1万名を超える国内最大級の税理士・会計士団体「TKC全国会」を運営し、その声をもとに、会計事務所・地方公共団体・中堅大規模企業に向けて、財務会計に特化したパッケージソフトやクラウドサービスを提供しているTKC。全国に数多くの拠点や取引先を抱える同社は、移動時間や出張コスト削減のため、以前から専用端末によるビデオ会議システムを運用していたが、昨年、機器のリプレースなどを機にシステムを刷新した。
今回構築したシステムでは、社内・社外から、ビデオ会議、Web会議、社員のプレゼンスの確認・チャット・資料共有までを実現し、ワークスタイル変革にも効果をもたらしている。この新たなコラボレーションシステムにより、時間と場所を選ばず社員同士や取引先とのコラボレーションが可能となり、移動時間や出張コストを削減するとともに、意思決定の迅速化を実現しているのである。
契機はビデオ会議システムのタイムラグ解消
TKCが最初にビデオ会議を導入したのは2009年9月にさかのぼる。これまでの運用の中で、業務にビデオ会議を活用することに慣れた社員が数多く誕生し、栃木県宇都宮市にある本社と東京オフィス間の意思疎通もスムーズになった。ただその一方で、機器自体は旧式化が進み、とりわけ経営層がタイムラグにストレスを感じるシーンが多く、よりリアルタイムな遠隔会議を可能とする環境構築が叫ばれるようになっていたという。
ちょうど旧ビデオ会議システムのリプレース時期とも重なったことから、TKCでは同じメーカー製の機器を含めて新たなコラボレーション基盤を検討。ネットワンシステムズからの提案なども参考にしながら、最終的にシスコシステムズのテレプレゼンスシステム「Cisco TelePresense」、Web会議システム「Cisco WebEX」、統合コミュニケーション・システム「Cisco Jabber」を用いて、システムを刷新することに決めたのである。
TKC IT投資企画部の部長を務める金森直樹氏は、最終的なシステム選定に至った経緯を次のように振り返る。「自社で利用しているクラウド基盤のサーバがシスコ製だったことなどもあり、同社のテレプレゼンス製品の信頼性の高さは認識しておりました。加えて、ネットワンシステムズから、導入から運用まで一環したサポートが受けられる点も魅力的でした」
こうして、2014年3月初旬に新コラボレーションシステムの企画を経営陣に提出、同年秋までにすべてのシステムがリリースできるよう刷新プロジェクトが進められた。当初のスケジュールでは、秋までの約半年の期間で、まずビデオ会議のハードウェアを導入し、次にPCのビデオ会議システム、最後にWebEXという順番で導入していく予定だった。
しかし、7月に想定外の出来事が発生する。TKC全国会には全国各地に22の地域会が存在しているが、この地域会のイベント開催のために全国22拠点同時に会議を行わなければならなくなったのだ。そこで、予定を変更してWebEXの導入から着手したところ、わずか1カ月で稼働できるようになってしまった。
「あまりのスピード感に、"クラウドの驚異"をあらためて実感しました」(金森氏)
その後は、ビデオ会議システムのハードウェアの入れ替えからPC設置、ソフトウェアのインストールなどの作業を順に終えていき、9月中には全社員が新コラボレーションシステムを使える環境を整えたのである。
社員が楽にかつ楽しく働くためにコラボレーション基盤を活用
TKCでは、コラボレーションシステムの導入と並行して、社員への啓蒙を図るべくワークスタイル変革やユニファイドコミュニケーションに関するワークショップも開催している。
金森氏は言う。「ワークショップはこれまで5回実施しており、今後も続けていく予定です。ビデオ会議などの活用がいかに自分たちの働き方そして生活を変えるのかについて、自ら利用することで実感し始めているという手応えをつかんでいます。やはり、実際に使って効果を実感してもらいながらの地道な啓蒙活動が大事でしょうね」
また、当初は反対意見も出ていたチャット機能も、現場でかなり活用されており評判は良いという。
「導入以前は、チャット機能を入れると会話が減ってコミュニケーションが悪くなるのではといった意見もありました。だけど、いざふたを開けてみればまったく逆でした。日頃からチャットで頻繁にコミュニケーションを行うことで、ほとんど会っていない人同士でも顔を合わせると活発に会話ができてしまう、といった光景をよく目にするようになりました。さらに、仕事中に電話で時間を妨げられることがなくなり、自分の仕事をコントロールしやすくなったという声もよく聞きますね」(金森氏)
こうした社内のコミュニケーション活性化と合わせて、新コラボレーションシステムでは取引先とのコミュニケーション強化も目指している。すでに一部の取引先とはWebEXによるコミュニケーションを開始しており、取引先とTKC社員双方のよりスムーズな意思疎通・情報交換、それに移動時間・コストの低減といった効果が現れているという。
このようにユーザーの利便性を追求する一方で、セキュリティ面や運用面でも工夫を凝らしている。好例がAD(Active Directory)とのID連携だ。TKC社員2237名の管理対象IDとパスワードをADサーバーと連携することで、AD側でアカウントを止めてしまえばコラボレーションシステムも使えないようにしているのである。これにより、アカウント管理を省力化するとともに、退職者がアカウントを使ってしまうなどの事態を防いでいるのである。
TKCで新たなコラボレーションシステムが本格稼働を開始して約4カ月、金森氏は現状について「ビデオ会議やWeb会議、チャット等を楽しく使ってもらっている時期」と表現する。
「私たちはあくまでワークスタイル変革のためのインフラを整備したにすぎません。働き方が変わることで自分たちの仕事がいかにラクに、そして楽しくなるのか──そのことを社員一人ひとりが本当に理解し、自発的に進めていくことが最大のポイントだと認識しています。よって、私たちは、そのための社員の意識の醸成を積極的に支援していきたいですね」と、金森氏は強調する。
TKCでは今後、社員からの要望が増えつつある在宅勤務にも対応するなど、コラボレーションシステム活用を通じて顧客満足度と社員満足度を同時に高めていく構えだ。