ヤフーは2月4日、2014年度第3四半期の決算説明会を開催した。売上高は前年同期比4.7%増で1075億円となり、四半期利益も6.5%増の334億円の成長を見せる一方、新たな取り組みとしてゲーム制作子会社「GameBank」を1月に設立したことを明らかにした。
第3四半期は、2013年第3四半期より開始したeコマース新戦略の影響が一巡。2Qの売上高は前年同期比2.5%増にとどまっていたが、3Qは4.7%増と改善を果たした。
ディスプレイ広告は引き続き大幅な成長、新商品も
業績を牽引したのは広告などを手がけるマーケティングソリューション事業で、前年同期比5.6%増となる756億円だった。広告では、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)とYahoo!プレミアムDSPのディスプレイ広告が19.2%増と好調を維持。PCからスマホへの移行が進む検索連動型広告の2.1%減を補う形となった。純粋に売上規模の推移を見ると、ディスプレイ広告が占める割合は前年同期が35.3%であったのに対し、39.9%まで伸長している。
Yahoo!プレミアムDSPは、大手の広告主約180社が活用しており、サービス単体の売上高が前四半期比で60%以上の伸びを見せた。また、スマートフォン向けリッチ広告の取り組みも強化する。端末を傾けると広告画面が動き、見える範囲や角度が変化する新たな商品の開発も行っており、ヤフー 代表取締役社長 宮坂 学氏は「こうしたインタラクティブな広告など、クリエイティブを強化していきたい」と、「スマートフォンならではの広告」を提供していく方針を語った。
広告関連では、GYOのビデオ広告の伸長やリアルタイム検索のマネタイズにも触れた。リアルタイム検索は、これまで広告を提供してこなかったが、新たに広告枠を設置し、Twitterの広告商品とYDNを掲載していく。
スマホアプリは2.4億DLに
スマートフォンとPCのDUB(Daily Unique Browser)はすでにスマートフォンが過半数を超えており、引き続き拡大を続けている。そうした状況で「PCのブラウザのヤフーから、スマホのアプリのヤフーへ」(宮坂氏)となるべく、アプリの投入を更に加速していく。
iOSとAndroidアプリの累計ダウンロード数は前年同期比で約2倍となる2.4億件で、動画サービス「GYAO」のブランド刷新や「Yahoo!カーナビ」「Yahoo!キーボード」などが特に好調だったという。
また、2Qでも公表していたスマートフォン向けトップページやアプリのタイムライン表示導入を改めて説明。宮坂氏によると「継続的にタイムライン表示のテストを行っており、チューニングを進めて春にはリリースしたい」と、その見通しを語った。
ほかにも、2014年10月に完全子会社化を果たしたカービューのヤフオク連携や、Yahoo!プレミアムの会員数1000万人突破などもトピックスとして挙がっていた。
ゲーム制作子会社を設立
こうした中で、関心を集めた発表が「ゲームパブリッシング事業」の開始だ。
1月16日にゲーム制作子会社「GameBank」を設立し、来期に向けて複数の"コアなゲーム"をリリースするという。
立ち上げには、ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドが参画しており、代表取締役にはヤフーで新規事業開発などを手がけている津幡 靖久氏が就任。取締役にもヤフー 川邊 健太郎氏やインキュベイトファンドメンバーが並ぶ。
ただ、ゲーム制作の"キモ"はゲームに精通する開発者だろう。そこでヤフーから、執行役 COOとして椎野 真光氏が就任。椎野氏はセガ出身の"ゲームのプロフェッショナル"とのことで、2014年に同社へ入社している。
ヤフーはプラットフォーマーとして、これまでDeNAと共同で「Yahoo!モバゲー」などを提供しており、「(Yahoo!モバゲーの愛称である)ヤバゲーもかなり成長している」(宮坂氏)ほどにゲームへの関心がなかったわけではない。
しかし、社内に椎野氏をはじめとする「ゲームを作れる人材が中に増えてきたから、切り出して(ゲームを)作っていこう」(宮坂氏)としたという。
具体的なゲーム内容の公開は来期になるようだが、同日に公開されたWebサイトでは「人とつながると、楽しい」と理念を綴っているように、ソーシャルベースのオンラインゲームが展開される可能性が高いだろう。
質疑応答では個人情報保護法改正案に関する質問も
質疑応答では、ワイモバイルや個人情報保護法改正案に関する質問が投げかけられた。
ソフトバンクがワイモバイルなど子会社4社の合併を発表したが、これの影響について宮坂氏は「特に大きな変化もなく、事業は継続していく」と話し、シナジー効果を今後も最大限引き出していくとのコメントにとどめた。
一方、個人情報保護法改正案は問題が少々複雑だ。
企業が保有する個人情報の利活用、ビッグデータの利活用については様々な議論があるが、とりわけ個人情報の利用目的の変更手続きについて注目が集まっている。
当初はOECD(経済協力開発機構)が定めたプライバシーのガイドラインに近しい内容だったものの、法改正の検討会が出した改正案は内容が変わっていた(パーソナルデータに関する議論については、首相官邸Webサイトに議事要旨などが掲載されている)。
詳しい話は省略するが、利用目的を変更する場合の手続きについて一定の条件を付けることで許可するといった案になっている。
個人情報を取得する際に「将来規約を変更する可能性がある」といった趣旨の内容を記述
変更する内容をWebサイトなどで公表
利用者が望まなければ、個人情報の利用を停止できる手段を用意する(いわゆるオプトアウト方式)
これらの諸手続きを、個人情報保護委員会に提出し、公表方法が適切ではないと判断された場合には、委員会が勧告・命令が下される
委員会を通すことで、企業の行き過ぎた利用目的の追加・変更に一定の歯止めがかかるという声もあるが、利用目的の変更が生じた場合には本人が認知した上での同意が必要という意見が専門家を始め、多くを占める。
それに対して、ヤフーなどのネット企業が所属する業界団体が改正案に近い主張を行っていたことから、記者から質問が飛んだというわけだ。
宮坂氏は、センシティブな議論であるため、細かい内容については触れなかったものの、"大枠"で見た時に「データを上手く利活用することがお客さんにメリットを提供できると思う」と話す。
こうしたデータの利活用は、現在も多くの企業が行っており、それぞれの趣味・嗜好に沿った商品・サービスの提案を行っている。宮坂氏は、法改正によって情報の利活用の在り方が変わることを「利便性を更に高めることに繋がるのではないか」とした。
その一方で、ユーザーが望まぬデータの利活用は行わず、最大限留意する意向も示している。
「こうした過渡期では、変化に対する不安や、気持ち悪いと思われる方がいるのは当然。なので、乱暴にやらず、お客さまと対話して、外部の意見を取り入れながら、バランスが取れたものを作っていきたい」(宮坂氏)