2013年8月に出現した新星爆発をハワイのすばる望遠鏡で観測し、3番目に軽い元素のリチウム(Li)が大量に生成されていることを、国立天文台、大阪教育大学、名古屋大学、京都産業大学の研究グループが突き止めた。リチウムはビッグバン時に生成されるとともに、恒星や新星、超新星、星間空間などで作られると推定され、宇宙の物質進化をたどる試金石となる元素だが、リチウムを生成・放出している天体が直接観測されたのは初めて。新星爆発が宇宙のリチウムの主要な起源であることを示した観測で、宇宙の元素の起源を探る新しい手掛かりとなりそうだ。国立天文台ハワイ観測所の田実晃人(たじつ あきと)さんらが 2月19日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
水素・ヘリウムに次いで3番目に軽い元素のリチウムはパソコンやスマートフォン、エコカーなどの蓄電池に広く使われている。リチウムの生成は宇宙の始まりのビッグバン以外に、多様な天体や現象に関わって増えていくとみられ、「リチウムがわかれば宇宙がわかる」と言われるほど重視されている。新星爆発が重要なリチウムの起源であると、最近推測されるようになったが、リチウム生成の証拠を直接観測できた例はこれまでなかった。
写真. 今回の新星、Nova Delphini2013の発見画像。上左が爆発前(発見約1日前)、右が爆発後の新星。下は口径60cm望遠鏡による確認画像。なお、この新星はわれわれと同じ銀河系内の天体で距離は約14000光年、爆発前と比較すると最大で15万倍の明るさになった。(クレジット:板垣公一氏) |
2013年8月14日、山形市のアマチュア天文家の板垣公一(いたがき こういち)さんが、天の川の縁にある小さな星座、いるか座に突如現れた新星を発見した。板垣公一さんは超新星を100個以上見つけるなど、世界的な新天体ハンター。この天体は地球から約1万4000光年離れており、発見の2日後に最大光度約 4.3等の明るさに達し、肉眼でも見える明るい新星となった。研究グループはこの新星に着目し、爆発から38日目~52日目の4回、すばる望遠鏡の高分散分光器(HDS)で光のスペクトルを観測し、新星爆発で放出された物質(ガス)の成分を精密に調べた。
スペクトルに、4番目に軽い元素ベリリウム(Be)の同位体7Beの吸収線があった。7Beは、伴星から流入してきたガス中のヘリウム同位体3Heと、白色矮星表面に豊富にある4Heが高温状態で反応して生成されたと考えられる。7Beは53日の半減期で7Liに変わる。今回の観測は、リチウムの「もと」になる7Beが新星爆発で生成される現場を捉えた。7Beが秒速1000キロメートルの爆風に吹き飛ばされていることもわかった。
ここから作られるリチウムが星間空間に飛散し、次の世代の星の材料となるシナリオが浮かび上がった。吸収線の強さから、星間空間に放出されるリチウムの量を計算したところ、放出物質中にはカルシウムに匹敵する量が含まれていることがわかった。微量元素のリチウムとしては破格の量で、従来の新星爆発の理論の予測値と比べて6倍以上にも上った。
新星は、白色矮星と伴星が非常に近くにある近接連星で発生する。白色矮星の表面に伴星からガスが降り積もり、そのガス層が高温・高密度になることで生じる核融合が暴走して起きる爆発現象で、星が一生の最後に華々しく爆発する超新星とは異なり、超新星よりも多く発生する。今回は板垣さんの新星発見が、すばる望遠鏡の観測に引き継がれ、重要な成果につながった。
研究グループの田実晃人さんは「今回の観測で、新星爆発が現在の宇宙でのリチウムの主要な起源であることがわかった。見つかったガス中のリチウムの組成比は理論よりも多く、非常に合成効率が良い。この発見をきっかけに、新星爆発の観測例を増やせば、宇宙のリチウム合成工場としての実体がよりはっきりするだろう。明るい新星であったこともあるが、板垣公一さんの早期の発見報告によって、この新星は世界中の天文学者が詳細に調べることができた」と話している。