成長を続けるソーシャル・ネットワーキング・サービスFacebook。その社員はどのような職場環境でいかなるキャリアを形成しているのか。Facebookの日本法人Facebook Japanを訪ね、APACセールストレーニングマネージャーを務める池上 信子氏にお話をうかがった。
池上氏はグローバルIT企業でのセールストレーニングプログラムマネジメントなどを経て、現在はFacebookにてAPAC(アジア太平洋地区)のセールストレーニングを担当している。2014年6月により同社でのキャリアを開始した池上氏。職場としてのFacebook Japanとそこでのキャリアとはいかなるものなのだろうか。
各国のマーケットに合わせてトレーニングを展開
――まずは、お仕事の内容をご紹介いただけますか。
基本的に、新入社員の方たちの教育です。営業についてのトレーニングが中心なので、営業の人達が知るべきことに特化したトレーニングを行っています。弊社の製品についてのトレーニングや、どういうふうに営業スキルを伸ばしていくかのトレーニングも行っています。
アメリカでトレーニングプログラムのチームが動いているので、そのプログラムを日本に限らずAPAC(アジア太平洋地区)というリージョナルな領域で展開していくというのが私の主な仕事です。各国のマーケット独自のニーズもあるため、そのニーズに答えるためのトレーニングを作ることもしています。
――Facebook Japanに来られるまでのキャリアを簡単にご紹介いただけますすか。
ずっとIT系で、大学を卒業してから4年くらいはパートナービジネスのオペレーションに関わっていました。当時はトレーニングをするとは全く考えていなかったのですが、声をかけていただいたのがこの分野に携わるきっかけとなりました。そのまま2社でトレーニングを経験しています。その間にコーポレートコミュニケーションなども担当したのですが、基本的にはトレーニングをそのまま続けています。
――これまで他のグローバルIT企業で働いてこられた経験はどう生かされていますか。
今までのキャリアの中で、アジア全体を見ている時間が長かったので、そういう意味でのスケール感は基本的に変わっていません。同じIT業界でも、プロダクトが変わるとトレーニングも違うのかと思っていましたが、大きなテーマは変わらないんです。
販売スキルというのはプロダクトに関係なく、お客様のビジネスを伸ばすためにはどうすれば良いのかというところに尽きるので、今までのスキルを活かして、弊社で働けていると思います。
本当に"open and connect"な会社だった
――Facebookに来られてみて、職場環境はいかがですか?
本当にオープンなことに最初驚きました。会社も"open and connect"とは言っているのですが、それを肌で感じています。入社直前には、いろいろな人から"Welcome to Facebook"みたいなメッセージが来ていましたし、入ってからもFacebookの友達リクエストが来ました。
今までの会社ですと、「オープン」と言ってもそこまでオープンではなかったのですが、この会社は本当にオープンですね。あとは、同僚とFacebookでつながっているので、趣味や休日など、仕事以外でどういうことをしているのかが自然と見えてくるんですね。すごいスピードでそういう情報を知れたので、あまり普段合う機会がない方も身近に感じています。実際に会うと「この人のこと、すごく知っている!」みたいな(笑)。
――それはまさにFacebookならではですね。社員の方たちにはどういう印象を持たれましたか。
時間はたっているんですけれども、まだスタートアップの良い雰囲気が残っていて、仕事をしていても恐れずに発言をしたり、「こういうことしてみようよ」と言ったりしています。
会社が大きくなるほどそういう発言は難しくなると思うんですが、その感じがありません。性格的にシャイな方たちにとって、発言することは最初勇気がいると思うんですけど、発言していかないと何も起こらないので、合っていても間違っていても関係なく物事を口に出して言っていこう、というカルチャーがありますね。
社員については、はっきり物を言う人達という感じがしました。「"楽しく仲良く"と聞くけれど、中に入ってもそうなのかな?」と入社前に思ったこともあったのですが、あまりにもその印象のままだったので驚きました。
どこの会社でもネガティブな雰囲気になることはあると思うんです。でもそのときに、「じゃあどうする?」と入ってくる人が必ずいるので、ネガティブな雰囲気も長くは続かないんです。社員も人間だから絶対に文句も出るしいろいろあるけれど、それを打開できる感じがしますね。
――これはFacebook Japanならではという社内の環境はありますか。
社員向けのイベントがすごく多いですね。家族を呼んだファミリーデーなどのイベントや、社員が参加するパーティーの頻度が今まで務めてきた企業よりも多いので、すごく驚きました。ただ、それによって入社後短期間でも社員同士でコミュニケーションが取れるようになりますし、社員の家族とも知り合うことができました。それはFacebook独自だなと思いましたね。
あとは、オフィスに食べ物がいつもあるんです。私は上司から「家でも働いていい」と言われているんですけど、オフィスにいたほうが食べ物がある……(笑)。すごく居心地が良いので、オフィスに行きたくなりますね。
「きちんと待ってから発言する」日本の文化的特徴
――リージョナルな規模でお仕事をされている中で、日本と海外での組織風土の違いを感じることはありますか?
例えば、日本と韓国は社員が退社する時間がすごく遅いですね。オーストラリアやアメリカですと、自分の生活に合わせてある程度仕事の時間を決めている傾向があります。朝早く来て、なるべく早く帰ってお子さんをピックアップして、ご飯を食べて、それからまた家で仕事を始めるというスタイルもあるんです。
シンガポールでは、5時になったらみんなでサッカーをしに行くということも週に何回かありました。どちらが良い悪いの話ではなく、仕事のやり方や時間の配分の仕方については、各国でずいぶん差があると感じますね。これは会社というより、国によっての違いだと思います。
――それでは、トレーニングをされている中で、日本と海外の社員に違いを感じることはありますか?
日本に限らず、アジア各国でビジネスの状況が違います。そのため、同じゴールを目指して同じトレーニングプログラムをするとしても、導入の仕方は各国で全く違うんですよ。
例えば、オーストラリアだったら、英語のままで元のプログラムとあまり変えずにできるんですが、日本に関しては、まず言語の部分でどこまで日本語化できるかが問題になります。言語以外に、実際のビジネスでのニュアンスも変わってきますので、同じプログラムでも各国で導入方法を変えなければならないのです。
――Facebook Japanでのトレーニングで印象的なエピソードなどがあれば教えてください。
最近、日本のチームメンバーと韓国のチームメンバーを集めてひとつ大きな研修をしたのですが、発言したいことがあっても最後まで待って、時間になってから発言するというのが他の国とは違うと感じました。
他の国だとトレーニング中にフィードバックが始まって、「ちょっと待って」となることもあるのですが、フィードバックもトレーニング終了後に持ってきます。
今は他の国でもトレーニングを担当しているので、日本に戻って来ると、きちんと待ってから発言する、考えてから形にして持ってくる、という文化的な特徴を実感します。一般的に日本人は静かと言われるかもしれませんが、静かというよりは考えてから持ってくる時間が違うだけなのではないかという感じがしますね。
――トレーニングにおいて、どちらが良いというのはあるのですか?
結果は変わらないのではないかと思います。あとはその質問やフィードバックを聞き出すというのはトレーニングを行っている者の責任でもあるので、私達も引き出すようにしています。それがわからないまま終わってしまうとチームの失敗ということになってしまうのです。
――中長期的にトレーニングをされているようですが、それにはどのような意味があるのですか?
入って半年くらいの間は、確実にトレーニングチームで責任を持ってトレーニングをやらなければならないんですね。というのも、マネージャーの方も同期の方も周りの方たちも時間がないというのがあるからです。
しかし、その後のトレーニングに関しては、私たちのトレーニングチームからマネージャーをどんどん育成して、長期でどのようにチームをトレーニングしていくかというところに注力していけば良いと考えています。
私たちも会えたとしても1カ月に1回くらいなので、近くにいるマネージャーの人達にコーチになってもらう方が、長い目で見ると会社としてはきちんとしたトレーニングプランを組めるのではないかと思いますね。
間違いをしても、それから学べる環境
――トレーニング担当者の目に、営業の方たちはどう映っているのか教えてください。
ある意味私も営業だと思っています。なぜなら、私にとってのお客様が営業の人たちなんですよ。トレーニングの対象となる方たち全員がお客様になるので、お客様のビジネスを理解して、その中でどういうふうに進めていくのかが課題です。
私にとってはトレーニングが"製品"なので、その製品が私のお客様である営業の人達のビジネスを伸ばすのにどう役に立つか、というアプローチをしています。そういう意味では、製品は違っても全く同じことをしていると思うんですね。それは常に意識しています。
「こういうトレーニングをしてほしい」というリクエストがあっても、そのままの形ではやりません。営業の方たちが目指しているところにどれだけ近づけるかという視点だけで見たときに、トレーニングだけでは解決できない問題がすごく多いので、それをはっきり申し上げて、「こういうことをしたら良いんじゃないですか」と提案しています。
もちろん何かをやれば小さなインパクトはあると思うのですが、その時間を使ってそのトレーニングをやるのと、同じ時間を使って違うことをやるのと、長期的に考えたときにどちらがインパクトがあるかというのを常に考えているのです。
――働いている中で一番やりがいを感じるのはどういう場面ですか?
トレーニングは本当に人と関わるところなので、大きなトレーニングを終わらせたりとか、新入社員向けのトレーニングを1週間かけて終わらせたりした後に、そのトレーニングを受けた人と違う国でたまたま会って、「あの時教えてもらったことがいまこういうふうに生かされている」と聞いた時ですね。自分がやるべきことをやり、芽がちょっと出てきたことがわかるので、本当にやりがいを感じますね。ありがたいことに、その瞬間はすごく多くあります。
――最後に、Facebook にいらっしゃって、「これは良かった」と思うところがありましたら教えてください。
自分が思っているアイデアを順序立てて、きちんとした理由とともに提案すれば、いろいろとチャレンジさせてもらえることですね。新しいこと、今まで思ってもいなかったことにチャレンジるというのもあるので、それはすごく良かったと思っています。
また、誰にでも間違えることはあると思うのですが、「間違ってもそれから学べばいい」という風土があるので、何かやってしまっても、次の対策をすぐに言えば、チームの人が助けてくれる。それはとても良い環境だと思います。
Facebookの理念
同社はソーシャル・ネットワーキング・サービスという人を中心に設計されているサービスを展開している。そのため、社員がいての会社、利用者がいてのFacebookという理念が根本にあるのだという。池上氏が語った同社の環境や働きがいには、その理念が現れていると感じられた。