤接続を防ぐ工夫がなされています。また、電圧や電流の設定を1つのチャンネルで行うと、他のチャンネルにも同じ設定をコピーする機能なども複数信号の設定を簡便化するのに有効です。

図3:MDPAのモータ・ドライブ接続設定メニュー

また、ライン間電圧計測の際には、ライン-ニュートラル電圧への変換が行えるので、各相の計測ができるようになっています。さらに、各相で計測された電圧と電流を用いて、実効電力、無効電力、皮相電力、力率、位相などを計算することができますが、こうした計算結果は、表形式で表示させることができますが、その配置は非常に簡単に設定することができるように工夫されています。しかも、こうして得られた電力値は、業界標準のパワーアナライザの計測値と高い相関を持っていますが、それも12ビットの高精度ハードウェアの恩恵によるものです。

4. デバッグに役立つ過渡現象の動的解析機能

上記の計測は、従来のパワーアナライザで可能なものですが、MDAでは、特定の計測値に対して、その値の時系列変動をグラフにして表示する機能があります。

図4:モータ・パワーの時系列変動

図4は、2電力計法によりドライブの入力と出力の電圧、電流、実効電力、皮相電力、無効電力と力率、位相および効率を表形式で示していますが、その計測値の中から、入出力のそれぞれ実効電力と力率および入出力効率を選択して、各瞬時の計測値を時系列変動としたグラフにすることができます。図4では、モータが動作をはじめて以降の実効電力と力率の変動をグラフ化したものです。この機能はテレダイン・レクロイ独自の機能で、この例では、起動時に電力がスムーズに増加していないことを明確に示していますが、過渡的な現象における回路の振る舞いを動的に解析把握することができます。

5. 作業効率を低下させない視認性の高い表示技術

アナログ8チャンネルとデジタル16チャンネルに加えて、演算結果などの多くの情報を表示すると、視認性が損なわれ、特定の信号の認識が困難となり作業効率が低下します。MDAでは、Qscapeと呼ぶ新たな表示方式を採用することで作業効率を大幅に高めることに成功しました。Qscapeは、信号を4つのグループに分け、グループごとに信号をまとめて表示することができます。従って、三相のU相、V相、W相の電圧、電流、および電力の波形をまとめて表示することで信号の帰属を明確にすることができます。また表示方法は、グループの信号を単独で表示し、タブでグループの選択をする方法や、2つのグループを並べて表示し、グループ間の差異などを計測することができます。図5にはその様子を示していますが、DCバスの電圧と電流、ドライブ出力の電圧と電流、モータの機械出力、およびトルクと回転速度の変動グラフがそれぞれグループとしてまとめて表示されています。

図5:DCバスの電圧と電流、ドライブ出力の電圧と電流、モータの機械出力、およびトルクと回転速度の変動グラフを別箇のグループとしながらまとめて表示することが可能

6. デジタルからメカニカルまでトータル・サポート

MDAには、16チャンネルのデジタル入力がオプションで用意されていて、アナログ入力の1GHz帯域と合わせて、高速のマイクロ・プロセッサ信号解析に役立ちます。さらにオプションのシリアル・デコード機能は、SPIやI2Cのデジタル・インタフェースの解析に威力を発揮します。上記の例で示したように、ホールセンサやロータリー・エンコーダの計測にデジタル入力が対、モーター・ドライブ解析をトータルでサポートすることができるようになっています。今後も求められるモータ・ドライブさらなる高性能化を強力に支援します。

著者プロフィール

辻嘉樹
テレダイン・レクロイ・ジャパン
技術部
アカウント・マネージャ
1990年の会社設立時から、オシロスコープを用いたアプリケーションに関する記事の執筆、セミナーの講師を続けている。

パワエレ効率化を支援するモータ・ドライブ解析テクニカル・セミナー

テレダイン・レクロイ・ジャパンでは、モータ・ドライブ解析用オシロスコープ「MDA800シリーズ」の機能などを紹介するセミナーを3月6日に以下の概要にて開催します。
日時:2015年 3月 6日(金) 14:00~16:00(受付開始 13:30~)
会場:パレスサイドビル 東コア2F マイナビルーム X(東京都千代田区一ツ橋1-1-1)
定員:28名
参加費:無料(事前登録制)
主催:テレダイン・レクロイ・ジャパン
申込み:テレダイン・レクロイ・ジャパンWebサイトより